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魔剣鑑定!……と発見の日





【7月 水の4の日】



 あの、恥辱にまみれた初討伐から数週間、最近のブラッドは足しげく不光の森へ通っている。

よくよく考えればギルドで依頼報酬を貰う必要など無かったのである。

休職中とはいえ、父親が無職とはいえ、くさっても貴族。

ブラッドはそれほどお金に困っていない。

よく考えればこれまで数年間、なにかにお金を使うこともなかったのである。

討伐しても報酬を貰わなければギルドに顔を出す必要は無い。


 であれば、今必要なのは経験であるので、報酬を貰わない魔物討伐に精を出していたのであった。

アセプトに顔を合わせにくいというのも、もちろんあった訳であるが。


 そして、この数週間でわかったことは、やはり自分は広範囲殲滅が最も適していて、1対1であったり、1対少人数は若干苦手であるということだ。

スロウエイプ、ビッグサーペント、一角兎、大兎、リバースムーンベアー、ワイルドボア、狂い豚……

種々の魔物と戦ったが、森という視界が制限された場所での戦闘の場合、相手に認知されてからだと、どんな相手であろうと苦戦は免れない。

見通しの良い平地であれば、魔物が近付くまでに十分な時間が確保できることがほとんどであるし、認知される前に攻撃できることも多い。


やはり魔法を発現させるまでの時間がネックなので、気づいていない魔物に対して、魔法で殲滅するという、なんというか、そんな卑怯な戦法が一番合っているらしい。


 ただ、苦手ではあるが、できないわけでは無い。

自分の特性は活かせないが、魔法の符を持ち、状況に応じて行使する。

一般的な魔法使いの戦い方であれば、ある程度は戦えるのだ。


 そこでブラッドは、向上系の魔法をいくつかかけた後、討伐へ赴き、実際の戦闘時には符を用いるようにした。

符による戦闘は、魔力を流し込んでおいた魔法符を相手に向けて、あるいは相手の体に密着させて魔法を発動させる。


まぁ、数週間ではあるが、身のこなしも良くなってきたような気がしている。




 ※※※



 そんなブラッドが今日向かっているのは町の武器屋である。

【魔方陣を描き、魔法を行使し戦う】から【魔法符を使用し戦う】に戦闘方法が変わったため、であれば魔剣等使って戦うのもありなのでは。と考えたからである。

魔法符は魔法発現と共に消滅するが、魔剣は消滅しない。

魔法符は魔力を通さなければ紙切れだが、魔剣は通常の剣と同等に使用できる。


 魔剣というのは、剣に魔方陣が描かれている剣の事である。

特別な金属が必要になる事、鋳造、鍛冶技術の他に、魔方陣を描くという技術も必要であることから高価なものである。


 もちろん、剣だけでなく、魔槍や魔斧や、魔弓なんてものもある。弓は稀であるが。

一般的な鉄の剣などには魔力が定着しないため魔法の行使ができない。

現状、魔剣にできる鉱物はミスリルとヒイロカネしか存在しない。

かつてはオリハルコンという合金があったらしいが、その合金生成比率は失われており、未だ生成できたという話は聞こえてこない。



 ブラッドはイスタブルいちと噂の武器屋【赤馬の鬣亭】にたどり着いた。


 イスタブルに元からあった商店の殆どは、ここ数か月の冒険者フィーバーにより、これまで以上の利益を得ていた。

魔王顕現も悪いことばかりでない。

新しい商売を始めるチャンスでもあり、商売の幅を広げるチャンスでもあった。


 この武器屋は店舗の拡大と商品の拡充にその利益を回しているのであろう。

その外壁は左右それぞれに50m程は続いているように見えることから、張りぼてのように奥行が異常に短いということが無ければ、敷地は10,000㎡近くあるのであろう。

イスタブルいちというのはやはり噂通りであったらしい。

下手すると小さな村レベルである。


 門をくぐり中に入ると、案内板が立っている。

武器館、防具館と大きく2つに分かれており、その中でも、材料であったり用途であったりで、展示してある場所が決まっているらしい。

自分が欲しているのは魔剣であるからと、武器館の案内図を確認。武器館の最奥に魔剣コーナーという場所がある。


 ブラッドは武器館に入ると、種々の武器に目を取られながらも、最奥に向かって歩いていく。

武具にはまったく興味が無かったので知らなかったが、こんなに種類があるものなのだな。

材質、長さ、幅、形状、多種多様な剣、斧、槍といった武器が展示されている。

中には手に取って確かめられるものもある。



そうこうしている内に魔剣コーナーにたどり着いたのだが。


「高っ」


 ブラッドは思わず口に出してしまう。

何だこれ。

単位に金貨が付かないの無いじゃん。

最低でも俺の給金の3ヶ月分以上の武器ばかりだ。

しかも、展示が遠くて良く見えないし。


ブラッドが展示されている剣の魔方陣を詳しく見ようと、背伸びしたり、頭を傾げたりしていた時。


「いらっしゃいませぇ」


背後から店員であろう男に声を掛けられる。

しまった。もう少し早く帰っていれば、と思ったのだが仕方ない。


「本日は魔剣をお探しでしょうか」

「いえ、あの、魔剣ってどういったものがあるのかなぁと思いまして」


「左様でございますか。魔剣というのはですね。付与される魔法によって種々の効果がございまして、形状も様々でございます」

「当店以上に魔剣を取り扱っている店はイスタブル内にはございませんので、お客様が当店にいらっしゃったのは大正解でございます」

「まず、今、お客様が見ていらした、こちらの魔剣」

「これは、ショートソートサイズですので、非力な方でも使用できるようになっております」

「また、魔剣ですので、魔法が付与されているのですが、こちらはですね、刀身では無くて柄の部分に魔法の付与式がございます。こちら、柄を温める魔法と、柄を冷やす魔法が付与されております」

「ですので、刀身は通常の鋼でございますが、柄の部分はヒイロカネで作成されております」


「え?それだけ?」

 ブラッドは思わず声を上げてしまう。

なにその無駄機能、柄の温度が変えられるだけで金貨5枚て。

ぼったくりにも程があるんじゃないか?


「はい。それだけでございますが、貴族の方や司祭の方が祭典時に使用するものでございます」

「実際に戦闘に使うわけではございませんので、見てください。この装飾のなんと華美なこと」

「これはですね。4世王期の……」


 装飾についての説明が始まったところで、ブラッドはその説明についての興味を完全に失った。

なるほどね。祭典用ということであればなんとなくわかった。

冬とかに冷たい剣とか持ちたくないよねーってそれで金貨5枚かよ。


「……様式ならではの色使いが」

「あの、」

「はい?」


 店員の装飾に関する説明を断ち切り話しかける。


「戦闘用の魔剣でお手頃価格なものが見たいんです」

「あーなるほど。そうでしたか、失礼いたしました。ではでは、こちらにどうぞ、こちらの魔剣はですね……」


 店員が説明してくれたのは3本の魔剣


1本目。

ブラッドの身長程のツーハンデッドソード。

付与魔法は【軽量化】

体感で半分ほどの重さになるらしい。

金貨1枚


2本目

50cmほどの短槍

付与魔法は【伸縮】

2mまで伸ばすことができるようだ。

金貨2枚


3本目

普通のショートソード

付与魔法は【洗浄液生成】と【水生成】

洗浄液により、血糊の除去が可能

金貨1枚と銀貨20枚



 なんと、実用性の低い物しかないではないか。

特に3本目!!

それってミスリルで作ってりゃ不必要な魔法じゃないか。

わざわざ錆びるヒイロカネで作って、血糊除去するって……

錆びるぞ。


 最初の剣と槍については、まぁ必要となる局面もあるかもしれないが、稀である。

大剣をブンブン振り回す戦士というのは確かに恰好がいいかもしれないが、やはり取扱いが難しそうであることと、その手の剣は、剣の重さで叩き斬るのに、それを軽くしてしまったら意味が無いのでは?とも思う。それならば槍を持った方が良さそうだ。

 いっぽう、その槍はというと……便利だとは思う。持ち運びに関して。

だが、持ち運びが便利になるだけのために金貨2枚も払うかと言われれば、それは否であろう。



「あのーもう少し、なんというか、高くてもいいので実用性というか……」

「そうでございますか?えーとそうですねぇ、実用性と言いますと……あ!こちらなんていかがでしょう?」


 店員が指差したのは、見た目は普通のショートソード。色から見るにヒイロカネでは無い。


「えーこれはですね。ご覧のとおり、こちらはですねミスリル製でございます」

「で、こちらに付与されている魔法なんですが、形状変更でございます」

「形状変更の魔方陣が4種付与されておりまして、今ご覧になられている剣、それから手斧、ハンマー、ピッケルに形状変更させることができます」


「それは便利だと思うけど……」

「はい?」

「ミスリルの形状変更って、膨大な魔力が必要でしょう?」


 そう、既にある物の形状変更にはかなりの魔力が必要となる。

おいそれと出来るようであれば加治屋などいらないのだ。

それは鉱物の加工のし易さに比例するのだが、ミスリルであったりヒイロカネであったり、加工が容易でない鉱物はやはり魔法であってもそれなりのコストを要する。


「はい。左様でございます。グレード30以上の魔法使いの方であれば魔法行使できます」

「うん。あの。違うんだ。確かにとても便利で実用性はあると思うけど。そういうことじゃないんだ。武器としての実用性があるものが見たいんだ。これを戦闘に有効使用できるほどの魔力は俺には無いから」


 一般的な魔法使いが一回形状変更させる度に昏倒するような代物である。

大魔法使いであれば、パッパと得物を替えながら戦闘できるのかもな。だがしかし、大魔法使いはそんな戦い方しないはずだ。魔法で攻撃すりゃいい。

っていうかやっぱり何のためにこんなものがあるんだ。

いやしかし、ここまで見てきた5本、どれもこれも使えないものばっかりだな。

魔剣を戦闘で使用しようというのが間違いなんだろうか……

とブラッドが考え始めた、その時、一本の剣がその目に留まる。


「店員さん、アレ、あそこの剣、値札無いけど」

「あぁ……こちらでございますね。こちら現在査定中のものになりまして、実はですね、「どうやら魔方陣が描かれているので魔剣らしいが、魔力を通しても何も起こらない。」と言われて預かっているものなのです」

「で、当店の鑑定士がいろいろと調査しているのですが、確かに何も起きない。ではミスリルだけの値段で買い取ろうか。と話し合っている最中なんです」

「ほー、ちょっと見てもいいですか?」

「え、えぇどうぞ、今お出ししますね。」


 ブラッドはもともと魔方陣学科であったし、この数年間、この世界のありとあらゆる魔方陣を見てきた。

まぁ何も起きないのはどこかの描画ミスなんだろうけど……と思いながらその剣の付与式を確認する。

ショートソードとしてもちょっと短めなその刀身には、びっしりと付与式が描かれている。


「んー……なんだコレ?」


 描画自体にはおそらく何の問題も無い。

これは力を発現させる魔法だ。火とか水とかではなく純然たる力を発現させる魔法である。

あまり使われることが無いのは、コストパフォーマンスが悪いというのが一番の理由だ。


「なんでこんな相性悪い接続式使ってる?なぜに守の神?」

「というかダミー!無駄!意味わからん」

「いや、待て。それでも発現はするはずだぞ」


「あーそういうことか。これはアレだ。力の発現で消滅魔法と同じことをしてるんだ。しかもその範囲がメチャ狭い。というか距離!」


「え。わかるんですか?っていうか付与魔法わかったんですか?」

店員が驚いてブラッドに問いかける。


「あぁ。これは剣先から数10メートル先の、本当に指先ほどの空間を消滅させる魔法だよ」

「ダミー記述が多いし、接続式との相性も良くないから、コストは無駄にかかるけど。そういう魔法」

「たぶん、魔法は発現していたんだろうけど、効果が現れたのが中空だったりして気づかなかったのでは?」

「むやみやたらに発現させるのは止めた方がいい、視界の外で何かが破壊されている可能性がある」


 その剣に付与されている魔法について説明する。


「なんと。御客様は魔方陣学に精通していらっしゃるのですね」

「あぁ、以前、クラウス学園で魔方陣学科に通っていたよ」

「そうでしたか。それはそれは。あの……ですね。御客様、本来こういったものを学園に依頼して鑑定していただくと、金貨数枚の請求をされることがあるのですが……」

「いいよいいよ、単純な興味だったし、どマイナーな記述が見られて、勉強になったよ」

「なんと。懐の深い」


 というかその鑑定士……

守の神の、力の記述式なんてなかなか見ないから、わからなかったのも無理はないが、鑑定士というなら、このくらい分かれよ。

だから、どうでもいい魔剣とか買わされちまってるんじゃないか?

まぁ確かに、なぜそれを付与した?ていう代物が多すぎるんだろうな。今回のこれにしたって用途が全くわからん。

ただ、アレだな。

本当に有用な魔剣っていうのは、そんなにないし、あっても高価で手が出せないってことだけはわかった。

帰ろう。もう用は無い。


「それじゃぁ店員さん。今日は説明ありがとう。また、いろいろ検討してみるよ」

「~~で ん?」

 あ。なんか店員さん話してたらしい。

聞いてなかったわ。


「あれ。なにかおっしゃってました?」

「えぇお客様、鑑定していただいたお礼に、こちらで購入いただく際にはサービスさせていただきますと」

「あぁ、そうなんだ。うん。えーとサービスというと割引的なアレ?それって今日だけ?次回来てもサービスある?」

「えぇ、物によりますがどれほど高価であっても1割はお引きいたしますよ。私に声を掛けていただければ次回でもサービスさせていただきます」

「なるほど。わかった。うん。じゃぁ、次回!次回お願いするよ」

「かしこまりました」

店員は深々と頭を下げる。


 金貨10枚のものなら金貨1枚分得するのか……

かなりだな。

今回、ブラッドには、その割引確約以外にも、武器屋に訪れた収穫があった。

形状変更の魔法である、しっかりとした魔方陣さえ作成できれば、希少鉱物であっても形状変更できるのだ。

であれば、自分でも魔剣が作れてしまう。

間違いなく概念魔法ではないので、緻密な描画が必要になるという前提付ではあるが。

あーこれはアレだ。

俺、勇者のパーティになれなかったら、魔剣製造者として生きて行ってもいいな。

そんな思いもちらっと頭を過るブラッドなのであった。


 後日、赤馬の鬣亭を訪れたブラッドが購入したのは、魔剣では無く、ヒイロカネと革を組み合わせた軽鎧だったりするのだが、それでも件の店員はしっかりと割り引いてくれたのである。



続く





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