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砂雪姫  作者: 凪沙一人
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第17話 死神と天死

 近頃のゼノヴァと言えば盗賊が多発する、荷馬車が襲われる、死神が住み着いていると、あまり評判は良くない。と言っても観光資源がある訳でもなく影響はほぼ無い。鉱物資源はあるがサンディが輸出に積極的でもない所為もあり、商会の荷馬車の定期便さえ滞らなければ、町の住民も不満は無かった。町の安全は町長であるサンディが守ってくれる。

「挨拶代わりに積み荷を頂くか。」

 定期便の積み荷を奪えばゼノヴァの町は色々と品不足になる。かといって街で襲ったり商会に圧力を掛けようものならルミーナの父親が領主から失墜しかねない。街の人間の目の届かない場所、つまり襲撃地点はゼノヴァ近郊になる。

「ホントに来るとはね。」

 荷馬車を狙っていたモルスの背後で声がした。砂漠で怒鳴ってもいない声が聞こえてくるというのは、それなりの距離だ。モルスは、その距離に近づかれるまで、まったく気配に気づかなかった。

「し… 死神っ! 」

 モルスにそう呼ばれてフィアーは頭を掻いた。

「初対面でいきなり死神呼ばわりかよ。まぁ、もう慣れたけどな。」

「ふん、覚えていないだろうが貴様に会うのは二度目だっ! 」

 不服そうにモルスは叫んだがフィアーには、まったく覚えがない。

「確かに覚えてない。微塵も記憶にない。」

 時に正直な応えは相手の神経を逆撫でする。

「なら、今度こそ覚えておけ。俺の名はモルス。天死モルスだっ! 」

 名乗りを受けても、やはり思い出せなかった。砂漠の数々の盗賊団を震え上がらせるフィアーとモルスでは知名度にも圧倒的な差がある。それはもう、世界的有名人と田舎の人気者ほどの差が。

「天死だかペテン師だか知らねぇが、お前の考えじゃないんだろ? 誰に頼まれたんだ? 」

「誰が言うかっ! だいたい誰がペテン師だ? 」

 そう叫んで腰の銃に手を伸ばし掛けたモルスの目の前では既にフィアーが銃を構えていた。

「うんうん。俺は賊を追っ払うよう依頼を受けてるんだ。そこで止まってくれりゃ、無駄な殺生はしねぇで済む。」

 モルスは手を銃から退けた。

「甘いな死神。ここで俺を始末しなかった事を後で後悔するぜ。」

 結局のところ、モルスは積み荷も奪えずゼノヴァの町に一歩も踏み入れること無く帰っていった。

「何しに来たんだ、あいつ? 」

 首を傾げたフィアーもまた、アイゼンを駆ってゼノヴァへと帰った。

「やぁ、お疲れさん。どうだい、ボクの言ったとおりだっただろう? 」

 戻ってきたフィアーが口を開く前に、まるで見ていたかのようにビブリアが喋りながら出迎えた。

「あぁ。モルスとか言ってだけどありゃ何者だ? 」

 フィアーが否定しなかった事に満足そうにビブリアは頷いた。

「すまないがボクの自動筆機マキナオートマティスムも細かい事まではわからないんだ。けど、そいつの雇い主は大物だろうね。」

 どうやらビブリアもハリーの言っていたように盗賊たちの後ろで街の資産家が蠢いているとして、その資産家に技術提供している者が居ると疑われるという結論に辿り着いたのだろう。

「その大物ってのに心当たりはあるのか? 」

「おそらく姉です。」

 ビブリアとフィアーの会話にミスティが割って入った。

「ミスティの姉さん? 」

 フィアーは謡姫としてのミスティは知っているが、その出自までは知らなかった。

「そういえば商会の人からミスティは領主の娘だって話し、聞いたわ。」

 飲み物を持ってサンディがやってきた。

「はい。」

 ミスティは頷いてミルクティに手を伸ばした。

「それなら親父さんじゃねぇのか? 」

 領主ならば勢力拡大の為に武装強化を目論んでもおかしくはない。その為に火薬を製造するには好立地のゼノヴァに目を付けるのもわかる。だが、その娘が動いているというのがフィアーには納得いかなかった。

「いえ、父ならばもっと大物と組んで大掛かり、かつ内密に動くはずです。功を焦った姉の独断と考えてよいと思います。」

 それを聞いてフィアーも納得した。

「なるほど。親父さんにしちゃ拙速過ぎるって訳か。まぁ、要するにミスティのファザコン姉ちゃんがチョロチョロと動き回ってるって事だな。」

「フィアー、言い方っ! 」

 サンディがフィアーを睨み付けた。

「端から見れば、それが事実でしょうね。」

 ミスティが自嘲気味に呟いた。端からは見えない何かが家族の中にはあるのだろう。

「戦力としては惜しいけど、手を退いても構わないわよ? 」

 物量でくる相手に少数精鋭で小さな町を守っているのだ。1人でも欠けることは痛手に違いない。だからといって姉妹喧嘩を無理強いするつもりもサンディにはなかった。

「いえ。姉の過ちを正すのも妹の役目です。それにこの町(ゼノヴァ)が父の手に渡れば戦禍が広がり不幸と哀しみが広がります。それは私もミストも望みません。」

「了解だ。」

 徐にフィアーは立ち上がった。

「ミスティがそのつもりなら、一緒に姉ちゃんの過ちってやつを止めてやろうじゃねぇか。元は自分の家だ、水鏡で様子は探れるんだろ? 」

「え… えぇ。」

 ミスティは少し躊躇った。水鏡は悪巧みだけを選んで見るような都合のいいものではない。楽しかった思い出も見たくはなかった現状も見えてしまうだろう。覚悟は決めねばならないと自分に言い聞かせていた。

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