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22 第10話 ウーバスタンドは老いない 前編

 フラウズの屋敷はなかなかの広さだった。

 南北に長い長方形の間取りで、南側半分は道場となっており、すぐ北へ行ったところに居間があった。西側にちゃぶ台があり、東側が台所になっていた。残る北側は西側が寝室、東側が浴室となっていて、寝室は東西を繋ぐ廊下を挟んで十二部屋もあった。西側には南北を一貫して軒下廊下が渡され、昔ながらに障子で仕切られていた。


 師匠はやはりフラウズの他にももう一人いるらしいが、新しい弟子を歓迎しようと張り切って山へ食材を取りに行ったっきりでまだ帰っていなかった。仕方ないので少し大きめのちゃぶ台越しにフラウズと対面して座り、饅頭(まんじゅう)を出してもらった。


「いやはや、こんな辺鄙(へんぴ)なところまで、皆、ご苦労じゃったのう。あの雨はうんざりしたじゃろうに。ささ、つまらんものじゃが遠慮なく食べるといい」

「あ、ありがとうございます」


 ギアスが軽く礼を言い、左右でスカイとフィジーも軽く会釈して饅頭を手に取る。中は王道のあんこで、出された緑茶とよく合った。

 フラウズは客人をくつろぎやすくしてやるためか、饅頭を二つ三つと進め、一番くつろいでいた。お茶もあっという間に四杯目。あ〜、と満足そうに喉を鳴らした。


「ギアスとな。お主は世間話は嫌うらしい。単刀直入に本題に入るが、特に何を鍛えたいかのう」

「身のこなし、です。機敏さが欲しいですね。今までは力技で色々強行突破してきたので」


 ギアスは破壊の能力があまりにも強力すぎるせいで、大抵の場合は一歩も動かずに決着をつけてしまっていた。実際、ほとんど機敏さなど必要ないのだが、このまま欠けているままにしては亞界化のときと同様、その弱点に付け込まれることが考えられる。メネスに対抗するためには完全無欠であるに越したことはない。


「ほっほっほ、なるほどなるほど。お主は元気が良いのじゃな。他にはあるかのう?」

「いえ、今のところは、機敏さくらいですね。自分に分かる足りないものはそのくらいです」

「ふむ。ならばまずは、今頃山菜摘みで難儀しておるのに教わるといいのう。大抵のすばしっこい連中は皆、あやつに指導されておる」


 フラウズは四杯目の残りを飲み干し、ぷは〜っとやった。そして、何やらフィジーの体を下から上へ、上から下へと舐めるように眺めた。


「よか女子(おなご)じゃ〜。めんこいの〜う。どうじゃ、片方で良いから、おっぱい見せてくれぬか?」

「……! ええ!?」


 唐突に何を言い出すのか。みんな耳を疑った後、フィジーは耳まで真っ赤にした。平和な日常が一瞬で吹き飛ばされたような衝撃が走り、ギアスも必死に笑いを堪えた。


「な、ななななな何言ってるんですかいきなり! お、おおおおぱ、おお、お……いなんて、そんなの見せるわけないんだから!」

「ほっほっほ! おもしろいのう! いや〜たまらん。ほっほっほ!」


 スカイは隣でフラウズにつられて爆笑だ。畳を叩いてはお腹を抑えて大笑いである。

 ギアスがやっと込み上げた笑いを飲み込んで呟く。


「おかしいな。たった今本題に入ったはずだったのに」

「マジそれな! どういうことだよ、はっはっはっは! あ〜、やべぇわマジで」


 スカイは笑いすぎて涙目になっていた。指で拭いながらまだ笑っている。


「もう、三人とも信じらんない! 変態ばっかじゃん!」

「まあまあ、冗談に決まってんだから落ち着けよ」


 ただ一人恥ずかしそうに顔を真っ赤にしたまま怒るフィジーに、ギアスは二つ目の餅の包みを剥がしながらなだめた。

 とにもかくにも、フラウズの唐突な一言で微妙な緊張がほぐれた。


(哀れフィジー。場を和ませるのに利用されやがって)


 そんなことを思いながらギアスは饅頭を咀嚼。こころなしかさっきより美味しく感じた。

 ひとしきり笑って落ち着いたら、フラウズがゴホンと咳払いする。


「冗談がすぎたのう。ほっほっほ。ま、男に囲まれていながらその程度の淫語も恥じらって言えぬのなら、大事にされておる証拠じゃよ」

「もう、なんかいい感じの話にしようとしたって無駄なんだから! とりあえず、それは置いといて、さっきから気になってたんですけど、どうしてフラウズさんは——」

「毒の影響じゃよ。わしがどうして老いているのか聞きたいのじゃろ?」


 きっとフラウズにとってはお決まりの質問なのだろう。先に答えてしまった。


「まあ、どうせあやつが山菜摘みから帰るまで昼飯はお預けなのじゃ。実を言うとな、この老いぼれも昔はデウマキ兵をしていたのじゃよ。じゃが、ある任務でメネスとの戦闘に巻き込まれてしもうた。あれはお主らが生まれたくらいの頃になるのかのう」


 お決まりの質問には答え慣れているとみえる。重々しい話の内容に反して、リスのように饅頭を咀嚼しながら話し始めた。

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