24 第11話 破壊してはならないもの 前編
午前11時頃。
レイドは人間界でいうところのアメリカ大陸を横断し、キサルニアに到着。上空から国を見下ろしていた。
銀色に輝くビルの森。その中でもキサルニア王の城は一際高く、雲をも貫いて、こんな国の端からでも見ることができた。
「あ、ああ〜。やっと着いた。着いたはいいけど……、どう探そう」
当たり前かもしれないが成層圏からでも見えるだけの国土だ。その中から一人の人物を見つけようなど、砂漠から一本の針を探し出すようなもの。レイドはうなだれた。
「とりあえず、王様に会おう。ギアスがいる場所が分かるはずさ! ……確か、あの高い塔の一番上だったような……」
レイドは王の城を目指し、いよいよ国土に侵入する。しかし、目に見えない、硬い壁のようなものにぶつかった。
「イッタ! あうぅ……、何これ。結界?」
ぶつけた額をさすりながらよく目を凝らすと、確かにガラスのようなもので国全体が覆われていた。唯一の光の属性者であるキサルニアの王が国を守るために張った巨大結界だった。
実体化するほどのエネルギーで形成された結界など例えデウマキ兵であろうとも力づくでの突破はほぼ不可能。内側にいる誰かから手を引いてもらうなどしなければ通過することはできない。レイドは両手に拳を握って悔しそうに歯ぎしりした。
「くぅ〜! ここまで来るのに結構時間かかったのにぃ〜! ふん、こうなったら……」
レイドはゆっくりと降下し、地上へ降り立った。
キサルニアはキサルニア王立ミリタリー学園というドーナツ型の巨大な学園が全土を囲んでいる。フルネームでは長いのでミリタニアと略されるこの学園は、人間界に詳しいウーバスタンドからはまるで円を描く万里の長城だと言われ、無邪気な子供たちからは無限廊下と言われて世界でもとても有名だった。
レイドは地面に正座して、丁寧に両手をついて、
「誰か〜、入れて下さ〜い! お願いじゃ〜! 私、デウマキの人なのじゃ〜!」
学園に向かって、誰にともなく頼み込んだ。けれど豪奢な装飾が施された学園は鉄の城壁のようにただ彼女を見下ろしてものを言わない。
レイドの脳裏にいつかのギアスの笑顔が浮かぶ。一緒にデウスエクスマキナで過ごした日々、あのお気に入りの六角柱の端で星を見上げた夜……。
「……ぐすん。どうしてじゃ〜、私はただ、ギアスに会いにきた、それだけじゃのに」
「んん? 誰だい? そこにいるのは」
「はっ!」
浮かびはじめていた涙を拭って見上げると、学園の窓が開いて茶髪の女性がのぞいていた。長い前髪を掻き上げて背中側へ流し、広い額をチャームポイントにした童顔の教師、ソニアだった。
「あれ! レイドじゃん! どうしたんだよ、珍しいな!」
「うあ! ソニアさん! よかった〜、知ってる人に会えた〜!」
レイドは瞳を黄色く輝かせ、胸の前で両手を合わせて飛び跳ねた。
ソニアはすぐに錬金術で壁をすり抜け、レイドの前まで出てきてくれた。
「おお、髪型変わってる! なんて言うか知らないけどメッチャ似合ってる! 少し見ない間にまた女の子らしくなったんじゃない? このこの〜!」
「いやっは! くすぐったいってば! あははは!」
ソニアに肘で脇の下を突っつかれて、レイドはくすぐったくてコンニャクみたいに体を揺らす。突っつかれている間にいつのまにか結界の内側に入っていた。
「で? 今日はどうしたんだい? もしかして一人? 今日はお休みかな?」
「ううん、その、ギアスを探しにきたんじゃ」
レイドの瞳はブルーに戻り、薄く翳って地面に視線を落としていた。落ち着きなく両方の人差し指をつんつん突き合わせた。
「ギアスが生きてるとか、そういうことは聞くんじゃがさ、ギアス本人からはまだなーんも連絡がないけぇ、心配で、心配なんさ」
「はあ!? ったく、アイツ何考えてんだろうねぇ。最近変だとは思ってたけど、まさか自分の彼女までこんな仕打ち……、かぁ〜ッ! 許せん!」
ソニアは拳を握る。血管が浮き上がるほど強く握って、目には炎が燃えているように見えた。あわわ、とレイドが慌ててソニアの拳を抑え込む。
「と、とりあえず、ギアス生きてるんさな? 本当に本当に、生きてるんさな?」
「ああ、生きてるとも。全くの無傷でピンピンしてる。つい最近までこの辺の妖どもを片っ端から倒して回ってたよ。って、お、おい、レイド? 大丈夫?」
レイドはギアスが生きていると、彼と親しい人から聞いて涙が込み上げた。しかも健康そのものでいるという。溢れる涙は拭っても拭っても止まらない。
「私、ギアスがさ、シナリオとかいうメネスと戦って、大変だった聞いたんじゃよ。そんで、ギアスが生きてるっていうのは聞いてたんじゃけど、本人からなーんにも連絡なくてさ、私、ずっとみんなが私のこと気ぃつかって嘘さついてるんだと思ってたんじゃ。ギアス、ものすごく強いからこんなこと今までなかったし、もし、生きてなかったらどうしよって、気が気じゃなかったけぇ……、嬉しいて、たまらないよ」
「そうかそうか。大丈夫だよレイド。ギアスならちゃんと生きてるし、あたいもついこの間会ったばかりだ。でも、今はここにはいないな。今頃は西の果てにあるレインズって国にある修行場にちょうど着いた頃じゃない? 雨雲に唯一晴れ間が差してる区域だからすぐ分かるよ」
「れ、れれれへれへれれっ、レインズ!?」
「お、おお、おう、そうだけど?」
どうしたのか、レイドが目を回しそうなほど慌ててソニアは戸惑った。
レイドは握り拳を胸の前で二つ握って、背の高いソニアの顔をほぼ真下から見上げる。
「今のレインズは危ないけぇ、大変じゃよ! 私、今すぐギアスのとこさ行ってくる! ありがとう! いってきます!」
「お、おお、うん。気をつけて——ヒエーッ!」
レイドは再び電磁浮遊し、突風を巻き起こしてレインズへ飛んでいった。
あまりに一瞬の出来事。ソニアは不意を突かれて吹き飛ばされてしまった。




