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砂雪姫  作者: 凪沙一人
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第1話 畏怖を撒く者

 砂漠の中の街道で一台の馬車が盗賊に襲われていた。そこに近づく一つの影。

「やべぇ、誰か来やしたぜっ! 」

「何、ビビってんだぁ? そんな奴は始末しち… 」

 盗賊の頭目は、その近づいてきた男の顔を見るなり顔面蒼白となり震えだした。

「野郎どもっ、逃げんぞっ! 死にたくなけりゃ死に物狂いで全速力だっ! 」

 男が辺りを見回すと、微かに動く人影があった。

でぇ丈夫かい? 」

「なんだ、死神かい? あんたにゃ、どう見える? 」

 男に声を掛けられた商人は逆に聞き返した。

「悪ぃが人間だ。あんたをあの世にゃ連れてけねぇ。でも、もたないだろうな。」

 男は顔色一つ変えずに答えた。

「フッ。あんた正直(もん)だなぁ。普通フツー、傷は浅ぇとか言いそうなもんだろ? あんた、名前は? 」

「親から貰った名は知らねぇ。他人様はフィアーとか呼んでるらしいがな。」

 その字名を聞いて商人は薄笑いを浮かべた。

「なんでぇ、やっぱり死神じゃねぇか。まぁ、いいや。気休めが欲しい訳でもねぇし時間もねぇ。悪ぃが、残ってる荷物を、この先のゼノヴァって町まで運んでくれねぇか? 酒場のサンディってに渡してくれりゃあいい。売り上げはお前さんにやるからよ。あの町はこの馬車が生命線なんだ。あとうちの商会に後釜の手配頼めって。頼んだぜ。」

「おい、勝手な事、抜かすんじゃねぇ。誰も引き受けるなんて言ってねぇだろ?… って聞こえてねぇか。断り損ねたじゃねぇか。」

 商人は既に事切れていた。フィアーは残った荷物を確認すると土のある場所を探して穴を堀始めた。

「ゼノヴァに到着()く前に、最初に腐りそうなのは、あんただ。悪く思うなよ。」

 商人を埋めると申し訳程度の十字架を立てて手を合わせた。

「あんたの宗教は知らねぇが目印にゃなるだろ? 」

 もう返事をする事もない墓の住人に問いかけてから、フィアーは馬車を走らせた。頼まれたからといって律儀に叶えてやる義理はない。ただ、荷物を頂戴するには量が多い。馬車が要る。馬車ごと頂戴しては足がつく。売り上げをくれるのであれば、頼みをきくのが利口そうだと思った。道中、盗賊に襲われる事もなく馬車はゼノヴァの町に到着した。正確に言えば襲おうと企んだ盗賊はいたが、馭者の顔を見て諦めていた。ゼノヴァは、まるで昔の西部劇にでも出てきそうな田舎町だった。何をした訳でもないというのに人々は家に籠って扉を閉めた。しかし、それもフィアーにとっては慣れた事だ。構わずに酒場に馬車を寄せた。殺風景な町なので店はすぐにわかった。

「お疲れさ… ? 商会から担当が変わったなんて聞いてないんだけど? 」

 商人の馬車を出迎えに店から出て来た少女は訝しげに馭者台のフィアーを見上げた。

「あの商人なら盗賊に襲われて墓の下だ。目印は立てといたから掘り起こして、まともな墓を建てるなり好きにしな。あと伝言だ、商会に後釜を頼めとさ。」

 少女はフィアーの話しを聞きながら馬車の中身を検品した。

「盗賊に襲われたって割には荷物は大して盗られてないようね? 」

盗賊の連中(あいつら)、人の顔を見るなり逃げ出しやがったからな。」

 少女が辺りを見回すと町の住人たちは扉や窓の隙間から恐る恐る様子を窺っていた。

「なるほどね。貴方、名うての賞金首か何か? これじゃ商売上がったりだから早めに引き揚げてもらえる? 」

 そう少女が言ったところでフィアーの腹が鳴った。

「しょうがないわね。何か食べていく? どうせ、売り上げはやるからとか言われて引き受けたんでしょ。お代は引くけどね。」

「そいつは助かる。けど言っておくが俺は死神と言われる事はあっても、賞金掛けられるような事はしてねぇよ。」

 死神と聞いて少女は笑いだした。

「フフッ… そう。貴方が死神フィアーなのね。話しがあるから早く店に入って。事と次第によっては食事代、タダでもいいわよ。」

 少女は急かすようにフィアーを店の中に入れた。

「藪から棒に何なんだ? そもそも死神フィアーってのは止めてくれねぇか? 周りが勝手に言ってるだけで自分から名乗ってる訳じゃねぇ。」

 そうは言いながらもカウンターの中から旨そうな匂いが漂ってくるのが気になる。

「わかったわ、フィアー。単刀直入に言うわね。用心棒やらない? 」

 そう言って差し出した少女の手料理にフィアーは飛び付いた。

「他に店員が居ないとこ見ると、あんたがサンディなんだろ? けど、その若さじゃオーナーにゃ見えねぇ。勝手に決められるもんじゃねぇんじゃないのか? 」

 いつ以来の食事なのかと思う程、食事にガッつくフィアーの姿にサンディは少し呆れていた。

「喉、詰まらせないでね。ここじゃ水も貴重なんだから。それと、見た目で判断しない事ね。あたしは、これでもここのオーナー。そして、貴方に頼みたいのは店でもあたしでもなく、町の用心棒よ。だってあたし、町長だもん。」

「はぁっ!? 」

 さすがにフィアーも食事の手が止まっていた。

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