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才弁縦横!……と羨望の名





【9月 土の4の日】



 【赤馬の鬣亭】でかけてもらった軽量化の魔法が解ける前に帰宅したブラッド。

今日は、まだやることがあるので、一旦剣は自分の部屋に置いておく。


 クラウス学園に向かう。

この、ひと月の訓練期間も、訓練場所とされていたため、ちょくちょく訪れていたのだが、訓練期間中は、その学園の施設を借りての訓練に参加していたためであり、学園そのものに用事があって来ていた訳ではない。

本日、ブラッドはエスキュール教授にレポートの提出をするために訪れたのだ。

魔力増大法を日々行っているブラッドではあるが、このひと月でもグレードが上がることはなかった。

その報告であるため、少し気が重い。


 だが、当然と言えば当然である。

魔力増大法は魔力増大論に基づいているが、その魔力増大論に依ればグレードを1つあげるためには毎日魔力増大法を行ったとして、概ね2年かかるというのだ。

ブラッドが半年やそこら行ったところで、グレードが上がらなくても責められるものでは無い。

きっとエスキュール教授も分かってくれるはず。


 分かってくれるはずとは思っているが、面と向かって何の効果もありませんでしたとは言いづらい。

今日は土の日なので、もしかしたらいないかも?と思って来ている。

休園中の今、教授陣のほとんどは登園していないのだが、一部の勤勉な教授達は休園時こそ研究に没頭できると土光関係なく登園しているらしい。

エスキュール教授は王国の依頼で魔法符を描いていた……描いている?らしいし、であれば週5で働いて、更に土の日まで研究にはこないのでは?

もしかしたらいないかも。そう思いこの日を選んだ。


 長らく訪れていなかった自室の隣。エスキュール教授の部屋の扉を、不在であれと思いながらノックする。

「はい、入りたまえ」


 いたー


 一瞬落胆の顔を見せたブラッドだが、まぁいなければいいなくらいの思いであったことを思い出し、その落胆顔から立ち直る。

「失礼します」

「おーブラッド君か、どうしたねどうしたね、レポート提出に来たのかね?成果は上がったのかな?グレード上がっちゃった?」

エスキュール教授は席から立ち上がり満面の笑みでブラッドに近寄る。


「いえ。グレードは上がりませんでしたが、来週王都を経ちますので、レポートの提出とご挨拶にあがりました」

「あーそうか。いよいよ来週なんだね。大丈夫?準備はできてるの?旅っていうものはいろいろ必要になるんだよ?寝袋とかロープとか」

「大丈夫です。購入してあります」

ふむふむと頷きながらエスキュール教授は自分の席へと戻る。

ブラッドは部屋に一つだけ用意されている来客用の椅子に腰かけた。


「そう、ならいいね。あ!そうだ。ブラッド君は魔法部隊配属になったよね?そうお願いしておいたんだけどどうだったかな?どうだったの?」

「えぇ魔法部隊になりました。第12魔法隊です。……私を魔法部隊に推したんですか?」

「うん。推した。そりゃ推すともさ。魔法部隊が一番安全だと、そう私は思っているからね」

「はぁ。でも近衛だって安全じゃないですか?」

「ノンノン、近衛はダメよ。近衛についている騎士達は貴族を守るためにいるんだから、攻め込まれた際には自分の身は自分で守らなきゃいけない。いっぽうの魔法部隊にいる騎士や戦士は魔法使いを守るためにいるんだから、それだけ生存率は上がると思うんだけどね。あれ?違ったかな?」

「確証無いのに推さないでくださいっ」


 未だ思案顔のエスキュール教授。

どうやらブラッドの安全を考えて魔法隊に推してくれたらしいが、どの隊が安全か否かについてまでは深く思慮していなかったらしい。



「ところでブラッド君。誰かに話した?」

「神王の事ですか?話してませんよ?」

「魔方陣描画見られた?」

「……たぶん誰にも見られてないと思いますよ」

「たぶんって……まぁもう見られてもいいような気もしないでもないけど……」

「え?いいんですか?」

「うん。なんかねアレ。やっぱり呪いで確定ね。どうやっても私には記憶できないし、どこにも描けない。貴方以外使えない。だからその技術を悪用されることはない。でも貴方自身は悪用される可能性があるから……やっぱりあまりおおっぴらにしないほうがいいかもね。そうね」

「ですよね。そうします」

「危機的状況になるか……本当に勇者とか、心強い仲間が出来て身の安全が確保できたらいいかもしれないけど」

「だったらトイオタースの近衛隊に推薦してくれたら良かったじゃないですか」

「えー、だって私、あの勇者あんまり好きじゃないし。だいたい何?あのぽっと出てきての発言権。おかしくない?ゼピュロスの不抜剣がいつの間にか勇者の剣になってるんだよ?抜けたのそのまま持ってっちゃうし」

「はぁ」

「だいたいねぇ、私は、君が勇者だっていうなら認めるよ?だってなんか凄いよね神王の魔術師……うん。格好いい。語呂がいい。さすが私が考えただけある。二つ名っていいよね。勇者っぽくない?」

「はぁ、まぁ、それ言ってるのって教授だけですけどね。内緒だし。でもあれですね二つ名って言えば教授だって稀代の天才って言われてるじゃないですか」

「……それって事実でしょ?誇張されてないじゃない。ブラッド君の場合、神王だかなんだかわからないのに神王って誇張されてるじゃない?太陽王だって太陽関係無いけど太陽の様に世の中を明るくしたって意味での太陽でしょ?誇張されてるじゃない。でも稀代の天才は誇張されてないでしょ?事実を言われてもそれは二つ名とは言えないし、決して喜ばしいものでもないんだよ?」


 おそろしい程の自信過剰であるが、エスキュール教授は確かにそうなっても良い程の実績を上げている。

新しい神への接続式の発見を始めとして、数多くの手続式の開発、量産魔法符の開発等々。数え上げればきりがない程の功績を持つ教授なのである。

ブラッドからすればちょっとオネェの入ったお爺ちゃんであるのだが……


 実はブラッドと話す時のこのテンションから、助教授就任当初、学園内でブラッドの事をエスキュール教授の若いツバメ」と陰口を叩く者もいたのだが、エスキュール教授は一切気にしない。ブラッドは気にする余裕が無い。当事者が反応しない噂はそう長くない期間で消えたのであった。

代わりに、ブラッド助教授はエスキュール教授に生気を吸われているのではないか?闇魔法の実験台となっているのではないか?という噂が立ったりもしたのだが、それはまた別のお話。



「それにしても、私が勇者は無いでしょう。先頭に立つタイプじゃないですし。それに私、普通の魔法使えないですし」

「普通の魔法……まぁある意味普通の魔法ね。そんなのはどうでもいいと思うのよ?要は特異性だよね。ブラッド君の場合。 魔力を使って中空に描いた魔方陣を使って、強大な魔法を放つ!なにそれ?恰好よくない?いいなぁ。私なんて何年も研究してきたのにそういうの無いもんなぁ」

「教授には……、その魔方陣に関する膨大な知識があるじゃないですか?」

 焦って教授をフォローするブラッド。


「いやぁ、でもブラッド君さぁ、君も大概魔方陣に対する造詣深いよね。まぁそうなるように課題を課してきたのは私なんだけどさ。あと、描画センスもあるし、なぁんかズルくない?」

「魔方陣に関してはまぁ……貴重な青春時代を犠牲にしましたから」

ここはこれでいいはずだ 責任を感じるがよい!と、ブラッドは恨めしそうな目でエスキュール教授を見る。


 青春時代を奪った張本人であるエスキュール教授の目は急に泳ぎだし、それを悟られないように言葉を繋げた。

「まぁ、アレだね。ブラッド君頑張ったもんね。うん。ホラ、アレだね自慢の生徒ってやつ? ……だからさ」

「?」

「死なないように。生きて帰ってください、君は私の自慢の最強魔術師なんだから」


 もしかして、いいこと言ったつもりになってる?

泣かそうとしてるのか?

しかしこのタイミングで言われてもそんな気持ちにはなれないぞ?

まぁでもちょっとだけのるか。


「えぇしばらくお顔を見に来られませんが、教授もお元気で」

「連合の方にさ、見かけない魔方陣とかあったら覚えて帰って来てね?ホラ私もさ、結構いろんなところ見て回ったけど、知らない魔方陣とかってやっぱりいくつになってもあるわけなのよ」

「はぁ」


 やっぱりそれ目的かい

変にしんみりしなくて良かった……


「わかりました。教授のお力になれるよう頑張ってきますっ」


 決して新たな魔方陣を持ち帰るとは言わず、だが、そうとも取れるような答えをしブラッドは教授の部屋を後にした。


 自室の前を通り過ぎ、教授棟から出ようとしたとき、ブラッドはふと思い出す。


 あー、マニュアル魔方陣の文句言うの忘れてたわ。

っていうか、言い出す隙が無かった。

まぁいいや。

帰ってきたら、ゆっくり……責めよう。





続く




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