4 第2話 再会とは呼べない再会 前編
異世界の地形は、人間界のものと全く同じものだった。
ギアスの母国であるキサルニア王国は、人間界でいうところのドイツとポーランド、チェコの三国にまたがる先進国だった。
緯度の割には温和な海洋性の気候であり、時折高温乾燥の風、フェーンが吹き下ろす。湿潤な夏と冬が特徴で、多湿な西風が卓越し、一年を通して降水がある。北は海に面していて夏はより涼しくて、とはいえ、冬もそれほど厳しい寒さとはならない環境だった。
なんといっても特徴的なのが、その国の形である。イタリアなどはブーツや長靴としばしば例えられるが、キサルニア王国はただただ丸い。
それもコンパスで描いたように正確な円を描いていた。そしてコンパスの針がくる国の中心には、あの世まで届いてしまいそうなほどに高く高く、一本建の巨大な王の城が槍のように天を鋭く突いていた。
日が落ち、きらきらと宇宙のように夜景が煌めきだしたこの先進国のど真ん中にだけ何百年も昔の巨大建造物がそびえ、ルーツを伝える様はとても場違いで、とても神秘的であった。実はこのキサルニア王国こそ、異世界で初めて誕生した国であった。西暦1500年代、人間から進化という形で主にヨーロッパから発祥した、ウーバスタンドと自称する属性者たちは、人間たちとの衝突を回避するため異世界を創世し、新たなユートピアとしたのであった。つまりこのキサルニアの王の城はウーバスタンドたちの自由の象徴でもあるのである。
クレミア捜査官の覆面パトカーでギアスたちが連れてこられたのはこの塔状の城だった。クレミアは一旦本部に戻るそうで、ここではギアスとシフォン、ヒョウガの三人が降りた。
城の外装は流石、足から頭までの全てが艶めく大理石という、なんとも夢のように美しいものである。ギアスとシフォンはキサルニアにいる間はこの城を自由に使わせてもらえているのだった。
高さがあるために、階数は200にも及ぶ。その190階の辺りがギアスたちの生活範囲に当たり、まずは人間界から連れてこられたという二人の人物が待たされている広間を目指した。
塔の中心に通っているエレベーターで一気に上っていく。ギアスたちは195階で降りた。
195階はフロアの半分が食堂で、もう半分が憩いのためのスペースである。これから行こうとしている客人をもてなすための広間の他に、談話室や外の景色を一望しながらくつろげるリクライニングルームなどもあり、ゆっくり過ごすのに最適なフロアとなっていた。
内装は豪華だが落ち着いている。ワインレッドの毛足の長い絨毯が敷かれていて足音もしない。壁は白とキャラメル色の縦ストライプで、時々光を鈍く反射する金の額に嵌められた絵画がかけられていた。そして天井では昔ながらにロウソクを使ったシャンデリアが並び、揺れる炎の灯りがぼんやりとこちらを見下ろしていた。
「スカイさんとフィジーさんに話してあるのは車内で言っていたことが全てです」
二人が待つ広間の手前でヒョウガはそう一旦足を止める。こちらを半身で振り向き、
「二人が知っているのは、ギアスさんがメネスに命を狙われている、破壊という希少なウーバスタンドであったために人間界で匿われていたということ、そして自分たちはギアスさんと問題を共有できる存在となるため、幼い頃に一緒に人間界へ連れていかれていたということ、それからこの世界が"亞界化"していて、二度目の西暦2108年にあるということです」
「ああ。亞界化については多分二人もよく分かってないだろう」
「そうかもしれませんね。普通では考えられないことですから、詳しく話すべきでしょうね。ひとまず、二人とも自分たちもウーバスタンドであったことは知っているままで良かったです。そこから話すとなると面倒なので」
ギアスはその通りだと深く頷く。
「あいつらは人間界で暮らしてた時点で既に自分たちもウーバスタンドなんだって知らされてたらしいからなぁ。オレだけ珍しい属性をいい気になってイタズラに使わないように秘密にされてたんだから、まったく、ひどい話だったよ」
「まあ、イタズラに使っていたらそれだけでメネスに気づかれた可能性もありましたからね」
「仕方ねぇよな、まあ。とりあえず、そこまで話が分かる状態だったんならほぼ亞界化の話になるな」
「ええ、そうですね。それからは作戦会議でしょうか。どうやって今抱えている数々の問題を乗り越えていくか」
ギアスの横で話を聞いていたシフォンは、ヒョウガが二度目の西暦2108年と口にしたときから残念そうにしていた。
亞界化とは、要するに時代のやり直しなのである。一度目の2108年が終われば2109年が来るのが普通だが、大きな異変が起き、異世界も人間界も2108年の7月上旬に遡ってしまったのだ。
シフォンは特に一度目の2108年に、ギアスの幼馴染のフィジーにとても可愛がられていた。けれど彼女も亞界化のことを認識していないということは、つまり二人の思い出の全てが、忘れられているどころか、まだこれからのこととなってしまっているのである。
シフォンの気持ちは、ギアスもヒョウガと話しつつよく理解でき、胸が痛かった。しかし彼は気丈に、むしろシフォンの頭を撫でて慰めてやった。
「アイツらはアイツらだ。他の誰かに変わったとかじゃないから、二人を信じよう」
「……、うん」
不安そうだがシフォンは頷いた。
心の準備を整え、二人の待つ広間へと入っていく。




