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スカーレットオーク  作者: はぎわら 歓
第三部

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44/47

 直樹が新人を迎えに行っている間に、緋紗はテーブルの上をセッティングした。料理はいつも自分の客だからと直樹が用意してくれる。(私がするよりいいか)

綺麗な仕上がりの料理をみて緋紗は舌なめずりをした。


「ただいま」


 直樹が柚香を連れて帰ってきた。


「どうぞ」

「失礼します」

「いらっしゃい」

「浅井柚香です」


 緋紗より一つ目線が高く丸顔で愛らしい。栗色のボブで毛先がゆるく巻いてあり、ふんわりしたチュニックを着た柚香は林業女子というより森ガールだった。(こんなかわいい子が木を切ってるの?)

少し緋紗はおどろきながらテーブルへ促した。


「浅井さんはお酒飲める?」

「えーっと。あんまりですね。サワーを少し飲むくらいで」

 柚香は恥ずかしそうに顔を赤らめながら答えている。緋紗が甘めの白ワインを出して持ってきた。


「これでも少し召し上がる?」

「あ、すみません。ちょっといただきます」


 直樹は運転があるので、柚香のグラスと緋紗のグラスにワインは注がれた。優樹もテーブルに着き、みんなで乾杯をしてから食事を始めた。柚香が料理に感心をする。


「奥さんはすっごい料理得意なんですねえー。これじゃお店です」

「あ、いえ。これ主人なの」

「え。大友さんの?」

「お父さんは料理うまいんだよ。お母さんのご飯も美味しいけどね。」


 優樹が自慢そうに言った。


「すごいですねえ。私は料理全くダメなんですよねー」

「そうなんだね」


 直樹は優しく微笑んだ。柚香の話を聞いてやり、飲み物や食事にさりげない気配りをする直樹に今更ながら緋紗は(直樹さんってなんでもできるよなあ)と感心して見た。

と、同時に柚香の直樹を嬉しそうに見つめる様子に少し暗い気持ちを感じる。(女性の多い職場だったらモテモテなんじゃ……)

他の男の組合員に対する態度と全く一緒だと思うが、なんとなく柚香に対してはもっと優しい態度のように映ってしまう。(これからずっと若くてかわいい子のこと一緒に仕事するんだ……)

なんだか不安になってきてしまい、ワインを一人で飲んでしまった。


「そろそろ失礼します」

「送っていくよ」

「じゃあごちそうさまでした」

「いえ。またいらしてね」


 緋紗は頑張って笑顔を作って答えた。直樹と柚香が出て行った後、小さくため息をついて片付けを始めた。優樹も一緒に手伝いながら「さっきの人、お父さんと一緒に仕事してるの?」 と、聞いてきた。


「そうよ。女の人なのに頑張るね」


 緋紗はぼんやり答えた。少し片付けて優樹を風呂に促して寝かした。(なんか帰ってくるの遅いな……)ワインのせいか心配と嫉妬が入り混じった複雑な気分になってくる。

すっきりしない気持ちを入浴でなんとかし寝室で直樹を待った。


 帰宅した直樹は台所がすっかり片付いて暗くなっているので、風呂に入ってから寝室に向かった。ベッドでは緋紗がウトウトしかけている。


「ただいま」

「あ、おかえりなさい。気が付かなかった」

「いいよ。今日はありがとう」

「ううん。私は特に……。遅かったのね。遠いの? 家」

「うん。市の端っこなんだ。事故で渋滞もしてたから遅くなったよ」

「そっか」


 直樹はなんとなく落ち着かない様子の緋紗に「飲み過ぎた?」 と優しく聞いた。

こういう時の緋紗は何か解消できない思いを抱いていて、消化できずに困っていることが多かった。


「ううん。なんかあんなに若くてかわいい子がいつもそばに居ると思うと心配で」


 率直な物言いに直樹は(自分のことは全く気付いていないんだな)と沢田のことを思い出しくすりと笑って言う。


「緋紗以外に興味湧かないよ」

「ん。ごめんなさい」

「ほら、おいで。どっちが焼きもち焼きなんだろうね。緋紗と俺は」

「それは私でしょ」

「そうかな」


 その夜は『嫉妬』が二人のスパイスとなった。色々な感情が、負の感情でさえも二人の営みを深い味わいに変えている。



 新人に今日の仕事の説明をしていると直樹は柚香の視線が熱く注がれているのを感じた。先日、自宅へ招待した帰りの車の中での会話を思い出す。


『大友さんの奥さんって地元の人じゃないんですよね。どこで知り合ったんですか?』

『岡山のバーでね。ナンパされたんだ』

『えー。奥さんからですかあ。大胆なんだー』

『まあね』

『いいですねえ。私も大友さんみたいな人ナンパしたーい』

『今年の新人たちなかなか良さそうじゃない?歳も近いし』

『えー。もうちょっと大人っぽい人がいいなあ』


 あまり親切にすると女性に勘違いを促してしまった若い頃とは違うだろうと思い、何の警戒もしていなかったが緋紗の心配と柚香の熱い視線で直樹は少し自重しなければと思った。たいていの女は付き合えば女性としての関心の薄さを理解し、ただの親切だったと分かって去っていくのだがそういう訳にもいかない。(うーん。しばらく放置でいいか)

出来るだけ他の組合員と差なく接し、個人的な会話をほどほどに避けるようにした。そうやって一ヶ月が過ぎたが相変わらず柚香は直樹を熱っぽく見つめている。


 中学生になった優樹は孝太と同じ中学でしかも孝太について同じサッカー部に入った。今日は練習試合でまだ試合には出してもらえないがレギュラーの孝太を一生懸命応援している。


「孝太なかなかうまいね」

「優樹もすぐレギュラーになれそうだろ」


 送りついでに来ていた直樹と颯介は試合を少し観戦しながら話した。


「あのさ。この前のあれ。さすがだったよ」

「なんだよ。あれって」

「沢田君のことさ」

「ん? ああ。なんだ確認でもしたのか?」

「本人に聞いた」

「お、お前。相変わらず直球野郎だな」


 颯介は吹き出すが直樹はしれっとしている。


「早期解決が一番だしね。まあ、そっちはいいんだけど、ちょっと困ったことがあってさ」

「なんだよ。また女か」

「またって……。まあそうだよ」

「任せろ」


 直樹は新しく入った林業組合員の柚香の話をした。


「あー。そりゃ心配だな。お前が動かないのはわかってるけど。相手の出方がなあ。今時分、既婚なんて障害じゃないからな」


 直樹はため息をついた。


「この仕事って結構きついから遊ぶ余裕ってないんだよな。合コンとか行きそうにないし。職場の男もイマイチだってさ」

「うーん……」


 颯介は少し首をかしげてうなった後、「あ!閃いた!」と目を輝かせる。


「なに?」

「これはいいぞ」


 颯介は勿体つけた。


「早く教えろよ」

「よく聞けよー」

「うん」

「ピアニストと林業女子をくっつける!」

「え。沢田君と浅井さんをか」


 直樹には今一つピンと来なかった。


「今度ペンションに誘って会わせてみろよ。お前と緋紗ちゃん両方の心配がなくなるだろ。俺も見てやるから」


 颯介は半分野次馬だが直樹もなんだかいい考えに思えてきた。(確かに沢田君なら落ち着いてるし、歳もそんなに離れてないな)


「ちょっと考えてみるよ」

「おう。ディナーならいつでもいいぞ」

「じゃ、ちょっと帰ってくる」

「またな」


 直樹はもう一度、孝太と優樹の様子を眺めてから帰宅した。

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