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中二脳婦警

時の逃亡者

作者: 川里隼生

 一九九三年二月十五日、小樽に烏丸からすまりんという少女が生まれた。自己主張することが少ない、内気な性格に育った。


 小学校に入って、凛は一人の少年と出会った。少年の名前は木村きむら竜也たつや。彼もまた、クラスの中心になるような目立った人物ではなかった。五十音順で座ったとき、竜也は凛のすぐ後ろにいた。


 二人の関係が大きく変わったのは、一年生の冬のことだった。この年の冬、小樽にニホンザルの目撃情報が相次いだ。本来、野生のニホンザルは北海道には生息していない。後にわかったことだが、ペットとして飼われていたものが逃げ出したのだった。


 小樽市内の小学校では児童の安全を確保するため、集団登下校を実施した。ある日、所定の別れ道で二人きりになった凛と竜也は、件の個体と思われるニホンザルと遭遇してしまった。凛と目が合ったニホンザルは、歯を剥き出して威嚇するような行動をとった。凛は足が竦み、逃げられなくなっていた。


 その凛を救ったのが、竜也だった。躊躇なく防犯ブザーを鳴らし、自分の背中より大きめのランドセルをニホンザルめがけて放り投げた。ランドセルは命中しなかったが、防犯ブザーに驚いたニホンザルは民家の屋根伝いに逃げていった。

「もう大丈夫」

 ランドセルを拾って、竜也が言った。竜也のランドセルはアスファルトに擦れ、大きな傷がついていた。


 怖くなかったのか、と凛は尋ねた。

「うん。だって、俺もタイムレンジャーみたいに強くなりたいって、いつも思ってるから」

 竜也は自分がヒーローになったつもりでニホンザルと戦ったのだと語った。私も力がほしい。強くなりたい。凛はそう思った。この日から、凛は竜也に憧れを抱くようになった。


 それから十六年。凛は函館で警察官になっていた。着任するまでの道は決して楽なものではなく、理想の自分と現実の自分にギャップを感じた時期もあり、中二病のような少し痛い性格に成長していった。小学校以来、凛は竜也と再会していない。彼女がいつも奇妙な言動をしているのは、未だに竜也の背中を追い続けているからなのかもしれない。

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