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魔法付与!……と家族会議






【7月 金の4の日】



 思い切って買った軽鎧を眺めながらブラッドはまた後悔していた。

先日、赤馬の鬣亭という武器屋に行き、自分でも魔剣が作成できることを発見したブラッド。

まぁ、魔剣についてはとりあえず良いアイデアが浮かばなかったのだが、硬度を高めた鎧の方が確実に使うじゃんという思いつきで軽鎧を買ってきた。

武器が多様な魔法を付与されているのに比べ、防具は基本的には硬度上昇であったり、軽量化であったり、だいたいその方向性は決まっている。

あの店には、光る鎧なんていうどうでもいい魔鎧もあったけれど。


 この軽鎧に、自分が魔力で加工し魔方陣を描くことで、魔鎧が出来る。

人生イージーモードじゃないかと思っていたのだが、その付与式を描くのに四苦八苦しているのである。

付与式は鎧のヒイロカネ部に作成する必要がある。その術式も簡単だ。

が、しかし、微妙に湾曲しているヒイロカネ部に、術式を描くという魔方陣を造らなければいけないのだが、そちらが非常に難しいのである。

魔方陣を描くための魔方陣、これはブラッドも初めての試みであった。

だが、ちょっと自信があったのだ。自分ほど多種多様な魔方陣を描けるものはいないだろうと。

慢心していた。


しかし、その慢心は早々に霧散した。

湾曲した形状に合わせ、形状変更の術式を記述していく、それは単純な正円を描くとかそういった記述とはまったく異なるものであった。


「X座標○○Y座標○○Z座標○○:X方向に1mm、Y方向に2mm、Z方向に1mm隆起させる」そんな記述を延々続けなければならない。

さらに言えば、その記述時の魔方陣位置は実行時と寸分違っていてはいけないのだ。

概念指定できないのが悔しい。


 そう簡単には行かないよな。

これが簡単にできるのであれば、世の魔術師達はこぞって武具に魔法を付与していることだろう。

またしても自分の浅はかな考えで、動いてしまったな。とブラッドは反省している。

魔法付与されていない鎧を金貨3枚で買ったのである。

休園前の給金で1年分である。


 その金額がもったいないという事以外にも、諦められない理由がある。

それはヒイロカネである。

ヒイロカネはミスリルと並んで付与式を描ける希少鉱物である。

ミスリルはある程度の硬度を持ち錆びない。

ヒイロカネはミスリルに比べ熱伝導率がとても高く、その加工にはミスリル以上の技術が必要となるが、

ミスリル程の硬度は無く、錆びる。

ただ、とても軽いのだ。

よって、ヒイロカネはメンテナンスさえしっかりしていれば、防具としてはとても重宝される。


 メンテナンスさえしていれば。

錆びた後に錆び落としの魔法を使えば良いのだが、それは見目が良くない。

そのため、表面に酸素との結合を阻害する継続術式ないしは水分を弾くような継続術式を描かなくてはいけない。

そんな特殊な術式が頭に入っている訳もなく、昨日は1日学園の図書館に籠りきりであった。

そこで書き写した魔方陣を帰宅後付与しようとして、この挫折である。


 もう錆び錆びの鎧でもいいか……

錆び止めってどのくらい効くんだろうな……

俺ってダメなんだな……

ブラッドが負の感情スパイラルに入った時、コンコンコンとドアを叩く音がした。

そしてすぐにメイドの声がする。


「坊ちゃま、手紙が届いております」


「いいよ。持ってきて」


 その声に応えると、メイドはドアを開けブラッドの部屋に入ってくる。

その手には、封筒が1通。

ん?

なんだ?

封蝋に押されているのは王国の紋章だが……

俺宛に王国から手紙が来るなんて初めてのことである。

とりあえず中を見てみるかと開けてみると。


「なになに……ノエル家 3子 ブラッド・ノエル様……」

「この度、魔王討伐のための討伐軍の編成にあたり……」


 おうふ。

召集令状だコレ。

どうやら。

1.学園の戦闘科及び魔法科の卒業者

2.騎士武術5級以上の騎士および準騎士

3.グレード30以上の魔法使い。

コレに該当する者の中で住所が明確である者すべてに送り付けているらしい。

俺は3番に該当だ。

おそらく王国が把握していないギルド登録者には、ギルド経由で送られているのだろう。


 あー。

入隊試験といらなかったんだー。

経験とかもいらなかったのかもー。

まぁいいか。結果オーライだ。

これで晴れて勇者パーティじゃないか。何千人いるのか知らないけれど。


 ちょっと待て。

現実的に考えてどうなるんだ。

この令状には給金については一切書かれていない。

食住の保障とは書いてあるが。衣はどうなんだ?自分で用意するのか?

ま、まぁ俺はいいや、1年くらいならなんとかなる。


 うちは?

領地の税収と兄さんの給金だけでノエル家はやっていけるのか?

大丈夫か。最近イスト兄さん、なかなか帰って来ないと思ってたけど。コレやってたんかな?

なんにせよ、王城はちゃんと働いた分給金が出るはずだから、内政が混乱して忙しければ忙しいほどお給金は高くなるはずだ。

まぁ、兄さんの体調は心配だけれども。


親父が働けよ。日中家にいるのアンタだけだぞ。



 ※※※



【7月 金の4の日】



 所用があって長兄であるローディア兄さんが帰ってきたこと。

イスト兄さんがひさしぶりの休暇で、朝から家にいたこと。

そんな偶然が重なって、ひさしぶりに家族全員で夕食を取ることになった。


「兄さん、ひさしぶり。元気そうで何より。今回は、いつまで居られるの?」


ひとり遅れてきたブラッドは着席しないうちに長兄に話しかける。


「やぁブラッド。ブラッドも元気そうだね。ちょっと太った?いやガッシリしたのかな?」

「うん。最近鍛えてるんだ。見てよコレ」


ブラッドはまた、悲しくなるほどの小さな力こぶを満面の笑みを浮かべながら家族に見せる。



「おー。すごい。明日の昼には立とうと思っている。」

「そうなんだ。領地の」


と、そこまで言いかけたところで親父から横槍が入る。


「ブラッド、とりあえず座りなさい。ひさしぶりなのはわかるが、食事をしながらでも話せるだろう?」

「はい。」


素直に座るブラッド。


「よし、ひさしぶりに家族全員揃ったな。皆、変わりが無いようで……」

「イストはちょっと、いや大分やつれているが大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。昨晩はひさしぶりにグッスリ眠れましたし、今日も朝からゆっくりできました」

「そうか。よし、では、ひさしぶりの家族全員での食事だ。食べながら皆の話を聞かせてくれ」


親父がそう言うと、メイドたちがいそいそとスープを配り始めた。


「あ、そうだイスト兄さん。召集令状なんだけど。」

「「召集令状?!」」

親父と母さん、そしてローディア兄さんの声が被る。


「あぁ済まないブラッド、ブラッドには前もって伝えておこうと思ったんだが、忙殺されていて伝えそびれていたんだ。アレには法的拘束力は無いから。断るなら集合場所に行かなければいいだけだ」


 そう。件の召集令状には、参加許諾者は9月の光の1の日に王城前広場に集まるようにと記されていた。

その場での点呼を持って、討伐隊に入隊となると。


「俺、行くよ!討伐隊に入るっ!」


「ブラッド!何を言ってるのですか!魔王の討伐軍ですよ?」

母さんが驚いて声をあげる。


「うん。わかってる。これまで学園で学んできたことを活かすチャンスなんだ」

「兄さんは領地経営があるし、イスト兄さんは……どう見たって忙しすぎる。ノエル家の名前を勇者の仲間として歴史に刻むのは俺の役目だと思うよ?」


「……いかに魔術師とは言っても、戦場は危険なんだよ?」

ローディア兄さんが諭すようにそう言った。


「大丈夫、魔王顕現からずっと体を鍛えて、戦えるように準備してきたんだ」


「ふむ……ブラッドがそこまで言うならば……」

おっ親父。物分りいいじゃないか。


「ところで、イスト、討伐隊とは無給なのか?給金は出るのか?」

そこかいっ!


「給金は出ますが、小遣い程度ですね。食事と住むところは保障されます」

「ではブラッド、討伐隊に行っている間、助教授の給金は出るのか?」

やっぱりそこかいっ!


「えぇ休園している間は、学園都合ですので幾許かは出ますよ。これまでと変わらず、その……小遣い程度ですが。」


「ふむ。困ったのぅ」

おーい。息子の心配はいいのかーい。


「あなた……あなたはブラッドのことが心配でないのですか?お金のことだけですか?だいたいいつもあなたはお金の心配ばかりで、そんなに不安ならばもう一度王城に勤めるということだって出来るのですよ?つい先週だって、登城するよう手紙が着ていたの知っているんですからね」

母さんが早口でまくしたてる。

そうか、親父……再就職できるんならしてくれよ。


「いや、ブラッドの事は勿論心配しておる。心配して居るが、信頼もしておるのじゃ」

「私は学園のエスキュール教授とは旧知の仲だからな。今、ブラッドがどんな状況にあり、どんな状態であるのか把握しているつもりじゃよ」

うわおう。

親父とエスキュール教授が知り合いなのは知っていたけど、そんな蜜にやり取りしてるとは思わなかった。


「まぁノエル家の為という事であれば、私は良いと思う。ブラッドなら大丈夫じゃ。母さん。信じてやってくれ」

「わたしだって、ブラッドの事は信じてますよ。でも、それでも、心配なのです。ねぇイスト、なんとか前線以外に配備されるよう進言できないものかしら?」

「できうる限りは進言してみるけど……他にも多数貴族の御子息方が集められているからね。その御子息方に対してもおそらく似たような進言が為されているはず。ですので希望通りに行くかは……」


「しかし、しないよりは、ましだろうね。私も知った顔が何人か王城にいるから話しておくよ」

ローディア兄さんがそう言うと、母さんは少しだけ安心したような顔になった。


「よし、じゃぁ再就職じゃな。働くか。」

親父がそうシメたところで、この話は一旦終わりとなった。




続く





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