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砂雪姫  作者: 凪沙一人
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第3話 死神と砂雪姫

「し、死神~。きょ、今日は貴様と、こ、事を構えるつもりはにぇ…ねぇ。おちょ…大人しく、しゅな…砂雪姫を渡しぇば見逃しちぇやるぅ~っ! 」

 突然、上擦った声が飛んできた。拡声器の使い方が悪いのか少々ハウリングを起こして聞き辛い。それ以前に噛みまくっているのだが。

「なんだ、砂雪姫ってのは? 」

「奴らが貴方を死神って呼ぶようなもんよ。こっちも盗賊なんかに名乗る気は更々ないしね。勝手に呼ばせておいただけよ。多分、これの所為ね。」

 そう言ってサンディが右手を高々と挙げると空から雪のようなものが降ってきた。

「なんだ、こりゃ… って砂かっ! 」

 ここは砂漠の町だ。白砂が雪のように降ってきてもフィアーは雪を見た事がない。

「そう、砂よ。研磨剤に使うような細かいやつ。吸い込まないよう気をつけてね。ここでは風に乗って微量が運ばれてくるだけだけど、奴らの所には、沢山の砂が降り注いでいる。人や馬の目や鼻や口に入るから迂闊には近づいて来れない。」

「なるほど。それで装甲馬車の出番って訳か。」

「そういう事らしいわね。」

 確かに矢や槍ではないが降り注いでくる物を防ぎながら進むには合理的かもしれない。

「で、どうすんだ? 大人しく近づいて来んのを待つのか? 」

「まっさかぁ。そんな訳ないでしょ。はい、これ。」

 サンディは何処にどうやって持っていたのやら大型の銃器をフィアーに手渡した。

「なんだ、こりゃ? 」

「何って… 適当に今、造ったから名前なんて無いわ。取り敢えず着弾させなさい。あの装甲馬車に直撃させるの。そうすれば動けなくなるから。」

「動けなく? それじゃ、また襲って来るんじゃねぇのか? 」

 フィアーは疑問を呈しながらも受け取った銃器を構えて引き金を引いた。すると直撃を受けた馬車の装甲は砂鉄のようにサラサラと崩れていった。

「・・・動けなくなるんじゃなかったのか? 」

 急に装甲を失った盗賊の馬車は、驚いた馬が勝手に駆け出して何処かに行ってしまった。

「お、覚いぇてろっ! 」

 残った盗賊たちも馬車を追って行ってしまった。

「まぁ、追い払えた訳だし、結果オーライよね? 」

 そこでサンディがパンと掌を打ち鳴らすとフィアーの持っていた銃器が砂のように崩れていった。

「うわっと… 予告無しにやるのは辞めてくれねぇか? 」

「あら、ゴメンなさない。こんな物騒な物、盗賊に盗られたら危ないと思って。」

 自分で造っておいて、まるで他人事のように物騒などと言うサンディにフィアーは苦笑した。

「まぁ、いいか。襲って来たら、また造るのか? 」

「あいつらだって同じ手では来ないでしょ。こっちも向こうの手に合わせるだけよ。」

 まるで当たり前のようにサンディは答えた。おそらくは、これが日常茶飯事なのだろう。となれば余計にフィアーの中で先程の疑問が頭をもたげてくる。

「さっき、途中になっちまったが追っ払うだけでいいのか? 」

「… 町の人たちはともかく、あたしは射たれようが吹き飛ばされようが刺されようが死なないのよ。それが人間に直接、手を下すなんて傲慢よ。」

 それを聞いたフィアーは笑いだした。

「何が可笑しいの? 」

「いや悪ぃ。砂雪姫ってのは、妙に人間臭いと思ってな。」

「死神に言われたくはないわね。」

 確かに言えた義理ではないかもしれない。

「それで… どうするの? 」

「どうするって? 」

 サンディの不意な質問にフィアーは思わず聞き返した。

「用心棒の件よ、町の。引き受けてくれないなら、このまま出て行ってもらえるかしら? もし、引き受けてくれるんなら細やかだけど歓迎会、開くわよ? 」

 フィアーは、成り行きで今回は手伝ったがまだ用心棒を引き受けた訳ではなかった。

「引き受けてもいいが、いつまで居るか分かんねぇぞ? 」

「充分よ。あたしからすれば人間の1年も10年も大差ないもの。そんな事より、あいつらが装甲馬車の素材をどうやって手に入れたのかって方が気になるのよ。」

 サンディの言葉にフィアーは首を傾げた。

「そりゃ、何処かの遺跡だろ? 造れって言われて造れるもんじゃねぇし。」

 ようするに、この時代(・・・・)の人間の技術力では馬車を覆うほど大きな鈑金加工は不可能に近かった。盾と呼ばれる防具も木製や皮製が主流で上流階級の一部が発掘された金属製をコレクションとして所有している程度である。また再び(・・)火薬が発明された事により小型の金属の筒と組み合わせて銃が生まれてしまった。これには一部は文献が見つかったとも、誰かが何処からか技術を持ち込んだとも言われている。

「大昔にはね、この星の空や海は人間の造った鉄の塊が飛んだり浮いたりしていたのよ。そんなものが見つかったら厄介なのよね。」

 鉄の塊が空を飛んだり、海に浮いたりする。この時代の人間であるフィアーにはにわかには信じられない話だった。だからと言ってサンディの言う事を今さら疑うようなフィアーでもなかった。

「で、どうするんだ? 」

「どうするって? 」

 今度はフィアーの不意な質問にサンディの方が聞き返していた。

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