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10 第4話 明晰夢の 後編

 国際連合軍デウスエクスマキナとは、異世界中の実力者たちの中の実力者たちによって構成される超エリート軍事組織のことである。名前は長いのでデウマキと略され、その兵士たちはデウマキ兵と呼ばれていた。


 異世界の中で特に強力な軍事力を誇る国の少佐クラスがデウマキ兵の中でも最も地位の低い者に相当する程度のレベルにある。太平洋の中心に位置する本部を基点に異世界を16方位に区分、その数だけデウマキ兵たちを均等に配置し、メネスの襲撃など問題が発生した場合は即座に近隣国の軍と連携して対応することが彼らの役割だった。端的に表現すれば助っ人集団である。


 実をいうと、一度目の2108年の約1年間、ギアスもデウマキ兵として活躍していた。デウマキはもちろん軍事組織でもあるが、同時に異世界中の機密情報を集約した情報機関でもある。シフォンをウーバスタンド化する方法もデウマキでなら見つけられるかもしれず、もし見つけられなかったとしても異世界中を巡ることもできるので入隊することが近道になると考えたのだった。


 しかし、得られた手掛かりは他者のエネルギーを奪って凝縮しろという曖昧なもののみ。しかも亞界化によってふりだしに戻された今、ギアスはこれからデウマキ兵になる状態になってしまっている。現在の地位はデウマキ兵ではなく、一般社会を彷徨う無名の実力者だった。


 ディスティはギアスがデウマキに入り、力をつけてきた頃からタイラントという組織への異動を勧めていた。タイラントとは、生前デウマキ兵だったディスティ自身が創設した隠密部隊であり、上位階級にあったデウマキ兵もしくはそれに相当する実力者たちで構成されている。デウマキが異世界中の問題解決を目的とするのに対し、メネスの殲滅を第一目的に活動する対メネス組織だ。だがメネスもそう頻繁に行動を起こすわけではない。彼らの位置が把握できないときがほとんどであり、その間は個人の目的のために自由に活動して良いことになっていた。


 けれどギアスはデウマキでもタイラントでもウーバスタンド化の手掛かりの探しやすさに大差はなく、それに当時も進行中の問題を抱えていたため、異動を考えられた状態ではないと断っていた。

 しかし、実力も得つつ無名に戻された今では話が別である。タイラントにはデウマキ兵の中でも上位階級にいた者たちが集まっているのだ。もしかしたら彼らと関係を持つこともウーバスタンド化の手掛かりを得ることに繋がるかもしれなかった。

 また、ギアスは力をつけすぎ、デウマキでは物足りないとも感じていたので余計に心が揺れた。


 一度目の2108年の頃、最後の戦闘となった亞界化の元凶である運命を司るメネス、シナリオとのときも、生き残っていたのはもうギアスしかいないという状態だった。結局は亞界化によって時間が遡ったため、当時の死んだ仲間たちもまだ死んでいないことになり生きているらしいが、自分以外が全滅するという状況はもうごめんだった。

 タイラントでなら自分以上の戦闘能力を持つ、まるで化け物のような先輩たちばかりなのだから、そんな酷いことにはならないだろうというのもある。


「確かに、このタイミングならタイラントもいいかもしれないな」


 しばらく考えてそう返した。

 ふうぅ、ぅ、ぅ……。やっと言ってくれたと言うようにディスティが煙をゆっくり長く長く吐き出した。

 そして二言(にごん)は言わせまいといつものゆっくりした口調も忘れる勢いで、


「よし、決まりだな。ただ、タイラントは隠密部隊だ。本部なるものも持たず、数人単位の小隊規模に分かれて活動している。そのうえタイラントのメンバーは隠密性のために自分がタイラントだとは名乗らない。今すれ違ったやつが偶然タイラントだったかもしれないというくらいの状態だ。コンタクトが取れるまでには時間がかかるかもしれないが、これからギアスは確か、どこかへ修行に行くって話だったな?」

「ああ。修行がひと段落する頃には見つかりそうか?」

「さあ。100パーセントとは言い切れないが、まあ見つかりそうではある。タイラントの誰もが、この世界一発展した国に隠れていないとは考えにくいしな。少なくとも半年もあれば王なら見つけられるだろう」


 そこまで話してまた葉巻を咥える。驚いたギアスの顔にふわふわと煙を吹きかけた。

 ギアスは煙を手で鬱陶しそうに払いながら、


「王様でも見つけにくいのかよ。メネスに不意打ち食らわせるために隠密体制とってるみたいだけど、そこまでいくとはすごい殺意だな」

「まあ、初代リーダーの私がついつい死んじまったから余計なんだろうなぁ」


 いやはや具合が悪いとばかりに葉巻に食いつく。

 デウマキは主に上から大元帥、大元帥補佐官、元帥、元帥補佐官と位がある。元帥と元帥補佐官は16方位ごとに一人ずつ配置され、それぞれの方角の部隊を上官である大元帥と大元帥補佐官の指示の下で指揮していた。


 ディスティは生前、地位こそ元帥に留まっていたがその実力は大元帥補佐官以上だった。元帥の中でも頭一つ飛び抜けた彼女はタイラントを創設し独立。デウマキ内外から抜きん出た実力者たちを集めて現在のタイラントの土台を築いていた。


 だが、そんな彼女ですら死に至らしめられてしまったのだ。残された部下たちが何も思わないはずがなかった。メネスへの殺意の現れでもあるタイラントの現在の隠密性の高さはディスティの死が一番の原因だった。

 ディスティは深いため息と共に大量の煙を噴出する。


「あーあ。昔は私の独断と偏見だけで誘いをかけれたのに、その私は死んだし、そのせいでタイラントは探しにくくなったし、どうせ入るのも容易じゃなくなってるんだろうなぁ」

「今のオレでもキツいのか?」

「ああ。今度こそアンタも死ぬかもしれないね。もし私のすぐ下にいたヤツが力比べを仕掛けてきたんならね」

「……ま、なんとかなるだろ。これから修行もするんだしなぁ。今のオレに足りないのは身体能力。それさえどうにかすれば——」

「見込みはあるだろうさ。あくまで、その身体能力の鈍さを克服できたらの話だがな」


 ギアスもソファーに深く背を沈め、あごの先を撫でて難しい顔をする。正直なところ、聞くタイラントの話に狼狽(うろた)えていた。

 まだ19という若さでは今背負っている運命だけでも身に余るものである。そしてタイラントの格の高さを理解すればそれを大きな壁と感じずにはいられない。無論、引き退る気は毛頭無いが、流石に壁ばかりではこたえるものがあった。

 こちらの気を察してか、ディスティが言う。


「為せば成る。為さねば成らぬ、何事も。成らぬは人の、為さぬなりけり。アンタが育った日本という国の(ことわざ)だそうだ。やることさえやれば必ず目的は達成される。必ずだ。そう難しく考えることはないさ」


 先人の言葉が鋭く刺さった。

 ギアスはその感触を最後に、夢から覚めた。

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