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魔物討伐!……と初戦敗退

読み難いため、キーワードに【】を付けるようにしました。

場面転換時には ※※※を入れるようにしました。

過去の投稿にも随時反映させていきます。




【7月 火の1の日】



 早朝の日課を終えたブラッドは、魔物討伐のための最後の準備をしている。

水袋に水を入れる。

背負い袋に全ての荷物を突っ込む。

物体軽量化の魔法を背負い袋にかける。

体力向上の魔法、筋力向上の魔法等々の魔法を自分にかける。

最後にかけ忘れていた思考速度向上の魔法をかけることにより、ブラッドの頭の中は冴えわたる。


「オーケー いこう!」

ブラッドは、足取りも軽く魔物討伐に向かった。


 ブラッドが向かっているのはイスタブル南西にある【不光の森】。

貴族街はイスタブルの南西にあるため、ブラッドの屋敷から一番近い門は、南西門である。

その南西門を抜けると広がっているのが、不光の森である。

魔王顕現前は、ごくごく普通の森であり、熊のような大型動物もいない、比較的安全な森であった。

ただその鬱蒼と生い茂った木々により、昼でも暗いその森のことを人々は光の届かない森、不光の森と呼んでいた。


 魔王顕現後、森は一変した。

森に住んでいた生物の多くは魔物化し、魔物化しなかった生物は魔物化した、かつての同胞に殺されたのである。

よって、この森には現在魔物しか住んでいない。


 他の場所では、このように【魔物だけの棲家となっている場所】というのは少ないらしい。

ここが元々不光の森と言われるほど、暗い森だったのが原因では無いかと言われているが、まだその証明は得られていないらしい。


 魔物化した森の魔物たちは森から出ようとしないため、積極的な討伐は行われていないのが現状である。

ただ、貴族街にほど近い森であるため、南西門の衛兵詰所には以前の5倍ほどの人数が詰めている。

そこまで警戒する必要は無いし、過剰配員であるのだが、そこは貴族街であるからして、財力にものをいわせたのだろう。



 ※※※



 南西門の衛兵詰所が近づいた時、知った顔の衛兵が目に入る。

昔、家族でプリスベルに行った際に、護衛してもらった冒険者、ガーディさんだ。

冒険者を辞め衛兵になったのか、衛兵になるため冒険者を辞めたのかはわからないが、ブラッドが高等部に入学する頃にはもう衛兵だったはずだ。

以前は西門で衛兵をしていた。ゼピュロス迷宮に通っていた頃に少し話すような間柄になり、今でも顔を合わせれば世間話くらいはする仲である。

衛兵にも配置換えがあるのだろうか。

まぁこの門の衛兵は特に増員されているから、そういうこともあるのかもしれない。


そんなことを考えながら、ブラッドは声をかける。

「ガーディさん おはようございます。」

「おや、ノエルの坊ちゃん。おはようございます。お久しぶりでございますね。」

ガーディは懐かしい顔に破顔しながらそう応える。


「坊ちゃんは止めてください。もうはるか昔に成人の儀は終えているんです。」

「これは失礼いたしました。ノエル様。こんな朝からお一人でどちらへ行かれるのですか?」


「いや、ノエル様も気恥ずかしい。ブラッドでいいよ。俺は誰かの上に立つような人間じゃないし、様もいらない。」

「そういう訳にもいきません。では、ブラッド様、どちらへ?」


「魔物討伐に行くのさ」

ブラッドは胸を張る。


「はっ?!」

ガーディが思わず声を出す。

その後ろにいた衛兵達も驚いた顔をしてこちらを向く。


「魔物討伐?ぼっちゃ いやブラッド様がですか?」

「そう。 これから。 ひとりで。 不光の森へ」


「ひとりで?門外で待ち合わせでは無く?」

「そう」


「無理無理無理無理無理無理無理無理、無理でございます。何があったか私で良ければ聞きますから、自棄になるのはお辞め下さい」

「いや自棄になったわけでもないし、無理でも無い。俺は魔法使いなんだから大丈夫。」

再度ブラッドは胸を張ったが、


「いかに魔法使いといえども、無理でございます。いや、魔法使いだからこそ単独で森に入るのは無理です。」

「いや本当に大丈夫だから。」

「本当に無理です。」


 10分もそんなやりとりを続けたであろうか。

もうどうやっても通してくれなさそうだなと思ったブラッドは閃いた。

「そうだ、腕相撲をしよう。それで俺が勝ったら通してくれよ。例え腕相撲とはいえ、歴戦のガーディさんより強けりゃ森に行ったって安全だろう?」


 その細腕に負ける気は全くしなかったガーディであるが、ブラッドは魔法使いである。

「ブラッド様、筋力向上の持続時間は?」

「24時間。他に体力向上もかかってる」

「魔力は残っているのですか?」

「十分!99パーセント残っているといってもいいね」

「わかりました。その程度の筋力向上で私に勝てるのかやってみるといいでしょう。」


 筋力向上にしても、体力向上にしても、その効果と持続時間によって魔力の消費量は変わる。

戦士に勝てるくらいの筋力向上を行った場合、それは相当な魔力を使用するのだ。

24時間持続となればそれだけで相当な魔力を必要とするはずである。

持続時間を取り、効果は然程で無いだろうと、ガーディは予測した。



そして、しばらく後

意気揚々と南西門を後にするブラッドの姿があった。



 ※※※



 ありえん。

引退したとはいえ、長く戦士としてやってきた。

老いたとはいえ、未だ鍛錬は欠かしていない。

それが、圧倒的な差で負けたのだ。

薄ら笑いを浮かべる10代の青年の細腕を微動させることすら叶わなかった。


 そのレベルの筋力向上魔法をかけて本当に9割以上も魔力を残しているのであれば大魔法使いクラスではないのか?

いや、ノエルの坊ちゃんは魔方陣学科だったはず。

人はそこまで急激に魔力量が増えることは無いし、大魔法使いクラスの魔力量を持っていれば魔法科に進むはず。

というか筋力向上で戦士より強いなら、魔法を使う必要が無いでは無いか。

どうなっているんだ?


 [実はブラッドは、その魔力のすべてを筋力向上に充て現在魔力が枯渇状態である。]

そう結論付ようとして、はっとする。

そうか。持続時間の方が嘘か。

私がいることを察して、せいぜい30分ほどの筋力向上を、事前にかけていたというならば納得が行く。

これは1本取られた。


 ガーディが最終的にそう結論付たとき。

ブラッドはその強化された体力と、筋力を最大限に行使し森の前に着いていた。

「よし!行くか!」



 ※※※



 ブラッドは森を進んでいる。獣道では無い。

幾人もが歩いたことで出来たのであろう、馬車1台くらいならなんとか通れそうな幅の道を進む。

以前は森の奥へ人が進むことがあったのであろうか?ブラッドはこの森の奥に何があるかについて知らない。森はそのまま山へと続いていることから、鉱山でもあったのかな?くらいに考えている。

森の奥からキーキーとサルの鳴き声のようなものが聞こえるがおそらくサルでは無いのだろう。

この森に、以前のような生物はいないのだから。

  

 数分。たったの数分歩いた時、なにかがブラッドの頭部に直撃する。

一瞬視界が暗くなる。その後一瞬光り、また暗くなる。

頭がグラグラする。

片膝を着く。

視界が赤く染まり、今度は頭がガンガンとしだした。

左の肩口にまた衝撃が走る。

ゴキリと嫌な音がして、鋭い痛み。

左肩に力が入らなくなる。


 どうやら、何者かに石を投げられているらしい。

直撃する寸前の視覚情報を思い出すに、進行方向右側の木々の隙間から投擲されたようだ。

転がる血の付いた石、頭部に石が直撃し、出血している。

肩は折れているかな?

 そこまで思考した時、更にもうひとつブラッドに向けて石が飛んできた時。

ブラッドは、素早く踵を返し、森の入り口に向けて全力疾走したのだ。

その石はブラッドの臀部に当たったのだが、ブラッドはその足を止めることなく走り続けた。



 魔法使いが筋力向上等を使用し、近接戦闘を行わないのは体術まで会得している魔法使いが少ないからである。

そういった類もいるにはいるが、それはもう魔法を使える武闘家であって魔法使いでは無い。

魔法使いがサポート職である以上、その強化魔法は、より筋力であったり、敏捷であったり、ベースの高い近接戦闘者に付与するべきものなのだ。

ブラッドも、もちろんそう考えていて、自分が肉弾戦を行おうなどとは考えていない。

体力向上についても、筋力向上についても、逃げるためだ。


 不測の事態に陥った時、人は逃げなければいけない。

何事にも真正面から立ち向かい、決して逃げない。そんな人間は騎士になるべきであるし。

騎士であるならば褒め称えられるであろう。

だが、冒険者にしても一般人にしても、通常の人間は逃げなければいけないのだ。

それは決して恥ずべき行為では無い。

強大なものにあたった時には逃げるべきだ。そこで無謀にも突撃し死ぬのならば、その愚かさを恥ずべきである。


 というわけでブラッドの向上系魔法は逃走のためにかけられている。

後ろ向きな様にも思えるが、人生は一度きり、死んだらそれまでなのである。



 森の入り口まで走り、一息ついたブラッドは治癒魔法を自分にかける。

「いてぇ、くそっ、まじで、いてぇ」

「あぶなかったーー……死ぬところだった……」

「投石って……なによ、そんなんありなんだ。どう対処するべきなの、あれ?」

「あーまじかー。そういうこと?魔法使いのソロって大変なんだなぁー」

「いや、ソロだから何も考えずに逃げられて良かったのか?」


 と、ここで独り言を言っていることに気づき、ちょっと恥ずかしくなる。

守るべき対象がいるような護衛などの依頼の場合は、一目散に逃げるなどきっと許されないだろう。

いや、自分の命に危険が及ぶようであれば、逃げるのが冒険者であるが。


 ブラッドは自分の浅慮に今さらながら気づき、自分を制止してくれたアセプトやガーディさんの顔を思い浮かべた。

筋力向上をと体力向上をかけていなければ、逃げられなかった。

思考速度向上をかけていなければ、恐慌状態に陥り逃げるという発想すらできなかったかもしれない。

付与魔術のありがたみを感じると共に、その未だ残る頭部の痛みから、制止を振り切ってきたことにちょっとだけ後悔する。



「まぁいいや。わかった。」

だいたい魔法発動どうこうの前に、危険察知できなきゃ遠距離攻撃でやられるってわけね。

なんだよ投擲とか全然考えてなかった。

ありゃサルだな。いや、あーこの森には以前の生物はいないから、サルっぽい何かか。手を使える魔物ねぇ……

しかし、どうするかな。

思考速度向上は危険察知に使用できないし、知的感覚の向上にはデメリットがある……


 一流の冒険者であれば、いや、一流でなくても大概の冒険者は危険察知能力というのものを自然と身につけている。

その微かな音であったり、光の変化、匂い、気配等から危険を察知するのだが、冒険者になりたてのブラッドにはそんな能力が身についているはずもない。

知的感覚向上という便利魔法があるのだが、これは自分で微調整ができないというデメリットがある。


 どういうことかというと視覚向上を近距離を対象として付与した場合、常にルーペ越しに見ている状態になる。結果、遠くの物は全く見えなくなる。

遠距離を対象に付与した場合は逆に近くのものが見えなくなる。

聴力向上をかけてしまうと、近くで咆哮など大声を出された場合、下手すると気絶する。

種々の感覚をコントロールできない状態で向上させるというのは、それだけ危険なのだ。

かといって、全く使えないわけでは無い。要は適材適所で、個人の戦闘や探索の場が適所で無いというだけだ。



 そうか。鎧兜か。

体の周りに、ある程度の速さで近づく物を弾く障壁でも張っておけばいいか。

全方位だから、円柱状でいいな。

ガラス質にしておかないと、視界確保できないし、穴開けておくと……あの精度で石を投げられると、ちょっとの穴でも狙われそうだしな。穴は無し。

強度は……このくらいか。これ以上厚くすると、視界の鮮明さが失われるし仕方ない。

固定位置は対象。高さは……俺の身長くらい、足元はちょっと開けておいて、あーこれあれだな。窯みたいになってるし、内部に火球でも投げ入れられたら即死だな。

まぁいいや。今回は魔法使いと戦う訳じゃないしな。

魔法使う魔物っているのかな?聞いておけばよかった。

ブラッドは魔方陣を描き始める。


ん?ソロだし、速さ判定いらないか?いらないな。いや、いるか?わからん。付けておくか。

ん?これ出られなくない?というか魔法使えないのでは?閉じ込められているのと同じじゃないか?

いや、いいか、なんとかなるわ。出現場所を変えればいいだけだ。

こちらからは通れるけど、向こうからは通れない、そんな壁があったらいいのにな。無いわな。少なくとも俺は知らない。

と、持続時間は……、2時間もあれば十分か、あのサル、いやサルっぽい何かを倒したら帰ろう。

あとは解除コードを書いて、と。


 魔力経路に満たされた魔力は各々の手続きを通過し、接続式に流れ込む。

魔方陣が光り輝くと、ブラッドの周りに薄い円柱状の膜のようなものができていた。


 既に頭部の傷は綺麗に塞がっている。

左肩には打撲痕も残っていないだろう。もちろん臀部にも。

 ただ、いかに治癒魔法と言えども、流れ出た血は回復しない。

血肉を生成する魔法もあるが、ブラッドが使用したものはそうではなく、治癒力を高めるだけのものだ。

血が足りないことによるデメリットにまで頭がいっていなかったのか、必要が無いと考えたのか。もちろん前者である。

本来であれば、不足した血によりフラフラしてしまうような状況ではあるが、それなりの強度でかけられている体力向上の魔法によりブラッド感じることが無かった。



「よしっ!早速リベンジだ!」


 ブラッドは再び森の中へと歩き始めた。




続く




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