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魔物出現!……と冒険者達

【5月 風の2の日】


 情報収集に駆け回っていたアレクサンドリア王国の諜報部隊は遂に魔王の居場所、正確に言うと悪魔の飛来元を特定した。


 その特定は困難を極めた。

大群が侵攻してきたのであれば目撃者も多数出るだろう。

が、しかし悪魔は常にほんの数匹、多いときでも10数匹が週に2,3回出現するだけなのだ。

それでも王国諜報部隊は、少ない目撃情報を辿りながら、各地の諜報員とも連携し、5日ほどでその出現箇所を北方もしくは西方とまで定め、そこから更に5日を要して出現箇所は西方であると判断した。


 即座に開始された西方での調査から3日ほどで、自由連合の間諜との情報交換が行われた。

北上してきた間諜が持っていた情報と、王国諜報部隊の情報を併せ、更なる調査を行い、ついに悪魔の飛来元についてある程度の特定ができた。


 悪魔の飛来元は北西部ニューマンズ領である。

悪魔はニューマンズ領のいずこかより現れ世界各地へと飛来している。


 間諜からは悪魔飛来情報以外にも自由連合の情報も伝えられていた。

自由連合内でも同じように悪魔の襲来が確認されていること。

同様に都市、住人に被害が出ていること。

これらの情報を持ち王国諜報部隊は半数をニューマンズ領の調査に向かわせた後、イスタブルに帰国したのである。



 ※※※



首都イスタブル アレクサンドリア城 会議室

「魔王はニューマンズ領にいると。」

王は地図を見つめながらそう呟いた。


前回と違いアレクサンドリア王は会議のテーブルについている。

玉座からでは地図が見えないからだ。

テーブルの上には世界地図が広げられ、ニューマンズ領部分に遊戯に使う駒が置かれている。


「ニューマンズ領であるならば…… 魔王が現れた日に悪魔が襲来したよな?あれはどういうことなのじゃ?」

「えー…それについてはまだ調査中でございます。」

諜報部隊を管轄する文官、アシッドが答える。

「まさか山越えて来たにしたって、早すぎると思うんじゃが……」

「調査いたします。」

「悪魔は魔方陣無しで魔法を使えると聞く。まさかであるが転移先の魔方陣無しで転移魔法が使えるなどというこはあるまいな?そんなことになったらどんなに守りを固めても、あっという間に儂の命が取られるわけじゃが。」

「併せて調査いたします。」


 王は納得のいかない顔を一瞬見せたものの、これ以上アシッドに質問を投げかけたところで明確な答えが無いことはわかっている。

ニューマンズ領からイスタブルまで、直線距離でも3000km以上は離れている。あの悪魔どもはどうやってここに現れたのじゃ。

まぁ、分からないことは仕方がないかと思いながら、王は議題を魔王の本拠地についてに切り替えた。


「では、改めて。とりあえず西方が本拠地でひと安心というところじゃな。」

「はい陛下。これにより、即座の挙兵の必要が無くなりました。」

宰相が答える。

「うむ。なによりじゃ。」


「むこうの動きはどうなのじゃ?」

「未だ、自由連合からはなんの連絡も来ておりません。北方の都市からの連絡もございません。」

「うむ。仕方が無いの。こちらからも何の連絡もしてないからのう。あちらにも被害が出ているということは自由連合が魔王を称していたわけではなさそうであるな。」

「ニューマンズ辺境伯が魔王という可能性は残っておりますが、その通りでございます。」


「もし救援依頼が来た場合どうするべきでしょうか。」

「西方であるならば断わるしかあるまい、王国軍が西方に移動するのを北方の連中が許すとは思えんぞ。」

「では北方から救援依頼が来たら?」

「それは場所によるだろうな。王国と隣接しているのであれば行っても良い。というより行くべきだが、隣接していない場合は断るしかあるまい。」

「隣接国であれば、領地拡大のチャンスであるな。」

「いや、こんな時に領地など奪おうものなら、北方のその他諸国より大きな批判が出ますぞ。」

「まぁこんな混乱している時期だから というのもあるがな。」


「隣接していない国でも、カカドゥやバマガのような友好国もありますぞ?」

「いくら友好国とはいえ、あそこに派兵はありえん。」

「海路より派兵というのもありかもしれぬが、海に巨大な魔物が出ているというではないか。」

「我が国には戦闘用の船が無い以上、兵を船で移動させるわけにはいかんな。」


 そう、魔王が現れてから魔物が現れ始めたのだ。

ほとんどは知識を持たない動物達が狂暴化したものであるが、中には原型のわからない生物まで出現し出している。

緑色の小さな鬼であるとか、犬頭の鬼であるとか。

特に海の生物は狂暴化する際に巨大化するらしく、大イカやら大タコやらが船を沈めまくっているらしい。


 ちなみに狂暴な動物と、魔物との見分け方は目である。

魔物は例外なく人間でいう白目の部分が黒いのだ。


「たとえ陸路であっても、魔物が出ることには変わらんぞ」

「プリスベルの者より我々の3倍はあろうかという鬼が出たという報告が上がっておる。」

「ばかな。そんな生物がいるわけが……」

「魔方陣無しで魔法を使う悪魔がいるのだ。何が起きても不思議ではなかろうさ。」

「だいたい現れた魔物の対処で各都市の衛兵および騎士団は手一杯だ。救援に向かう余裕など無い。」



「派兵は暫時考えなくてもよかろうな。」

白熱した議論を交わしていた諸侯は王の一言で押し黙る。


「勇者はいかがいたしましょうか?」

宰相が王に問いかける。


「抜く者がおったのか?」

「いえ、未だ現れておりません。」

「うむ。引き続き募集するで良いのではないかな?聞けば、聖剣を抜こうとする輩が大挙してイスタブルに来ておるらしいではないか」

「はい、治安の問題はあるものの、経済的にはイスタブルは少し潤っています。補償分を補って余りあるかと」

「ある程度鎮静化するまではそのままで良いな。」

「御意。」


「一点」

主に財務を担当している貴族、マクロス伯が声をあげる。

「先ほども話に上がっておりました魔物の出現によって王国内のいくつかの町との交通が断絶しております。」

「断絶していない街道についても、商人が街道を行くのに護衛が必要となっております。」

「また、その大挙して押し寄せている者たちによる消費などもございまして、物資の値段が上がっております。」

「早急に、なんらかの対策を打ちませんと、既に国民の生活に影響が出始めております。」


「うむ。どうすればよいのじゃ。」

「魔物の討伐に報酬を出すか、騎士団の派兵によって魔物を駆除するか」

「いやいや、それはそれで資金が必要じゃろう?放っておいた方が良いのではないのか?」

「いえ、放っておきますと行き渡らない物資を求めて暴動が起こりかねません。」

「そこで騎士団の登場では?鎮圧してしまえばよい。」

「暴動を起こした暗愚な王と揶揄されますよ?」

「魔王顕現の世じゃぞ?暴動くらい起きるのではないか?」

「ここで賢政を見せての賢王ですよ。」


「……うむ。わかった。」



 後世の評判がその王の二つ名となる。

初代アレクサンドリア王は「傭兵王」であるし、5代のアレクサンドリア4世は「動物王」である。

9代のアレクサンドリア8世のように「愚王」などという不名誉極まりない名前を付けられないためにも、当世の王は賢政に尽くすのである。


 ただ、この王の二つ名は大筋決まっているのである。

魔王がどうなろうと、この国がどうなろうと当世の王の二つ名は「子作王」とか「色欲王」とかそういったものになる。

なぜならばこの王には、落胤を含めれば30人以上の子がいるのだから。



「魔物の強さが分からない以上、騎士団の派兵は極力避けたほうが良いでしょうな。団員死亡時の補償金が馬鹿になりませぬ。」

「うむ。では、魔物の討伐には報酬を出すとしよう。レートは適宜決定するように。」


 こんな会議の結果。

「薬草調達」「護衛」が主な依頼だった冒険者ギルドに「魔物討伐」という依頼が加わることになる。

後日、「魔物を倒して、報酬が貰える。」そんな噂が立つと、腕に覚えがあるものが丁度集まってしまっているイスタブルの冒険者ギルドにギルドへの登録希望者押し寄せ、対応に大騒ぎとなるのであるが

それはもう少しだけ、あと3日だけ後の話。



「では引き続き魔王および、悪魔の動向を調査。新情報が入った際にはまた合議じゃ。」

王の一言で緊急会議は解散となった。



続く




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