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スカーレットオーク  作者: はぎわら 歓
第一部

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15/47

15

 静かな夜が明けうっすら朝日が差し込む。 


「おはようございます」

「おはよう。緋紗ちゃんも早いね」

「今日もよろしくお願いします」


 今朝は寝坊もせず、なんとなく手際が良かった。


「おふあよおー」


 小夜子があくび交じりでお茶を沸かし始めた。準備がほとんどできたころ朝食をとりながらミーティングをする。


「今日はねえ。女性客ばっかりね。三人グループが三組とペア一組。何かしら女子会ってやつ?」


 小夜子が面白そうに言った。


「というわけで今日はピアノ直君ね」

「昨日、調子良さそうだったじゃないですか」

「今日、なんか、つわりがひどくてえ」


 軽く抵抗したが、こういわれると直樹も従うしかなかった。


「好きなもの弾いていいわよ」

「適当にやっておきますよ」


 緋紗はまた直樹のピアニスト姿が見られると思い喜んだ。


「ああ、年が明けてるじゃないか、そういえば」


 和夫が思いついたように言い、四人で顔を見合わせる。みんなが休む時に働いていると、イベント事に疎くなってしまうのだった。


「あけましておめでとうございます」

 ――新しい年か。いい年になるといいな。


「新年早々だけど、昨日話していた皿作ってもらえないかなあ」

「いいですよ。何枚くらいあればいいでしょうか?」

「そうだなあ。三十枚ってどれくらいで作れる?」

「えーっと。ロクロで挽くのには二時間あればいけると思うんですが。仕上げもそれぐらいでしょうか」

「ほー。そんなもんでできる?じゃあ頼むよ」

「はい。じゃあ掃除とか終わらせて午前午後の暇を見てやっちゃいます。今日明日でできると思いますから」

「いやー助かるよ。粘土は昨日の使ってね」

「わかりました」


 緋紗はロクロが好きなので出かけた先でも回せるのが嬉しかった。そしてこのペンションがどんどん好きになった。

 客も朝食を終え、帰り支度を始めている。緋紗は食器を下げ洗いにかかった。直樹が拭いて棚に片付けていった。片付けが終わったころ客たちもペンションを後にして次の目的地に向かって行く。そうして空室になった部屋の掃除に取り掛かった。


 客室から浴室、フロントまで掃除が終わったので緋紗はアトリエに行った。


「じゃ緋紗、いい皿作ってやって」


 直樹は薪を割るらしい。

 粘土置き場からビニールに入った信楽粘土を引っ張り出す。ぶつぶつ計算しながらビニールを破った。

 少し考えて粘土の塊をとりあえず十等分し量った。同じ重さの玉状にした塊を四十個用意する。――これで失敗しても三十残ると思う。

 一個一個菊練りをして準備ができた。ロクロ台に乗せ土殺しをして中心を取りながら成形に入り二十枚挽いたとき和夫がやってきた。


「おおー。上手いなあー」

「ありがとうございます。一応四十枚作っておきますね。たまに底が締まってなくて切れることがあるので」

「そうか、そうか。そういうものなんだなあ」


 和夫は感心しながらロクロを見ている。


「また機会があったら作ってくれないかなあ。色々さあ。また来年も直樹とくるだろ?」

 ――来年……。

「そうですね。また来れたら来たいと思います」

 ――ちょっとこの先はわからないな……。


 なんとなく緋紗の不安を察したのか和夫は続けて言った。


「あいつ、いつも仏頂面で素っ気ないけどいい奴だよ。仲良くしてやってくれよな」


 褒めてるのかけなしてるのかよくわからない言い様だったが、きっと和夫は和夫なりに直樹を身内のように心配していたりするのだろう。緋紗はにっこりして頷いた。


「じゃ、キリが付いたらお昼にしようよ。直樹にも声かけてくれ」


 和夫の直樹を気に掛けている人柄の良さに緋紗の気持ちも暖かくなる。四十枚挽ききってロクロ台を片付けた。


 アトリエを出て直樹の薪割場に行く。カツーン、カーンと少し高めの一定の音が聞こえる。そっと近づいて様子を見てみる。直樹は小さめの片手斧を使い薪を割っている。暑いのだろうツナギの上を脱ぎ腰で縛っている。薄いTシャツが直樹の身体に張り付いていて筋肉のラインをはっきり映しだしていた。――綺麗な身体……。


 思わず見とれてしまい息を飲んだ。程よい筋肉と厚みが誇張しすぎることなく男らしさを醸し出している。割り終わったらしく直樹は手斧を置いて振り返った。


「ん? ああ緋紗。終わったの?」

「ええ。今、終わってお昼誘いに来たんです」

「そうか。ありがとう」

「汗かいてないですか? 冷えますよ?」


  緋紗は心配する反面ドキドキしながら直樹の肩のあたりをみた。――なんか私イヤラシイ人みたい……。

男だらけの備前焼界隈で、男の身体など見飽きているくらいなのに、緋紗はなぜか初めて見るような気持ちになる。


「暑いけど汗をかくほどじゃないよ。大丈夫」


縛っていた袖の部分をほどき直樹はさっと羽織った。緋紗は少し残念な気持ちで目をそらした。


「行こうか」

――どうしよう、好きかも……。


 漠然とだが気持ちが膨れていくのを感じた。――来年か……。

 これからどうなるのか想像すらできなかった。


 直樹は緋紗をテーブルに着かせ厨房に入っていった。今日のランチは鴨がメインの豆乳鍋らしい。ランチでは主にディナーの試食をする。今日は女性客のみなので『女性ウケ』を狙ったものを出すらしい。和夫と小夜子も同じテーブルに着いた。


「緋紗ちゃん、お疲れ様。もうお皿作ってくれたんですってね。仕事が早いのね」

「いえ。まだ明日高台を削って仕上げします」

「いやー。早いよー。ロクロ」


思い出したかのように和夫は感心する。直樹が鍋敷きと食器をもってやってきた。


「鍋来ますよ」


大きな土鍋がふつふつと音を立てている。


「お昼からすごいですね」


緋紗が目を丸くする。


「試食だし朝夕はゆっくりできないからせめてランチだけでもねえ」


小夜子が肩をすくめる。


「今日は女性が多いからデザートも増やしてね」


 客層によって違う対応に緋紗は感心した。どの道のプロもアマチュアとの違いは狙いや意志の明確さだと思う。長い時間かけてもぼんやりやっていては、いつまでも素人なのだ。彼女はまだ自分が好きなことをしてはいるが、その次のことを考えられなくて悩むことがあった。弟子生活は辛い時もあるが習うことが好きだった。しかしいつまでも修行中というわけにはいかない。緋紗が考えていると小夜子が、ちらりと直樹に視線を送る。


「直君も少しは考えてくれるといいんだけど、曲」

「そういわれても弾けるものが限られてますからね」


 直樹は素っ気なく言った。


「ふーん。ねえねえ緋紗ちゃんは好きな曲ある?」

「え、あ。えーっとあんまり詳しくないんですけどバッハが好きです」

「へー。意外~」

「繰り返す感じが好きで。ボレロも好きです」

「なるほどね。そういわれると緋紗ちゃんに合ってるかもしれないわね。直君なんか緋紗ちゃんの好きそうなの弾ける?」

「あの。お構いなく」


 緋紗はたいして知らないのにリクエストだけしたような雰囲気に少し慌てた。


「んー。なんか考えときます」


 直樹はまたさらっと答えて片付け始めた。直樹が厨房に行っている隙に小夜子が、「もっとなんか色々注文つけてもいいのよ?」 と、緋紗に耳打ちした。

「えー。そうですか? うーん……」

「小夜子は女王様だからなあ」


 和夫は笑って続ける。


「直樹も王様っぽいから、注文つけるならあいつのほうだろ」

――そういえば直樹さんと小夜子さんは雰囲気似てる部分もあるかも。私と和夫さんは庶民派かな。

 和夫になんとなく納得する緋紗だった。


 午後から緋紗はショップの整頓をした。賞味期限や値札を確認して在庫チェックをする。ほこりを払い商品をきれいに並べた。一つ一つ、このあたりの産物を見ていると小さな箱に入った小瓶が置いてある。――エッセンシャルオイルかな。

 三種類ほどあり全部木の香りのようだ。――スギ・ヒノキ・マツか。


「お試しがあるよ。嗅いでみたら?」


 直樹が後ろに立っていた。


「あ、ほんと」


 緋紗はコットンにしみ込ませた香りをかいだ。


「どれもいいですね。マツはなんとなく身近に感じますけど」

「僕はスギかな。仕事場はスギに囲まれてることが多いから」

「木って一括りに考えちゃいますけど全然違うんでしょうね」

「うん。香りもそうだけど、色も固さも用途も全然違ったりするからね」


 緋紗は直樹のする話が楽しくて聞き入った。


「同じ木なんてないんだよね。」


 直樹はやはり木が好きなのだろう。スギのオイルを嗅いでリラックスしているように見える。――直樹さんの職場の香りか。帰りに買って帰ろうかな。


 直樹がまた薪割りに向かったのを見送って、緋紗はまた商品の整頓を始めた。


 調理の手伝いも終わりディナータイムがやってきた。直樹はタキシードに着替えに部屋へ戻っている。緋紗は給仕に勤しみ客が席に着き始めたころ、厨房に下がって待機した。和夫と小夜子も待機して食事を始めた。そのうちに直樹のピアノが聴こえ始めた。食堂は白熱灯で柔らかい明かりだがピアノの位置は蛍光灯にしてある。ピアニストを目立たせてはいない。ただ耳の肥えた客は小夜子の演奏にくぎ付けになるのだが。今夜の食堂は女性客で賑わっている。いつもよりも賑やかだ。


「かしましいな」

「これだけ集まればね」


 緋紗はざわつきで直樹の演奏がよく聴こえないのが残念だ。直樹が『主よ、人の望みの喜びよ』を弾きはじめた。


「あら緋紗ちゃんの言うことよく聞くじゃない」


 緋紗は照れながらにっこりした。


「でもおしゃべりでよく聴こえないわね」


 緋紗もそう思ったがあくまでBGMであって演奏会ではないのでしょうがない。


「聴いてないけど直君は結構注目されてるわね」

「そうか? いつもあんなだろ」

「前はそうでもなかったけど今回は結構うけてるわよー。別の意味で」


 和夫と小夜子がそう言うので、気になった緋紗も軽く覗き見した。確かにちらちら直樹を見ながら談笑している女性客が何人かいる。なんとなく気持ちが滅入ってしまう。直樹がそういう関心を寄せられていることに不安になってしまった。


 昨夜のモヤモヤした気分を払うように冷たい水で顔を洗い、気合を入れ厨房へ向かった。

 厨房ではもうコンソメスープのいい匂いがしていて熱気で暖かかった。


「おはようございます」

「おはよう」


 エプロンをつけて厨房を見回って出来そうなことを見つける。とりあえず調理に使った道具類を片付けて洗い始めた。そのうちにお客が出てくれば給仕をすればいい。それまでは和夫と直樹の邪魔にならないように整頓をした。そうしているうちに小夜子がやってきた。


「おはよー」


 少し眠そうだ。


「おはようございます」

「おはよう。今日も元気ね」


 小夜子はあくびをしながらにっこり笑った。緋紗はお湯を沸かしてみんなのお茶の用意をした。そのうちに直樹が朝食を並べたのでみんなで座って食べた。小夜子が今日の予定を話し出す。


「えっと。今日は家族三人が一組、女性三名一組、カップル二組以上。で明日やっと冬季休業です」


 やれやれと言うように小夜子はお茶を啜った。


「緋紗ちゃんは明後日帰るんだったな。今日一日頑張ってくれ。皿も頼むな」

「あ、いえ。頑張ります」

「そっか。早いわね。もう帰っちゃうのね。残念だわ」


 詰まらなさそうにしてくれる小夜子に緋紗は嬉しかった。


「明日の午前にはお客が引けてしまうから午後からのんびり温泉でも入ってね。夜はゆっくりディナーにしよう」

「せっかく来たんだし仕事ばっかりじゃかわいそうよね」


 和夫と小夜子が口々に言う。


「ありがとうございます」

 ――温泉楽しみ。


「直君もゆっくりしていいわよ」


 小夜子が挑戦的な目つきで言う。


「そうしますよ」


 直樹も応戦した。



「客室は僕が片付けるから緋紗は皿を仕上げてやって」

――直樹さんばっかりに仕事してもらってるなあ。


 少し申し訳ない気がしたが皿の様子も気になったのでアトリエに向かった。気温は低いが空気が乾燥しているので結構乾いている。――削りごろだ。

 全部の皿の乾き具合を調べて並べ直す。何にでも頃合いというのがあって、それを逃すと難しかったり失敗したりするのだ。道具類の中からカンナを探して皿を削り始めた。クルクル回る皿を削る。

ぽってりしたラインが少しシャープなラインを見せ始めた。しかし、ロクロで挽いた柔らかい雰囲気を壊してはいけない。ギャップがあるのも面白いが、ちぐはぐにならないように気を付ける。使うのは勿論、表のロクロされた面だが作り手の力量は高台に出てくるのだ。削った底の厚みを確認しながら無駄なものをそいでいく。削って形を作るのではなく、その土の中にあった形を発掘する気持ちで緋紗は仕上げた。

違う粘土を使うのは何年かぶりだったがうまくできたように思う。――和夫さんにサイン入れてもらっておかなきゃ。

 固く乾いてしまう前に和夫を呼びに行った。


 和夫は厨房に居て、夜のための仕込みを行っていた。


「失礼します。オーナー。皿が仕上がったので良かったらサインお願いします」

 和夫は気を良くして、「オーナーなんて言ってくれるの緋紗ちゃんくらいだな」手に持っていた小皿を渡した。


「これは?」

「鹿のステーキ」


 赤い肉の塊をつまんで食べてみる。


「柔らかくて美味しいー」

「緋紗ちゃんはなんでもよく食べるね。小夜子もだけどな」

「肉体労働者なので」

「ごちそうさまでした。お皿も仕上がったので窓磨いてきます」

「助かるよ。ほんとまた来てくれるといいんだがな」

「私も来れるなら来たいです」


 照れながら頭を下げて厨房を後にした。

 入れ違いに直樹がやってくる。


「和夫さん。今のうちにやっておくことありますか?今年は忙しいでしょう」

「うーん。小夜子もいつまで動けるかわからないしなあ。そろそろ従業員欲しいけど直樹どうだ?」

「僕はいいです」

「即答だな。今の仕事より給料あげてやれるけど? ここの仕事はちょっと休みがカレンダーとずれちまうけどな」

「今の仕事で満足してますよ」


 直樹は心からそう思っている。


「じゃもう少し薪を割っておいてくれ」

「了解」


 直樹は厨房を離れた。直樹と緋紗の関係をはっきり聞いていないが、和夫にしてみると彼女は直樹にとって今までにない特別な女性だとは思っている。

 和夫はこの短期間の間に緋紗のことも気に入っていたので、どうにか上手くやっていって欲しいと望んでいた。


 昼食を済ませた緋紗はペンションの隅々を見学した。太い丸太が何本も使われて無骨だが頑丈で温かみのある和夫そのもののような気がした。ペンションの周りを歩いてスカーレットオークの木にぶつかる。そっと幹を撫で直樹との会話を思い出していた。


 夕方になると客が次々にやってきた。緋紗は厨房にこもって作業をしていたのでどんな客が来ているかよく知らなかったし、たいして知りたいとも思わなかった。小夜子から軽く客層のデータを聞き、それに応じて多少対応を変えるくらいだった。

直樹はピアノ演奏のため、多少客と顔を合わせることもあるだろうが、緋紗は裏方なので客と話をしたのは、この前の陶芸教室くらいだ。今夜の客もなかなか賑やかだ。女性のグループはいつも元気だ。ディナータイムのピアノは直樹が担当なのである程度準備を終えたあと着替えに行った。

直樹のピアノを聴けるのも今日が最後かもしれないので、緋紗は客が静かに食事をしてくれるように祈った。客たちが夕食の席に着き始める。料理も並んで落ち着き始めたころに、直樹もやってきてピアノの前に座った。静かにピアノが流れ始める。

聴き始めた客もいるがそんなに主張もしない演奏なのでさらっと流されていた。今日は緋紗にもよく聴こえてきた。――良かった。聴こえる。


 昨日は騒めきでよく聴こえなかった。ついでに直樹のタキシード姿も目に焼き付けておきたいと思い、そうっと覗いた。ライトの加減で直樹は青白く、より冷たく硬質な雰囲気が漂っている。無機質だが精密な指先の動きがセクシーだ。演奏を聴いているとあっという間に時間が過ぎてしまいそうだ。小夜子に「緋紗ちゃんもっと食べないとだめよ?」と、注意されてしまった。


 小夜子は緋紗が真剣な目で直樹を見ている様子に、和夫と同様(この娘が悲しい思いをしませんように)と思うのだった。

 演奏が終わり、軽く拍手をもらって頭を下げ、直樹は立ち去ろうとした。すると女性客の一人が何か話しかけた。直樹は軽く驚いた様子だが、すぐに笑顔で答えていた。――なんだろ。楽しそう……。


「営業スマイルよ」


 不安な表情を見せた緋紗に小夜子はフォローを入れる。


「そうですかあ」


 間の抜けたような返答をして緋紗は片付けを始めた。直樹はまだ何か女性と話している。緋紗は気になってしょうがないが気にしてない素振りで仕事に集中するよう努めた。女性が手を振って直樹から離れた。直樹もまんざらではなさそうだ。しばらくして着替えた直樹が降りてきて手伝い始めた。


「さっきの女性は知り合いか何か?」


 小夜子はすぐに聞く。


「ああ。中学の時の同級生。十六、七年ぶりに会ったよ。こっちは最初、誰かわからなかったけどね」

「ああ。そうなんだ。地元なのにここに泊まってくれたのね」


 小夜子はへーという顔をした。


「女三人プチリフレッシュ旅だってさ」

――なんだ。同級生か……。


 聞いてくれた小夜子に感謝し、少し安心した緋紗だった。


 二人で浴場に向かうと浴場の前にさっきの女性が立っている。


「大友君、ちょっと」


 直樹を呼びつける。


「じゃあ緋紗ここで」

「あ、はい」


 緋紗は黙って頭を下げて浴室に向かった。直樹は女性客とロビーのほうへ去った。後ろ姿を見送って緋紗は入浴することにした。 広い風呂場が寂しく感じられる。――どれくらい親しかった同級生だろ。


 不安の影がもやもやと広がる。身体をゴシゴシと洗って湯船につかったがすっきりしない。落ち着かなくなり出ることにした。部屋に戻ろうと歩いているとロビーから話し声が聞こえてきた。まだあの女性客と直樹は話しているらしい。――あーあ。今日は暖炉に行けないな……。 

 ベッドに入り、珍しく何度も寝返りを打ち緋紗は眠った。

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