全知全能の魔女
何年も前から構想を練っていた作品です。
拙いですが、お楽しみいただけるよう頑張っていこうと思いますのでよろしくお願いします。
m(_ _)m
悪魔のような女がいた。
中世の頃、西洋のある屋敷でメイドをしていた彼女は主人の妻を殺し、美貌を武器にその夫を奪い、邪魔な義娘は自殺に追いやった。こうして雇い主の妻の座を奪い、自らが死に至らしめた娘のことは嘘泣きで誤魔化し、優しい義母を演じきった。
そして最後は残った夫を毒殺。晴れて豪邸と莫大な財産を我が物にして、メイドから富豪へとのしあがってしまった。
まんまと全てを奪った女は、しかし、忽然と姿を消してしまう。死んだわけでもない。行方不明になったのでもない。彼女は豪邸よりも、財産よりも、遥かに素晴らしく、遥かに恐ろしい"能力"を手に入れたのである。
「私は、全知全能——」
蒼白の豪奢なドレスに身を包み、淡い水色のフリルパラソルをさした彼女は今、武装したドイツ兵たちに全方位を囲まれ、銃剣を向けられていた。深夜、街の橙のガス灯に照らされ、悪魔との戦いにはふさわしい不吉さである。
「……この、魔女めが」
2メートルを超える身長と、100キロを超える体重を持つ、人間離れした体格をした初老の隊長が、立派な白ひげを指でこねながら低くうなった。女の足下には既に、彼の師でもあった軍曹が血まみれにされ絶命していたのである。
隊長の憤怒に燃える眼差しを、女は嘲笑する。
「私は"仲間"を探しているんです。心当たりはありませんか? 私のように目の光る人物を」
女の瞳は暗闇で薄く蒼白い光を放っていた。そう、彼女はもう人間ではない。彼女こそ、歴史上で最初に魔女となった女だったのである。
白ひげの隊長は魔女の質問を無視し、獣のような声で部下たちに撃てと命じる。四方八方を囲まれ、蒼白の魔女に逃げ場はない。何十という銃から一斉に鉛玉を射出されては、次の瞬間には蜂の巣である……はずだった。
白ひげの隊長はその場に腰を抜かす。発砲した兵たちは凍りつき、魔女を凝視した。
放たれた鉛玉は全て、魔女の周囲に浮かんでいたのである。
「私は全知全能の魔女。鉛玉で傷を負うような、やわな人間では、ないのですよ。私の仲間なる者に心当たりがおありでないのなら、もう用はありません」
「引け! 総員、撤収!!」
ひゅうぅ、ぅ、ぅ………。柔らかい夜風が吹き、蒼白の魔女を囲んでいたドイツ兵たちの遺灰をさらっていった。ただの人間にはこの悪魔のような女を前にしては、逃げる事すらもかなわなかった。




