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砂雪姫  作者: 凪沙一人
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第20話 包囲網

 モルスを取り逃がした保安官は街に戻ると領主に讒訴した。つまり虚偽報告だ。モルスとの関係も掴んでいた保安官は、用意周到にも先にルミーナに讒言をして丸め込んでいた。

「では、その死神が犯人なのだな? 」

「へい、その通りで。」

 領主も、そこまで保安官を信用していた訳ではない。だが、ゼノヴァに対して実力行使をするには都合のいい話であった。

「騎兵隊をゼノヴァに向けろ。死神の引き渡しを拒んだら爆弾馬車を一騎、突入させるのだ。なおも反抗するようなら町ぐるみで死神の仲間と判断し、制圧する。」

 領主も最初からサンディが素直にフィアーを引き渡すなどとは思っていない。表向きの方便である。ただ、領主にとって想定外なのは、実の娘でもあるミスティによってサンディたちに目論見が筒抜けになっている事だった。

「次から次に、よくもこの町に攻め込む理由を考えるわね。」

 水鏡に映った場景を見てサンディは呆れていた。

「申し訳ありません。」

 ミストと一体になっているとはいえ、ミスティは領主の娘でありルミーナの妹である。

「うぅん。別にミスティを責めてる訳じゃないわよ。たとえ家族であっても同一人物じゃないんだから。それに、こうして情報を教えてくれてる。上手い事、追っ払うから気にしないでいいわよ。」

 サンディはそう言うが、言われたミスティはそうもいかなかった。

「なんなら出ていこうか? 旨い飯と安心して寝られる寝床を失うってのは痛ぇが、俺が居なくなりゃ奴等がここを攻める口実ってのが無くなるだろ? 」

 確かに犯人として手配したフィアーが居なくなれば領主がゼノヴァを攻める理由は無くなるかに思える。しかしフィアーの提案をサンディは鼻で笑った。

「フン。何、殊勝な事、言ってくれてるの? 柄にもない。貴方が居ようが居まいが、そんなの関係なく攻めて来るわよ。本当に居ないか調べるとか言ってね。だからって貴方を差し出したって一味とみなして攻めて来る。ま、差し出すなんて微塵も思ってないけどね。結局のところ、貴方が居なくなるのは私たちからしたら、ただの戦力ダウンにしかならないんだから変なこと考えないでよね。」

 サンディの言うとおりだろう。領主も他所に目をつけられる前にゼノヴァを領地として収めたい。利益優先であろうと武力優先であろうと絶好の条件を備えている。

「向こうは、こっちにミスティが居るって知らないんだろ? 知ってたら迂闊に攻めてこないんじゃないかな? 」

 ハリーの提案にビブリアが苦笑した。

「ボクが思うに、それこそ領主にゼノヴァ攻めの口実を与えるようなものだと思うよ。娘を取り返すというね。」

「それじゃぁ、どうするんですか? 」

 やや、不安そうにソアラが尋ねた。

「そんなの決まってるでしょ。この町を守るのよ。だって町長だもん。」

 不敵に笑うサンディにフィアーも頷いた。

「そうだな。俺もその為の用心棒だしな。」

「そうね。私も身内の横暴は止めたいと思います。」

 これはミスティの本音だろう。

「あっはぁっ! 究極可愛いサンディさんと究極美しいミストレイル様が、この町を守るっていうなら私だってやりますよっ! ね、エオリア? 」

「そいつは構わねぇが… その、あっはぁって… 使いどころが、よく分からねぇよな? 」

 ソアラの言葉に遂にエオリアが突っ込んでしまった。

「まさか、エオリアが突っ込むとはな。皆、触れちゃいけねぇって思ってたのに。」

 フィアーの言葉に一同が頷いた。

「ぇ… え゛ぇ~っ!? そ、そうだったんですかぁ~っ! 」

 どうやら口癖というよりは何か意図的に使っていたようだ。落ち込むソアラの肩にサンディがそっと手を掛けた。

「気にする事はないわよ。誰に迷惑、掛けてるでなし。アハでもアホでも好きに叫びなさい。」

「サンディさん… フォローするふりしてディスってませんかぁ… 」

「さぁて、こっちは逃げ出す訳にもいかないんだから領主の包囲網を如何に切り崩して追い払うかよっ! 」

 ソアラの嘆きをスルーしてサンディは話し始めた。こうなると慰めるのはミスティしかいない。

「でも相手は領主に保安官だろ? 下手に手出しすると拙くねぇか? 」

 表向きの標的ターゲットにされているフィアーとしては気になる処だ。しかし、それを聞いてサンディはクスクスと笑った。

「そこは、貴方さえ先に手を出さなきゃいいのよ。自然を取り締まる法なんて無いんだから。」

 砂や霧や風、蜃気楼や鉄や水晶を直接、取り締まる法など存在しない。先に領主や保安官が武力に訴えれば町の住民を守るという大義名分を盾に反撃する事が出来る。そして後から都合のいい事を言われないよう勝利すればいい。サンディにとっては相手を倒す必要は無い。撃退すればよいのだ。その頃、領主は保安官や金で雇った盗賊たちを身元を隠して私兵に仕立ててゼノヴァを全方位から包囲していた。もちろん、ミスティを通してサンディには筒抜けである。

「数で勝てると思ってるのかしらね。一発、脅かして雑魚には先に退場して貰いましょ。」

 そう言ってサンディはビブリアと目を合わせた。

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