さむいさむい肉体探求
雪が降るほど寒い日のこと。外で一人遊ぶ子供の元に、ローブで身を包んだ怪しい人物がやってきました。子供と怪しい人物、どちらも同じくらいの背丈があります。
怪しいローブの人物は、優しい声で子供に話しかけました。
「ねえねえ、君。こんなところで一人で雪遊びかい?」
「うん。君は何ごっこ?」
子供の返答に、ローブの人物は困ったように腕を組みます。
「ううん。遊びじゃないよ。困ったことがあって、こんな格好をしているんだ。君はとっても暇そうだし、手伝ってくれないかな」
子供はすぐに「うん、いいよ」と言いました。
子供の返事を聞いて、ローブの人物はローブを脱ぎ捨てました。すると、どうしたことでしょう! ローブを身に着けていた人物は、服も下着もつけていない裸の子供だったのです!
裸の子供は、子供の手をぎゅっと握って言います。
「驚かずに聞いてね。私は体をなくした妖精。君には、体探しを手伝ってほしいんだ」
子供は何も言わず、裸の妖精の顔を一発叩きます。そして、静かに立ち去ろうとしました。しかし子供の足は、思うように前に進みません。体がとても重いのです。
子供の腰には妖精がまとわりついていました。妖精は全てから見捨てられたような、とても悲しそうな顔をしています。子供は「なにさー」と言って、妖精を引きずって歩き続けます。
数十秒後、子供と妖精は真っ白な雪の地面に倒れていました。二人共疲れて倒れてしまったのです。子供は、裸の妖精の話など聞くつもりはありませんでした。しかし、妖精がいつまでも離れないので、話を聞いてあげることにしました。
妖精は雪の中から顔を出して、嬉しそうに話し始めます。
「手伝ってくれるんだね、ありがとう! 私の探し物……それは体なんだ! 私の体の中身がどこかに消えちゃって。見せるから逃げないでね」
妖精は自分の両ほっぺをつまみ、左右に引っ張ります。すると、妖精の顔がすぱっと左右に開きました! 妖精の顔の中心には穴ができています! 穴の中は真っ暗で、なにもありません。
そんな妖精を見た子供は、妖精の顔にある穴に右手を突っ込みました。そして妖精の顔の中を手探りでかき回していきます。中は実際の顔よりも広く、子供は肩のあたりまで腕を入れることができました。一番奥には硬い壁のようなものがあります。しかし、妖精の体はどこにもありませんでした。
しばらく顔の中を探した後、子供は腕を引き抜いて言います。
「体は、顔の中にはないみたい。こっちはどうかな?」
子供は妖精の胸元辺りを左右に開けます。妖精の体は左右に分かれ、さきほどのように暗い穴が現れます。子供を飲み込んでしまいそうなほど大きな穴です。そして子供は妖精の体の中に入っていきました。
子供は真っ暗な穴の中を歩いていきます。その時、ぴかーっと光る人物が現れました。「だ、誰!」と子供は叫びます。
すると光は収まり、姿がはっきりと見えてきます。それは小さな悪魔でした。悪魔は目をピカピカと光らせて言いました。
「こんにちは! 我は悪魔です。妖精君の中に何のご用ですか?」
子供は、妖精の体を探していることを悪魔に伝えました。すると悪魔は涙を流しながら言います。
「ごめんなさい! 我が妖精君の体を奪って捨てました。妖精君の中に住むために! 妖精君とずっとずーっと一緒に居たかったんです!」
子供は泣いている悪魔の頭をなでながら聞きます。
「外で仲良く遊ばなかったの?」
悪魔は首を横に振って、
「妖精君は明るいところだけにいます。でも我は悪魔。暗いところにしかいられません。だから、妖精君の体を追い出して、妖精君の中に住んでいたんです。お願いします、このまま妖精君と一緒に居させてください!」
と言い、涙を拭いて子供の手を握ります。
子供は首を縦に振ります。
「君は妖精が大切なんだね。わかった、君の気持ちを妖精に伝えるよ。君と僕はもう友達だ。もちろん僕たちと妖精もね。……大丈夫、僕たちの友情と思いは、きっと妖精にも伝わるはずだから!」
「あ、ありがとう!」と頭を下げる悪魔に、
「今度からは勝手に体を奪っちゃだめだよ。ちゃんと相談して話し合わないとね」
と注意してから、子供は妖精の体から脱出しました。
外では妖精が不安そうな顔で待っていました。
「ど、どうだった? やはり私の体はなかった……よね?」
子供は、妖精の体の中に悪魔が住んでいたことを話しました。
悪魔に体を捨てられたと聞いて、「酷いや」と妖精は怒っています。
そんな妖精に子供は言いました。
「悪魔は君と友達になりたかっただけなんだ。妖精、友達は大事にしなきゃダメだよ。自分のことばかりじゃなくて友達のために色々手伝ってあげようよ」
妖精が「友達……」と戸惑っていると、子供は話を続けます。
「君は体を失ったけど、代わりに友達という掛け替えのないものを手に入れたじゃないか。血よりも熱い友情が君の中には流れている。友達がいるんだよ? 体がなくてもきっと大丈夫だよ」
子供の言葉を聞いても、妖精は不安そうにしています。
「だけど私と悪魔くんは会えない。私は光の中で生き、悪魔くんは闇の中で生きているからね。それでも本当に友達になれるのかな」
子供は笑顔で応えます。
「僕だって二人の友達だよ。悪魔の気持ちを君に伝えて、妖精、君の気持ちを悪魔に伝えてあげるよ! 僕たちはみんな友達だからね!」
妖精は嬉しそうに子供に抱きつきます。
「あ、ありがとう! 君は本当に私たちのために頑張ってくれるね! 私の探し物は見つからなかったけど、もっと大切なものを見つけることができた! 私の体は友達のためにいつでも開放するよ」
妖精は涙を流しながら感謝の言葉を述べました。
その後、子供を介した話し合いにより、みんなは友達になりました。
体の小さな悪魔は、妖精の顔の中にお引越ししました。体の中に比べてとても狭いですが、妖精と友達になれたので悪魔はとても幸せです。子供が遊びに来たときだけ、妖精の顔の中から体内へと降り立ち、妖精への言葉を伝えてもらいます。
子供は体が大きめなので、妖精の体の中を使うことになりました。妖精の体の中は広いので秘密基地も建てました。たまに遊びに来ては、秘密基地でくつろいだり、妖精と悪魔の会話をお手伝いしています。
妖精は、子供から悪魔の話を聞いたりしています。探し物は見つかりませんでしたが、友達を見つけることができました。自分のからっぽの体でも友達の役に立つのです。もはや妖精の頭からは、探し物のことなど綺麗さっぱり消え去っていたのでした。
最後まで見つかることのなかった探し物。大切だったはずの妖精の探し物。もしも見つけてしまえば、妖精の体の中には何が残るのでしょうか。それは誰にもわかりません。




