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砂雪姫  作者: 凪沙一人
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第2話 砂に祈りを

「おっとっとぉ~っ! 」

 危うく落としそうになったフォークをフィアーはなんとか掴まえた。

「何も、そこまで驚かなくてもいいんじゃない? 」

 サンディは、すまし顔で言った。

「この町の町長ってのは世襲制か? それとも人気投票なのか? 」

 初見では、余程同じような事を言われているのか、サンディは聞き飽きたかのようにかぶりを横に振った。

「まったく人間って奴は、そういう感性は進歩しないのね。あたしが一番、古株だからよ。それに一番強いしね。」

 ちょっと俄には信じられない事を言っているとフィアーは思った。

「まるで自分が人間じゃないみたいな言い方だな? 」

「そうよ。この姿になってからは500年程かなぁ。人の姿は3000年くらい前からだけど。」

 しれっと真顔で語る様子はあながち嘘とも思えなかった。

「お前さん… 魔女か? 」

「あぁ、美魔女とかは言われるわね。あと永遠の17歳とか。変わったとこだと、こっそり代替わりしてる筈だから、そろそろ13代目だとかかしら。」

「いや、そうじゃなくてだなぁ。」

 どうも話しが噛み合わない。そこへ1人の少年が飛び込んで来た。が、フィアーを見るなり腰を抜かしてしまった。

「大丈夫よ、何もしやしないから。それより、そんなに慌ててどうしたの? 」

「そ、そうだった。砂漠の狐が向かって来てるんだっ! 」

「砂漠の狐? 」

 フィアーが首を捻った。

「新興の盗賊団よ。こんな町、襲っても何も無いんだけどね。フィアー、行くわよ。少年は店番、宜しく♪ 」

「何で俺が… 」

 まだ、用心棒を引き受けた覚えはないのだが、サンディが先に行ってしまったので仕方なく後を追った。

「意外と素直に来てくれたのね? 」

 サンディは悪戯っぽく笑って言った。

「まだ引き受けた訳じゃねぇが、お前みたいな小娘を1人で行かせて何かあったら目覚めが悪いからな。」

 すると再びサンディは笑っていた。

「言ったでしょ、この姿は500年くらい昔からだって。見た目で心配してくれる人間も多いから便利なんだけどね。昔、この町が襲われた時、この姿の娘がね、町を助けてくださいって砂に祈ってきたのよ。」

「砂に? 」

 怪訝そうにフィアーは尋ねた。

「うん。普通、祈るんなら星とか神とかよね。今となっては理由なんて分からないけど、その娘は砂に祈りながら息絶えたわ。私はその娘の願いを叶える事にしたの。その娘の姿をして町に着いた私は盗賊を一掃したわ。それ以来、この町に居るの。」

「その娘がサンディ? 」

 サンディは二度程、軽く頷いた。

「へぇ、信じてくれるんだ。まぁ、事実なんだけど中々居ないわよ、信じる人間なんて。サンディって名前は私っぽくもあったから丁度良かったし。」

「私っぽい? 」

 要領は得ないがフィアーには、嘘には聞こえなかった。

「私、砂だから。世に生まれたのは人間の言う天と地が分かれ、陸と海が隔たれた頃かしら。」

「それが何で人の姿に? 」

 自分は砂だと聞かされても、尋ねるフィアーの目も真剣でサンディにも疑っているようには見えなかった。

「そりゃ人間が勝手に自分たちに都合いいように星を作り替え始めたからよ。それなら、こっちも合わせた方が都合いいし。まぁ、やり過ぎたから今の荒廃があるんだけどね。過ぎたるは及ばざるが如しって奴よ。そろそろ近くなってきたわね。続きは、また後でね。」

 狐柄の旗を掲げた盗賊団は遠眼鏡で2人を視認出来る距離で進攻を止めた。

「さすが死神ね。貴方を見つけただけで、あいつらの足が止まったわ。」

「ったく、何で俺が死神なんだか。」

 フィアーは不服そうだが、サンディは笑っていた。

「そりゃね。貴方を襲った盗賊を全て返り討ちにしてきたから生きている訳でしょ? それなら襲った側からすれば死神よ。集団で襲っても逃げた奴がいる。だから噂に尾鰭はひれが付いて広まっていった。そんなとこよ。」

 思わずフィアーは溜め息を吐いた。

「はぁ… こっちは正当防衛じゃねぇか。」

「そんな、殺るか殺られるかの世界に正当も不当も無いでしょ? 生き残った者が勝者、そんな連中よ。」

 サンディの言葉にフィアーも苦笑いだ。

「やっぱり、見た目は小娘でも長いこと生きてるだけの事はあるんだな。」

「バカにしてるんだか、感心してるんだか… 。どうやら、盗賊むこうも覚悟、決めたみたいよ。」

 サンディの言うとおり、盗賊たちに動きがあった。

「なんだ、ありゃ? 」

 盗賊はフィアーにも見慣れない物を準備していた。

「装甲馬車。」

「装甲馬車? 金属板で馬車を覆ったて奴か。噂にゃ聞いてたが、実物見るのは初めてだぜ。」

 横でサンディは呆れていた。

「そりゃそうよ。本来は城壁の上から降り注ぐ矢や槍、投石なんかを防ぎながら進む城攻めの道具だもの。そもそも、あんな重い物、乗せて動ける馬だって限られてるしね。」

「なるほど。それだけ、このゼノヴァって町が難攻不落って事か。」

「当然じゃない。だって、あたしが守ってるんだもん♪ 」

 サンディは自信満々に答えた。フィアーもまだ、サンディの実力を見た訳ではないが盗賊が、あれぼどの準備をしてくると云う事は、ある程度あてにしても大丈夫そうだと思っていた。

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