第12話 作戦会議
砂蠍の襲撃以降、数日の平穏が続いていた。と言っても荒野鼠が新型装甲戦車を手に入れるまでという事を忘れる訳にはいかない。
「どうかしたの? 」
水鏡を覗き込みながら複雑な表情を浮かべていたミスティにサンディが声を掛けた。
「えぇ。例の新型装甲戦車なんですが、製造場所がわからなくて投影出来ないんです。少しでも詳しい情報があった方が作戦が立て易いと思ったんですが… 」
「何か気になる? 」
サンディは心配な事でもなければ、そう真剣に水鏡を覗き込む必要も無いだろうと思ってミスティに尋ねた。
「先日の旧式装甲戦車より、どのくらい射程が長いのか気になって。もしかするとエオリアの能力を借りても私の歌声が届かない可能性があります。」
声というものは、どうしても距離が遠ければ減衰してしまう。それはエオリアが運ぶにしても限界があるのは仕方のない事だった。
「作戦ねぇ… 。そうね、作戦会議を開きましょ。善は急げよ、皆を集めるから手伝って貰える? 」
「はいっ! 」
サンディの召集に一同は店に集まった。ルリは目の届く所でミスティの子守唄で眠って貰った。
「ソアラが話しを聞いてから、かれこれ経つわ。そろそろ新型装甲戦車ってやつが出来上がっておかしくない頃よ。で、こっからは、あたしの勝手なお願いになるわ。町長として、この町の為に力を貸して欲しいの。でも、皆にはそんな義理も無い訳だし断ってくれても全然オッケー。後で恨んだりはしないから。嫌なら店から出てちょうだい。」
「あっはぁ。そんな究極可愛いサンディさんを見棄てて行くなんて出来ませんて。」
当たり前のようにソアラが即答した。ソアラが残るという事はエオリアも残るという事だ。砂漠での戦いで風向きはかなり重要になってくる。
「僕やアイゼンは構わないよ。サンディには世話になっているしね。それに、ここで手を引くなら最初にサンディに行けと言われた時点で町を出ていたよ。」
ハリーもアイゼンも珪砂や砂鉄を安定供給して貰えれば活動には問題ない。
「私も最初に頂いた御忠告を無碍にした時点で覚悟は出来てます。」
ミスティが静かに答えた。
「貴方はどうする? 無理強いはしないわよ? 」
そんなサンディの言葉をフィアーは鼻で笑った。
「フッ。俺はこの町の用心棒なんだろ? それにサンディたちが出来ないって事は、いざとなったら町の人間を守る為に死神の俺がやる。傲慢な真似はさせねぇから安心しな。」
「フィアー… 」
それを聞いてサンディは憂いを含んだ笑みを浮かべていた。思えば最初に妙な業を背負わせてしまったのかもしれない。そんな思いを抱えながらもサンディにはフィアーの申し出が嬉しかった。
「これで6人ね。あと1人… 」
サンディの言葉を聞いてソアラがキョロキョロと当たりを見回して指折り数えていた。
「ルリちゃんは別としても、サンディさん、ミストレイル様、エオリア、私、ルリちゃんのパパさんにアイゼンさん。ついでに死神で7人じゃないんですか? 」
「ソアラとエオリアは二人で一人の計算なの。」
「あっはぁ。私とエオリアは一心同体ですからねぇ。」
ソアラは天然というか単純というか。よく言えばポジティブなのだが。
「あと1人、心当たりが無い訳でもないんだけど… 」
おそらく、あと1人居ればいいのではなく、あと1人くらいなら協力してくれそうな当てがあると云うことなのだろう。
「なんか歯切れが悪ぃな? 何か問題でもあんのか? 」
フィアーの質問にサンディは少し悩んだ風でもあった。
「ん~、そうねぇ。問題は幾つかあるのよ。存在自体がイレギュラーだし、性格は最悪だし、おまけに神出鬼没だし。」
「なんか面倒臭そうな人ですねぇ。砂漠の中で人、1人探すとなると空からでも難しそうですしぃ。」
するとソアラの言葉にサンディはポンと手を叩いた。
「やってみる価値はあるかもね。半径は町から… ソアラは人間だからお腹と眠気がもつ所かしら? 」
「サンディさんの頼みなら極力、トイレは我慢しますっ! 」
ソアラの反応にサンディは頭を押さえて二度、小さく頷いた。
「そ… そうね。無理はしなくていいから。」
外見は同じ人の姿をしていても砂と人間では機能が違う事を変なタイミングで痛感させられていた。
「俺もアイゼンと探しに行くか? 人間なら地上の方が見つかるかもしれねぇし。」
フィアーの声にはサンディは首を横に振った。
「フィアーは攻守の要だからダメに決まってるでしょ。それに相手は一応、人間だけど探すのは建物よ。」
それを聞いてミスティは恐る恐るサンディの方を見た。
「神出鬼没の建物って… もしかして… 図書館ですか? 」
「げっ! あいつ仲間に入れんのか!? 」
図書館と聞いて思わずフィアーが立ち上がった。
「誰が来ても死神よりはマシでしょっ! それでそれでぇ、ミストレイル様は御存知の方なんですかぁ? 」
あきらかにミスティとフィアーに対するソアラの声のトーンが違う。それもフィアーには一切、視線を向けない。向けていたら、とてもこんな事は言えそうにもないのだが。




