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砂雪姫  作者: 凪沙一人
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第18話 姑息な天死

「ねぇ、最新鋭の装甲戦車が役に立たなかったのに弓矢って、どういう事? 」

 ルミーナとしてはモルスの注文どおり弓矢を集めはしたが、役に立つとは思えなかった。

「あの装甲戦車って代物は火力はデカいが機動力に欠けるし、大きくて目立ち過ぎる。だから今度は集団で火矢を射掛ける。あのゼノヴァって町の建物は、この街みたいな石造りじゃない。木造だ。奴らが火消しに躍起になってるところを一気に攻め込むって算段だ。」

 それを聞いてルミーナは呆れた。

「なに、それ? まるで火事場泥棒じゃないの。よくも姑息な手を考えつくわね。」

 だがモルスにも言い分はある。

「言わせてもらうが、あんただって正攻法で勝てる相手じゃないって事くらい、わかってんだろ? 」

 そう言われるとルミーナにも返す言葉が無かった。盗賊団のような数でも、新型装甲戦車のような力でも勝てないのならば、たとえ姑息な手段と言われようとも頭を捻るしかない。雨も少なく乾燥した木造家屋の多い砂漠の町を襲撃するには火責めというのは効果的に思えた。

「いいわ、任せます。あの町の住人だって灰の中に住む訳にはいかないでしょうからね。」

 そう言ってルミーナは下がっていった。

「甘いねぇ。これだから、お嬢様育ちは。こんなの夜襲に決まってんじゃねぇか。住人なんざ建物ごと灰にしてやるよ。」

 ルミーナは住人は避難すると思っているようだがモルスにそんなつもりは微塵もない。失火で片付けるなり盗賊に罪を押しつけるなりすればいいと考えていた。むしろ、その方が下手な証人を残すより依頼人の為だとさえ思っている。


「どうしようもないわね。」

 ミスティの水鏡を覗きながらサンディは呆れていた。

「大体こんな密談を自分の家でやるって領主の家の警備って、どうなってんの? 」

「姉のする事なので使用人たちも見て見ぬふりなのでしょう。私が家を出てから姉の外出には父もうるさいようですし。」

 ルミーナが窮屈な思いをしている事にはミスティも責任を感じていた。

「まぁ小悪党の浅知恵じゃ、この町は落とせないって事を分からせてやらないとね。」


 真夜中になると、そんな事になっているとは知らないモルスは馬車に弓矢と油を積み込むと新興の盗賊団を引き連れて出発した。装甲戦車のような射程距離は弓矢には無いのでゼノヴァの町に近づく必要があった。が、街を出て砂漠に入ると、すぐに馬車は止まってしまった。

「どうしたっ? 」

 モルスが馬を降りて様子を見に行くと車輪が2割ほど砂に埋まって空回りをしていた。

「砂艝を履かせろっ! 」

 雇われた盗賊団も後払いとあって素直にモルスに従った。ここで言う砂艝とは馬車の車輪に取り付けるスキー板のような物をいう。道から外れると立ち往生してしまう馬車がある事から、この辺を走る馬車には標準的に装備されている。といっても馬車を砂艝に乗せるのはジャッキなど無いので人力しかない。なんとか馬車に砂艝を取り付けて走り出すと再び馬車は止まった。

「どうしたっ? 」

 モルスが馬を降りて様子を見に行くと砂艝が水晶に乗り上げていた。

「誰だ、こんな所に水晶棄てていきやがるのは。」

 ゼノヴァから水晶窟はそう遠くない。発掘業者が砂艝に乗せる為に馬車を軽くしようと積み荷の水晶を減らす為に下ろす。普通は砂艝を履かせたら再び水晶を積み込むのだが積み残す事も珍しくはなかった。水晶で破損した砂艝を補修して馬車を走らせると濃い霧が出てきた。

「大将、日を改めやせんか? なんか、今日は日が悪いみたいですぜ。」

「うるさいっ! 」

 声を挙げた盗賊団員をモルスは一喝した。しかし盗賊団はモルスの部下という訳ではない。いかに大金を積まれていようとも命あっての物種である。相手が砂雪姫と死神だと判っている以上、無理をする気は毛頭ない。そんな空気を察したのか、モルスは苦笑いをしながら頭を掻いた。

「いや、怒鳴ったりしてすまねぇ。けど、あいつら妙に勘がいいみたいで一気に攻め込まねぇと警戒されちまうんだ。だからさ、頼むよ。金なら弾むからさ。」

 見た目で判断しているとすればサンディたちは人間にしか見えない。その能力も勘が良いくらいにしか思えないのも無理はない。盗賊団員たちも、いざとなったら逃げ出せばいいと思いながら承知した。尚も霧の中を進み近付いた筈だと思うと、町が蜃気楼のように逃げていく。方位磁石を取り出すも、グルグルと回って役には立たなかった。

「そろそろ諦めたらどうだ? 」

 聞き覚えのある声にモルスは顔を上げた。

「し… 死神!? クソッ。こうなったら野郎ども、死神に火矢を射掛けろっ! 奴だって不死身じゃねぇ筈だ。燃やしちまえっ! 」

 しかし一向に火矢は飛ばなかった。

「さっきの霧でマッチが湿気っちまって火が着きやせんっ! 」

 火打ち石を使って小さな火が着けば風が吹き消し、少し大きな火が着けば雪のように降り注ぐ白い砂が積もって消えてしまう。

「さて、どうする? 」

 フィアーが右手を挙げると単独でアイゼンが走って来た。

「お、お化け!? やっぱ、死神だぁっ! 」

 金で雇われた盗賊たちは自分の命の方が大切である。装甲戦車のような馬の入れる大きさではない鉄の塊が自走しているのをみれば、お化けに見えても仕方なかった。

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