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14 〜変貌〜 ③

 来る日も来る日も、バクは毎晩のように打たれていた。

 痛みに慣れてしまったのか、そのうち彼の悲鳴も聞こえなくなり、ネルも現実逃避が上手くなっていった。毎晩聞こえるのはムチの音だけ。悲鳴が無くなった分、眠りやすかった。


 どんなに問い詰めてもバクは何も言わない。何事もなかったように微笑みかけてくるばかりで何も教えてはくれなかった。

 話が聞けたからといって何ができるわけでもない。ネルはただ、無力で、現実から逃げるだけの弱い自分に苦しみ続ける日々を過ごしていた。

 だが、初冬の頃、ネルの瞳に赤いものが煌めいた。


「また魔物が出たそうだ。コイツがそうなんだとよ」

「うそ、まだ子供じゃない」

「やだ、ウチの子、この子と遊んだことあるわ。危なかった、これからは子供だけで遊ばせるわけにはいかないわね」


 十字架に(はりつけ)にされた少年が、生きたまま火炙りにされていた。

 母親との買い出しの帰り道で偶然町の人々が群がっているのを見つけ、ネルも慌てて駆けつけたのだった。

 特殊な能力を持つ者は魔女狩りに見つかり次第、捕らえられ、群衆の前で火炙りにされるのが日常。決して珍しいものではなかったが、まだ子供の魔物が捕らえられたのを見たのは初めてだった。


 真っ赤な炎に包まれ、ぐったりとして死んでいく少年。まさかと思ったが、バクではなかった。

 すうぅ、ぅ、と体から力が抜けていく。バクが毎晩打たれていたのは魔物だったからなのではと思ったのだ。


「やだわ、ネルちゃんったら。こんなのネルちゃんの見るようなものじゃないのよ」


 母親が前に立ちふさがった。

 しかし、もう遅い。バクくらいの年の男の子が、夜闇の中で赤く燃える炎に焼かれ、生きながらに灰にされていく地獄絵図が既に目に焼き付けられていた。

 

「……うん。ごめんなさい」

「早く帰りましょ。これからご飯なのに、ノドを通らなくなるわ。さ、行くわよ」


 母親に手を引かれ、ネルも背を向ける。次から次へ集まってくる野次馬たちの流れに逆らい、火炙りにされる少年をあとにした。



○○○○



 バクが打たれているのはどうしてだろう。どれだけ時間が経っても分からなかった。

 バクは魔物なのだろうか。それとも魔物と何か関係を持ってしまったのだろうか。そのくらいのことでなければ毎晩打たれたりするだろうか。疑問ばかりが浮かんで答えは一つも得られない。

 そうこうしているうちにもバクは苦しんでいる。今晩もまた、ムチの音が響いていた。


(誰か、助けて……)


 ネルはもう我慢の限界だった。あの火炙りにされていた少年とバクが重なって見えた。毎晩ムチで打たれる生活など、火炙りにされているのと変わらない。それでも苦しみに耐えているバクを見ていられなかった。

 ネルはベッドに潜り、目を固く閉じ、両手を合わせて必死に祈る。


(お願い、神様。どうか、バクを助けてください。このままじゃ、バクが、バクが死んじゃう!)


「……!」


 ネルは掛け布団の中ではっと目を開ける。誰かの手が頭を撫でたのだ。

 母親のものでも、父親のものでも、バクのものでもない。何故なら父親はこの時間は酒場へ行っている頃だし、母親とバクは家畜小屋にいる。


「可哀想に。私が、助けてあげましょうか?」


 背後で美しい女の声がした。とても優しい声だが、どうして、こんなに不吉なのだろうか……。

 ネルは恐る恐る布団をめくり、彼女の顔を見上げる。絵本でしか見たことのない、お姫様みたいな豪奢な蒼白いドレスを着た、白銀の髪に水色の瞳をした美しい女が微笑みかけてきていた。陶器のような真っ白の肌をして、こんな夜闇の中でも輝いて見える。

 神様に祈りが届いたのだとネルは思った。


「ほ、本当?」

「ええ、本当よ。大丈夫、怖がらないで。私があなたに魔法をかけてあげる。さあ、いらっしゃいな」


 女が手を差し出す。ネルはその手を、とってしまった。

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