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砂雪姫  作者: 凪沙一人
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第14話 ひねくれもの

「嫌なら別にいいわ。こっちで何とかするから。」

 サンディが冷たく突き放すとビブリアは少し顔を曇らせた。

「別に嫌という訳ではないのさ。ただ、ボクにこの町を守る義務も無いしね。何か条件を付けさせて貰おうかとね。例えば、そこで眠っているお嬢ちゃんをボクの後継者に貰うとか、ミスティに蜃気楼図書館ミラージュライブラリーの専属になって貰うとか。死神を排除するというのもありかな。」

「な… 」

「却下っ! 」

 ルリを貰うと言われてハリーが文句を言おうとしたがサンディの方が早かった。

「いいのかい? この時代に魔法を使える人間は、そうざらには居ないんだよ? 」

「問答無用っ! そんな、くっだらない条件、呑める訳ないでしょ。二度とこの町の門をくぐらないでちょうだい。」

 するとビブリアは少し慌てた。

「ちょっと待ってくれ。この町には母の墓が… 」

「そんなの知った事じゃないわ。」

「そんな権限は… 」

「あたしは、この町の町長だもん。」

「それでも血の通った人間か!? 」

「違うわよ。砂だもん。」

 ビブリアが何かを言おうとすると即座にサンディが返してくる。

「わかった。無償で引き受けるよ。」

 さすがにビブリアも項垂れた。

「あら、この町を守る義務は無いんじゃなかったの? 」

「ボクも母の墓は守りたい。義務は無いけど義理ならある。しかし、ボクよりも死神を優先するなんて、どれだけ捻くれ者なんだか。」

「あんた程じゃないわ。」

 そう言ったサンディの口元は笑っていた。それは、この展開を読んでいたという事だろう。それに気づいたフィアーはサンディと口喧嘩などするものではないと思った。そこへ、ひょっこりとソアラが帰ってきた。

ずびませぇん(スミマセン)。上空、寒いったらなくて。水分控えて出直… う、美しいっ! 至高の美しさっ! 」

 それがビブリアを見たソアラの第一声だった。ソアラにとって究極の可愛いさがサンディで至高の可愛いさがルリなら、究極の美しさのミスティに対して至高の美しさという事なのだろう。

「ありがとう、ソアラさん。美しいとは景色や造形にも使われる対象を限定しない形容なので嬉しいな。でも粗相があっては大変だよ? 」

「そ、そうでしたぁっ! 」

 ソアラは慌ててトイレに駆け込んでいった。そして中でふと思った。

(なんで私の名前、知ってたんだろう? )

 そして手を洗って部屋に戻ると尋ねた。

「あ、あの… なんで私の名前を? 」

 ソアラが飛び出していく前から話しを聞いていたのだから知っていても不思議はないのだが、ソアラはそれを知らない。

「あらためて自己紹介させてもらうよ。ボクが君の探していたビブロフィリア。つまり蜃気楼図書館のビブリアさ。以後、お見知りおきを。」

「あっはぁ… じゃない、えっと、あらためましてソ、ソアラと申します。」

 どうもソアラは美人の前では緊張するらしい。フィアーにしてみればビブリアなどは黙っていれば美しいのかもしれないが実態は刺の生えた毒草のようなものである。現に先ほどまでのサンディとのやり取りは無かったかのように振る舞っている。普段は図書館に籠っている割りには社交性が高いというか順応性があると云うか。そして、ビブリアとソアラはフィアーが気に入らないという共通点もあって意気投合した。もちろん、気に入らない理由はそれぞれではある。

「取り敢えず、この面子でここを守れってこったな? 」

 フィアーが見回すと今まで目を伏せていたソアラがビブリアの陰に隠れるようになっていた。

「ボクの魔法は防御と治癒に特化している。攻撃魔法の妖書も在るけれど、あまり当てにはしない方がいいと思うよ。」

 誰が聞いた訳でもないがビブリアが言った。きっと前線には出たくないという意思表示だろうとフィアーは思っていた。

「んまぁいいわ。その代わり新型装甲戦車の砲弾を死ぬ気で防ぎなさい。一発でも落ちたら、あんたの図書館に砂、詰めるからね。」

「わ、わかった。そんな事されたら本が傷んでしまうからね。母の墓の為にも守り抜いてみせるよ。」

 これでビブリアは後衛に決定したようなものだ。ミスティの歌声が届かないとすれば霧とサンディの砂は中衛だろう。エオリアはソアラと一緒なら、あまり戦力と考えない方がいい。ハリーもルリが居るから同様か。だとすると、またアイゼンと突っ込むしかないな。そんな事をフィアーは考えていたのだが意外な声が挙がった。

「フィアー、僕もアイゼンに乗せて貰えるかな? 」

 ハリーが真顔で言った。

「おいおい、お前さんにゃ、ルリを守るって役目があんだろ? 」

 おそらく荒野鼠ジャービル砂蠍サッビアスコルピオンの敗走を知っているだろう。射程も長くミスティの歌声も届かない。前回より厳しい戦いになるのは見えている。フィアーは、そんな場所にハリーを連れて行くのは躊躇われた。

「ルリはサンディを従姉と慕っているしミスティも居る。…もちろんソアラもね。」

 無言のアピールが通ってソアラが嬉しそうにしていた。

「ルリのパパは強いんだって処も見せないとね。ルリが此処に居れば僕は絶対に退けない理由になる。それに… 僕も射たれようが吹き飛ばされようが刺されようが死なないからね。」

 そう言われてはフィアーにも断る理由は無かった。

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