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勇者登城!……と謁見の間


【6月 金の4の日】



 謁見の間の扉の向こうに現れた勇者を、諸侯は見つめる。

開かれた扉の向こうには、白銀の軽鎧をまとった10代の少女が立っている。

腰には、柄まで合わせれば、彼女の体躯ほどあろうかという大剣を帯している。

その剣は、抜き身の刀身に布を巻いた物であり、昨日、この少女が抜いた聖剣であろう。

もちろん、鞘は無いわけなので、抜き身であるが、危険の無いよう布で巻いたと思われる。


 身の丈165cmほど。女子としては決して低い身長ではないが、戦士、剣士としては低い部類に入るであろう。

その腕は、白く、とても腰の物を振るえるとは思えない。

もともと、どんなメスゴリラがやってくるかと考えていた諸侯である。

やはり勇者は特別な存在なのだと感嘆するものや、やはり何かの細工があったのではと疑念をもつもの、反応はさまざまであった。


 勇者はその金色の髪をなびかせ颯爽と歩き始める。

堂に入ったその歩き方に一同は息を飲む。


 そして、その顔の造形を視認できる近さまで勇者が歩み寄った時。

再度、諸侯は息を飲んだ。


 これほど美しい人間がいたであろうか。

その肌は白く、透けてみえるようであり。

その眼は大きく力強く、その瞳の青は澄み切っていた。

金色の髪は彼女の動きに合わせサラサラと揺れ動く。

勇者ではなく、女神なのではないかと誰しもがそう思ったのだ。


 勇者は王の前まで進み、跪く。

その所作に諸侯たちは大きくため息を漏らす。


 他の諸侯と同じく、影武者であるエイリックも内心は驚いていた。このような成人の儀も済んだか済まないかの少女が勇者だとは思っていなかった。

しかも美しい。本当の王ならば、なんとか手に入れられないかと思案するのであろうな……

というか、この謁見をどこかで覗いている王はそう思っているだろう。


「勇者トレア、面をあげよ。」

「はっ!」


 その凛として美しい顔は、エイリックに向けられる。

瞳に吸い込まれそうになる。

いかんな。魔法か?魅了されそうだ。

美しい……美しいが、美しすぎて怖いな。

現実感が無いほどの美人だな。



「よくぞ参った勇者トレア、配下の者よりその名をトレアと聞いておるが相違ないか?」

「はい、相違御座いませぬ。トレア・ブレイブスにございます。」


 ブレイブスなどという家名は、ここにいる誰もが知らなかった。

知らなかったことから、皆、自由連合のいずれかの領の者であろうと推測した。

それは、影武者であるエイリックも同じであった。


「うむ。トレア・ブレイブスよ。お主は西方から参ったのか?」

「左様でございます。西方はラジャマヌ領の出にございます。」


 西方からここまでひと月で来られるのか?

勇者になろうと考える者ならば、ニューマンズ領を目指すか、自由連合の者ならば首都パスリントルに向かうのではないか?

ラジャマヌ領なる領地がどこにあるのかは、誰しもがわからなかったが、西方である以上こちらに向かうのは甚だ疑問である。

また、その距離から、ほぼ一直線にこちらへ向かうことでもしなければ魔王顕現から、ふた月でイスタブルへは至らないはずである。



「なぜ自由連合のお主が、ここイスタブルに来て、聖剣を手にしたのだ?」

「はっ。遊学の為、クラウス学園に通わせていただいておりました」

「はい。現在学園は休園となっております。故郷である自由連合は遠く、魔王が出現したのもニューマンズ領であると聞きましたので、しばらくは、ここイスタブルにて休暇を頂いていたのですが、学園再開の目途も立たないとのこと」

「一度、噂になっている聖剣でも見てみようかと、ゼピュロスに向かった次第であります。」


「ふむ。クラウスの生徒じゃったか。」


 スタンバ宰相はヒトリウスに目を合わせる。

ヒトリウスは顔を横に振る。どうやら見覚えのある生徒ではないようだ。

すぐさま、脇に控えている従者に何かを言付ける。確認のため学園に使いを走らせたようだ。




「よろしい。状況はわかった。」

「聖剣抜剣により、お主をアレクサンドリア国の勇者と認定したいと思うが、異議はあるか?」


「ございませぬ。余りある光栄、謹んでお受けいたします。」


「ふむ。」

「お主は学生であったと思うが、勇者として魔王を倒すという大業、成すことができるのか?」


「はっ!聖剣を抜いた際に、私の頭の中に過去の勇者の記憶が流れ込んできたのでございます。」

「その英知を持ってすれば、必ず魔王を倒すことが出来ましょう。」


「ほう」

 王は唸り、諸侯はざわめく。

頭の中に記憶が流れ込むなど、また、とんでもないことを言い出したものだ。

スタンバ宰相も青い顔をしている。

そこまで驚くことなのか。エイリックは思ったが、まぁその体で話を続けるしかあるまい。


「その英知があれば、魔王を倒せると……なるほど、国も全面的にバックアップするつもりであるが、いったいどうやって魔王を倒すのか?」


「魔王を倒すには優秀な人材が多数必要になります。賢しい者や剛の者を国中から集めていただきたいのです」

「また、個人の技のみで魔王は倒せないため、人心掌握に長けたもの、軍の運営に長けたもの、戦術に長けたものも必要です。」

「それは庶民や冒険者からも、騎士団、宮廷魔術師、アレクサンドリア軍、いずれからでも構わない。身分は問いませぬ。集めれらるだけ集めていただきたい。」

「はっきり言えば、募集では無く、徴兵できればなお良いかと」

「スキルが分かる書類を提出いただき、一定の線引きをし、討伐隊員とできれば。」


「徴兵だと?!そんなものアレクサンドリアの長い歴史の中で行ったことが無いぞ」

「国から優秀なものを皆ひっぱて行くのか?それでは総力戦では無いか。」

「そこまで我が国は追い詰められておらぬわ」

「何人集めるが知らぬが、その行軍費用だけでバカにならんぞ」

諸侯が口々に唱える。


「なんと。優秀なものをかき集めて数で押し切るというのか?」

「いえ、数ではございません。なんらかの能力に秀でたものでなければなりません。ですので、多くても数千程度かと。1万を超える兵で行軍すれば北方も黙ってはいないでしょうから」

王が尋ねると、トレアはそう答えた。



「いや、数千でも黙っていないと思うぞ」

「確かに」

「まずは話を通さねばならぬな」

「話が通るのであればとっくに和平が進んでおろう」

「しかしまぁ世界の有事であるから、通りやすくはなっているだろうな」


「うむ。できる限り手は尽くそう。」

 王はそう言うと任せたとばかりにスタンバに視線を移す。

実はスタンバの顔色を確認しているのだが、やはりちょっと怒っているようだ。

そうだよねー無理だよねー。

でもきっと本当の王でもこう言ったはず。

大丈夫。間違ってはいない。



「これから冬に入るため行軍は困難であるため、まずは討伐隊の受け入れができるよう整備していただきたいのです」

「そして、討伐隊の募集をお願いいたします。書類の審査、書類にて判断できない者の入隊試験にも、できる限り立ち合います」

「出立は雪解けを待ち、10月第1週あたりが良いでしょう」


「それも頭の中の過去の勇者が申しておるのか?」

「はっ!左様にございます」


「そうか。大筋ではわかった。」

「子細は詰める必要があろう。しばらくは王城に留まり、今後、方針の決定に助言を頂きたいが、よろしいか?」

「はっ、謹んで参加させていただきます」


 勇者が仰々しく頭を下げ、王が満足したように微笑んだところで謁見の儀は終わりとなった。



 ※※※



その少し後、

「少数精鋭。少数精鋭と言っておったではないか。」

スタンバ宰相はヒトリウス教授に詰問している。

「いえ、あの」


「数千人、数千人って言ったよね?あの勇者。それは行軍だぞ、行軍。いくらかかると思っているのだ。」

「行軍すんなら勇者いらないの!うちの軍出すから。市井の物を混ぜての混成軍なんて試算の人手だってかかるであろう」

「その優秀なものとやらがイスタブルに居を構えていなかった場合、そやつらの滞在費用は誰が出すのだ?空から降ってくるのか?」

「少数精鋭という土台あっての勇者探しであろう!」


 一方的にまくしたてたスタンバ宰相に対してヒトリウス教授は何も言えない。

政策については門外漢であるし、まぁ少数精鋭と言ったことに関しては申し訳ないと思うが今さらどうしようも無い。

だいたい、自分は歴史学者であるから、そういった政策を考えるのがあんたの仕事では?とも思う。

最近、貴族の間で「場当たり」という言葉が流行しているらしい。

そんな言葉が流行るほど場当たり的なことしてるからこうなっているのではないだろうか。


「しかも国からも人を出せとな。費用はどこから出す?賠償金は?北方にはなんと言って通してもらう?だいたい西方にはなんと言うのじゃ?」

「おたくの国の娘さんが、うちの国の勇者です?あほか。通るわけなかろーーーっ!」

「魔王を倒せなければ我が国のバックアップ不足。倒したら、勇者はうちの国出身でしたーと手柄だけ取られるわっ」

「西方出身の時点で、勇者認定は保留にせよと言っておいたのに!エイリック!お主どうして勇者認定の話に持っていった!」


「申し訳ござませんスタンバ宰相。  テンパりました。」


 スタンバ宰相が愕然とした顔をする。せわしなく動いていた両手もその動きを止めた。

そして、その顔色がみるみる真っ赤に変わっていく。

「このハゲーーっ!!」



 私の外見をなじることは即ち、この国の王の外見をなじることですぞ。

と、エイリックは思ったのだが、スタンバ宰相の余りの剣幕にとても口には出せなかった。

 

 とにもかくにもアレクサンドリアは自由連合出身の勇者を擁立し、魔王討伐のバックアップを行うことになってしまったのである。

そのためには外交問題や財政問題等、種々の問題を解決せねばならず、スタンバは頭を抱えてうずくまってしまったのだ。



続く




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