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砂雪姫  作者: 凪沙一人
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第4話 水晶窟のハリー

「そんなものが在るんなら、叩いた方がよくねぇのか? 」

 サンディの質問にフィアーは、そう答えた。ゼノヴァという町は海からは、かなり離れているが鉄の塊が空を飛んでくるとなったら話は別だ。フィアーの普段得物は拳銃であり空を飛ぶものを撃ち落とすには不向きといえる。猟師でもないので鳥すら撃った事がなかった。

「あぁ、説明が足りなかったわね。飛んだり浮いたりする鉄の塊自体は燃料も精製技術も今は無いからいいの。問題は、それに載ってた武器の方。そこで… 続きは店に戻ってからにしましょ。」

 なんとも中途半端なところで話を切られたが、店番を少年に任せたままも気の毒だ。だが、店に戻るとフィアーの心配を余所に少年が暇そうに待っていた。

「お帰りぃ。」

「ただいま。誰か来た? 」

 サンディに聞かれて少年は首を横に振った。それを見てサンディも軽く溜め息を吐いた。どうやら?いつもの事なのだろう。フィアーには、またか、と言っているように見えた。

「しょうがないじゃん。ここの客はサンディがお目当てなんだから。だから、この間の2、3日店を空けるって話さ、休業にした方がいいんじゃねぇ? 」

「それこそ、仕方ないでしょ。ここは酒場だけやってるんじゃないんだから。この町に他に店は無いのよ? 」

 確かに殺風景な町だとは思っていたが、さすがにフィアーも他に店がないとは思っていなかった。店にある食材は、そのまま売り物でもあり、よく見れば雑貨なども置いてあった。

「それから店を空けるって話はなし。あたしの代わりにフィアーに行って貰うから。」

「ちょい待て。何でも勝手に決めんじゃねぇっ! 」

 多分、これがさっきの話しの続きなのだろうとフィアーにも察しはついた。察しはついたが話しの詳細は何も聞かされていない。

「そういえば話しの途中だったわね、悪かったわ。この町の北にある水晶窟に行ってきて欲しいの。」

「町の用心棒が町を離れて… ってサンディが居れば問題は無いか。まさか水晶を採ってこいって訳でもないんだろ? 」

 フィアーも、それなりに流れ渡っているので北の水晶窟というのは、すぐに見当がついた。

「最近、あの辺りをネズミがうろちょろしてるのよ。」

「ネズミ? 」

 ネズミくらい居ても不思議ではないが、サンディが気になるのであれば本物の鼠ではないくらいは見当がつく。

「そ、荒野鼠ジャービルっていう盗賊団。砂漠の狐より少し大きいくらいの盗賊団だけど装備はそれほどじゃない… 今のうちはね。」

「その奥歯に物が挟まったような、まどろっこしい言い方は辞めねぇか? 」

「気の短い男はモテないわよ。」

 とは言ったもののフィアーの言いたい事も解る。

「北の水晶窟は名前のとおり水晶やアメジストも採れるんだけど、荒野鼠の狙いは硝石よ。この辺りは砂漠だから、よく乾燥してるしね。」

 まだ人工的に硝石を作れないこの時代、自然に硝石が蓄積する為には土中の有機物が豊富で、雨がかからず、植物が生育していないといった条件が揃わなくてはならない。

「でも、硝石なんて採ってどうしようってんだ? 水晶の方が高く売れんだろ? 」

 フィアーの疑問にサンディも眉を潜めた。

「ゼノヴァの南には火山が在ってね。町にも硫黄泉が湧いてるの。それに昼間は暑いけど夜は冷えるから暖房と料理の為に炭焼小屋も在るわ。」

「! 火薬か!? 」

 思わずフィアーも声を挙げた。硝石、硫黄、木炭。つまりゼノヴァには火薬の材料が揃っているようなものだ。

「いつも、そのくらい察しがいいと楽なんだけどな。で、死神さんの怖さを荒野鼠に教えてきて欲しいのよ。貴方が居ると分かれば小さな盗賊団ぐらいなら近づかなくなるから。あと、ついでに水晶窟の奥にハリーって優男が居たら連れてきて欲しいの。」

「人使いが荒くねぇか? 」

 フィアーからすれば、ゼノヴァの町に来て日も浅いというのに休み無く使われている気がしていた。

「ハリーが来れば貴方の仕事も軽くなる筈だから。よろしくね。」

「よろしくって… まぁいい。馬、借りられるか? まさか北の水晶窟まで歩いてけとは言わねぇだろ? 」

 確かに歩いて行くには少々遠いといえる距離だ。しかも砂漠、途中で休めるような場所は無い。

「物置に在る奴、使っていいわよ。言う事、聞いてくれればだけど。」

 サンディに言われるがままにフィアーは物置に向かった。言う事を聞いてくれればとは、どんなじゃじゃ馬が待っているのかと思ったのだが。

「なんだ、こりゃ? 」

 そこに居た… いや在ったのはフィアーには見たこともない鉄の塊だった。と言ってもシルエット的にはタイヤの無いチョッパーバイクのようなものなのだが、オートバイの存在しない世界なので無理もない。

「なんだ、貴様は? 」

 突然、物置の中に低めの声が響いた。人らしき姿はフィアーしか居ないのだがフィアーは、あっさりとその状況を受け入れた。

「北の水晶窟まで行きたいんだが乗せてって貰えるか? 」

「ほぅ。喋る鉄屑に驚きもしないとは妙な人間だな? 」

 それはあきらかに目の前の鉄の塊から返ってきた答えだった。

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