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砂雪姫  作者: 凪沙一人
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第23話 断絶

 可愛さ余って憎さ百倍とは、この事だろうか。領主はルミーナよりもミスティを可愛がっていた。もはや反抗期という歳でもない。皆の為と謳いながら損得勘定である事を見透かされている。もしかすると半分くらいは皆の事を考えていたのかもしれない。しかし、それは領主の考える皆の為であって皆が望むものではなかった。ゼノヴァを押さえれば効率的な立地の火薬プラントを建造する事ができ、水晶掘も手に入る。支払いが現金ではなくきんだと聞いていたので金脈もあるのではとも思っていた。水晶や金の採掘、火薬製造の人手もゼノヴァの町の人々に仕事を与える名目で使えばいいと考えていた。だが、それはサンディの想いと噛み合う事はない。

「もういい。ミストレイルを捕らえろっ! 」

 その場に居た保安官たちに命じたが誰もミスティを捕らえようとはしない。無理もない。ミスティの背後には“死神”フィアーが控えている。

「なんだ、この天死モルスに恐れをなして手が出ないってか? 」

 保安官たちからすれば、一度は始末しようとした相手だ。そんな筈はない。普通ならモルスが空気を読めないで終わる処だが、それ以上にフィアーの放つ畏怖が大きい。

「ミストレイル、この父と袂を別つという事でいいのだな? 」

 領主の声は若干、震えていた。これが怒りからくるものなのか、悲しみからくるものなのかは領主自身にも判らなかった。ただ、最後通告になるであろう覚悟はしていた。

「ええ。そうとって頂いて構いません。私は自分の正しいと思ったとおりにさせていただきます。」

「この父に逆らう事が正しいと言うのかっ! 」

「私はお父様に逆らうのではなく、お父様のなさろうとしている過った行動に逆らうのです。お父様が過ちを認め、ゼノヴァの町から手を退いてくだされば、こんなことは致しません。」

「もういいっ! お前はたった今、勘当する。二度とこの街に踏み入る事は許さん! 」

「それでは失礼いたします。」

 平然と立ち去るフィアーたちを追うことも銃撃することもなく領主は見送った。そして振り返ると叫んだ。

「これより全戦力を投入してゼノヴァに侵攻作戦を開始する。準備を急げっ! 」


「つまり、お父さんを説得しに行って、宣戦布告してきちゃったかぁ。」

「申し訳ありません。」

 ミスティはすまなそうにサンデイに頭を下げた。

「気にする事ないわよ。想定の範囲内だし、こっちの正当性を証言出来る生き証人まで連れてきたんだから万々歳だわ。」

 モルスとしては、ついこの間まで、この町を襲撃しようとしていたので肩身が狭かった。

「さてと、問題はここからね。証人がならず者一匹ってのは弱いし、あの領主も簡単には諦めないでしょうしね。」

 サンディは腕組みをした。するとモルスが首を傾げた。

「なぁ、俺が言うのもなんだけどよ、あんたらなら街ひとつ潰すくらい訳ないんじゃねぇの? 」

「そりゃね。潰そうと思えば一晩で更地にするくらい訳ないけど。それじゃ、この町の住民が困るのよ。私の目的は、この町とここで暮らす人たちを守ることなの。それがあの娘(サンディ)の願いなんだから。」

「は? サンディは町長あんただろ? まぁ何でもいいや。俺はあの領主一家と保安官たちをギャフンと言わせられたら、それでいい。」

「ほう、聞き慣れない声がするかと思ったけど新入りかい?」

 現れたビブリアがモルスに声をかけた。

「なんだ、あんた。あんたも死神の仲間か? 」

 するとビブリアは不服そうな顔をした。

「確かに現状、ボクとフィアーはこの町(ゼノヴァ)を守るために不本意ながら協力関係にある。しかし、それを仲間と称されるのは些か心外だね。」

「で、結局あんたは誰なんだ? 」

 モルスもフィアー並みに学問とは縁遠いといえる。図書館など足を踏み入れたことはなさそうだ。

「これはボクとしたことが失敬した。ボクはこの町で一番の知識、見識と常識、良識を兼ね備えているビブリアと申す者。普段は蜃気楼図書館ミラージュライブラリーの司書をしているがね。」

「は…? はは…、蜃気楼図書館の魔女? 」

「あぁ、そんな風に呼ぶ者もいるようだけどね。ボクは至って普通の人間だよ。」

 そこへフィアーが口を挟む。

「いや、知識、見識は認めるが常識、良識は何処に忘れてきたんだ? そもそも何百年も普通の人間は生きてねぇって。」

 するとビブリアは憮然とした。

「聞いたかい、新入り君。女性に歳の話をするのも如何なるものかと思うが、ボクの常識、良識を疑うとは信じられないよ、まったく。こんな愚か者とボクが仲間だなんて思えるかい? 」

「んまぁ、小難しい事はわかんねぇけどよ、俺も今回はフィアーと組むが仲間とは思ってねぇし、似たようなもんだろ? 」

 モルスの言葉にビブリアは不服そうに首を振る。

「いやいや、新入り君の場合は勝手にライバル視しているからだろう? ボクとは論点が相違している。ボクは… 」

「能書きはいいから、その新入り君ってのはよしてくれ。俺の名前はモルスだ。」

「はぁい、その辺にしてよね。サンディと愉快な仲間たちってことでいいでしょ。今はこの町を守るために皆の力が必要な時なんだから、内輪揉めは、あいつらを追っ払った後にしてちょうだい!」

 サンディの言うように街から領主の大軍が迫っていた。

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