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砂雪姫  作者: 凪沙一人
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第19話 天死休す

「おい、待て野郎どもっ! 」

 モルスがどう叫んでも盗賊たちは散り散りに逃げていった。むしろフィアーが出てきたら端から逃げるつもりだったのかもしれない。

「行っちまったな。で、どうする? 」

 モルスにはフィアーの質問の意味が判らなかった。

「ど、どうするって… こうなったら逃げも隠れもしねぇ。ズドンと殺ってくれ。あ、出来たら一発で頼む。痛ぇのは苦手なんでな。」

 するとフィアーは首を横に振った。

「そいつぁ出来ない相談だな。」

「なんだ、手前ぇっ! 手足順番に撃ち抜いてジワジワ苦しめようってのか? 趣味悪ぃぞっ! 」

 モルスの企みはミスティによって筒抜けだったので町を焼き払おうとしていたくせに、どの口が言っているんだとはフィアーも思った。

「そうじゃねぇよ。逃げ隠れしろってんだ。」

「はぁ? お前、馬鹿か? 自分たちを殺そうとしてたんだぞっ! そんな奴、逃がして復讐に来たらどうすんだよ? 」

 逃がしてもらえそうな犯人の台詞ではない。

「お前こそ馬鹿か? 撃たれても文句の言えねぇ立場なのに逃がしてやるって言ってんだ。とっとと逃げやがれ。幸い未遂だ。こっちに被害は出て無ぇ。ってか俺があの町に居る限り、こんなちんけな計画は成功する訳ゃねぇ。無駄な事は辞めて依頼人の目の届かない所に行っちまいな。」

 モルスも最初の襲撃の時からフィアーには見透かされている気はしていた。人の常識で量っている以上、その理由が判る訳も無かった。

「なんで逃がそうとする? 」

 モルスにとっては無理もない疑問だろう。

「あの町の町長の希望なんでな。」

「ゼノヴァの町長? あの砂雪姫とか呼ばれてる小娘だな。そいつが、お前の依頼人って訳か。やっぱガキの考える事は甘いな。帰ったら伝えてやれ。大人からの忠告だ。殺られる前に殺れってな。」

 フィアーは『いや、お前より遥かに長生きしているぞ』とは思ったが口には出さなかった。モルスは自分の馬に跨がると軽く馬の腹を蹴った。

「あばよっ! 」

「二度と顔出すんじゃねぇぞっ! 」

 死神を越えたくて天死を名乗っていたモルスは悔しさで振り返る事は出来なかった。一方で、これだけ圧倒的な差というものを見せられると諦めの気持ちも湧いていた。そんなモルスの気持ちを知ってか知らずかフィアーもアイゼンに跨がると振り返らずに飛ばした。その時、遥か遠くで一発の銃声がしたのだが走行音と風を切る音でフィアーの耳には届かなかった。

「て、手前ぇは街の保安官じゃねぇか… 。ルミーナ? んな訳ねぇな。領主か? それも違うな。誰の差し金だ? 」

 最初の一撃で利き腕を撃たれてモルスは銃が持てなかった。

「余計な事は知らなくていい。貴様はゼノヴァの町を襲撃しようとし抵抗したので仕方なく正義の保安官が射殺したって筋書きだ。どうせなら死神から一発、喰らっててくれりゃ、あいつを犯人に仕立てたんだがな。」

 再び銃声が響いた。利き腕と反対の腕をホルスターに伸ばそうとして撃たれたのだ。

「くそっ。んな事なら2丁拳銃の練習でも、しとくんだったぜ。死神が撃ってねぇのを知ってるって事ぁ、最初から見てやがったな? 」

 モルスは観念したのか落ち着いて保安官を睨み付けていた。

「そりゃそうさ。お前の計画が成功してりゃ犯人として射殺して町は領主に廃墟として売り渡す予定だったからな。まぁ、どのみち貴様はこうなる運命だったって事だ。」

 再び保安官が引き金を引こうとした瞬間、突風と砂飛沫に視界を奪われた。次の瞬間にはモルスの姿は消えていた。風の強い砂漠では血痕も直ぐに散って追えはしなかった。

「まだ、生きてっか? 」

 気がつけばモルスはアイゼンの側車に乗せられていた。

「死神が俺を助けて何のつもりだ? 」

「言ったろ。俺の依頼人は手前ぇがくたばるのを望んじゃいねぇんだよ。町に帰ったらお前が危ねぇから助けてやれってよ。お前、家族は居るか? 」

 出血で頭がボーッとしてきたモルスだが、なんとか首を横に振った。そのままアクセルを噴かすと町外れの小屋に着いた。

「ヤブ医者、居るかぁっ! 」

 突然の夜中の来客に家主が眠そうに出てきた。

「なんだ、死神か。何度言ったら判るんだ? うちは獣医じゃねぇんだから怪我した動物、持ってくんじゃねぇよ。」

 とは言ったが、フィアーが肩に担いできたのが人間だと気づいた。

「うちに連れてくるって事は、御天道様に顔向け出来そうにない奴だな。高くつくぞ? 」

 そう言いながらも家主はモルスの状態の診察を始めた。

「請求は後でゼノヴァの町長にしてくれ、ドクター。で、ついでに顔も変えてやってくれ。」

 フィアーの言葉に眉を顰めながらも両腕の弾丸の摘出を終えた。

「ゼノヴァの町長って事は砂雪姫か。こんなならず者を何で助けるんだか気が知れねぇ。まぁ、払うもん払ってくれるんなら文句はねぇけどな。顔を変えるって事は人相描きが出回ってるような奴だろ? 上積み… んな睨むなよ。冗談だ冗談。目先のはした金の為にお得さんを失う程、バカじゃねぇよ。後は任せて、お前さんは帰りな。居ても役にゃ立たねぇしな。」

 確かにと思ったフィアーはゼノヴァへと帰っていった。

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