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勇者登城!……と謁見前段


【6月 木の4の日】



「都合よく最終日の2日前とはのぅ……」

王は深いため息とともにそう呟いた。

 

 聖剣抜剣の一報に城内は慌てていた。

誰もが勇者など諦めていたため、何の用意もしていなかったからである。

寧ろ現れない方が良いと思っていているものまでいたのだ。

勇者のバックアップに資金がかかるし、手間もかかるし本当に倒せるかもわからないし。


 だいたい、大都市部の周辺ではあまり魔物の被害が出ていない。

たまに悪魔が飛んできて町を破壊するくらいだ。それはそれで問題ではあるか。

滅ぼされた町や村はまだ無いし、主要な街道はとりあえずのところ通行可能である。

一重に魔物駆逐の成果である。

こんな頻度でしか悪魔が来ないのなら、寧ろ国の活性化に貢献しているのではないかと影で声が上がることもある。


 まぁ賠償金は絶え間なく発生しているし、実際家族を失ったものの前ではそんな事を言えるわけも無く。

ただ、人口増加及び雇用の増加によりイスタブルの経済は大きいふり幅ではあるが安定していた。

そんな中の勇者登場である。


 いつもの面々が王城内の会議室に集められる。

王は少し、少しだけ不機嫌そうな顔でこう言った。


「皆、よく集まってくれた。 ついに、聖剣を抜く者が現れたぞ」

視線の先にはヒトリウス・シークワールドが佇んでいる。

そうだ、よく考えればこやつの案であったな。

王は少し諦めたような、後悔を含むような目でヒトリウスを一瞥した。


「聖剣を抜いたことこそが証であるため、抜いた者を勇者として認めねばならん訳であるが。抜いた者について……」


そこで視線を向けられたスタンバ宰相が説明に入る。

「まず、剣を抜いた者は当国のものではありません」


「なんと。」

「それはマズいのではないか?」 

「よその国の者に我々が資金援助するのか?」

「それはいいとして、アレクサンドリアの勇者扱いになるのか否かじゃ」


諸侯からあがる声を無視しつつスタンバ宰相は続ける。

「えー出身国は不明、遠い国からとしか聞けておりませぬ。名前はトレア。年齢は聞けませんでした。」


「なぜ、きちんと聞かぬのだ」

「子供の使いか」


諸侯から嘲笑と共に、また声が上がる。

先ほどから王が一言も発していないのは既に宰相から説明を受けているからであろう。

ぼんやりと、ヒトリウスを見ている。

じーっと見つめられているヒトリウスは肝を冷やし続けているのであるが、王は責めているわけではなく議題と別の思案に没頭していただけである。


「出身に関しては本人がそう申しているため、それ以上に聞けなったようです。後の勇者に尋問するわけにもいきませんからな」

「明日、謁見の用意を進めております故、その際に聞き出せるかと」


「ふむ。で、その出自も明らかになっていない者を王城に招き入れ、謁見させるのか?」


「それについては心配無用です」

「王については影武者を用意します。初対面ですし、露見することはないでしょう」


「まぁ当然であるな」

「ではその謁見にて何を行うのだ?勇者認定だけして帰すのか?」


「謁見の目的は2つ」

「ひとつ目はバックアップする見返りとして、アレクサンドリアの勇者という触れ込みを確約させること」


「その触れ込みは必要なのか?魔王に敗れでもしたらいい恥であるぞ」

「確かに。そのどこの馬の骨ともわからん奴がバックアップと称して何を言い出すかもわかったものではない」

「いきなり後宮などと言い出したらどうするつもりじゃ」


「後宮はダメじゃ。絶対にダメじゃ。」


 さすがの「子作王」が、ここで会話に入ってくる。

王はそれまで気のない素振りでヒトリウムを見ていたが「後宮」の単語が出た途端食いついたである。


別に後宮くらい良いと思うかもしれないが、後宮には美人を揃える。その美人は儂の者ではないか。

どこの者とも知らぬ勇者に、ほいそれとくれてやれるものではない。

何故ならば、この国の美女は儂のものだからだ。

すべて、儂のものだからだ。


「まぁ、陛下。いきなり後宮の可能性は低いですし。落ち着いてください。勇者は女です」


「うむ」


 当世王は無類の女好きであり。美女が好きである。

ただ、誰かの夫人を横取りしたり、年端もいかない娘をさらったりはしない。

彼は、賢王と呼称されたいのだ。

悪政を敷き、後に言論統制をしたところで、どこからか情報は漏れるものである。

当世の王は、それをよくわかっていたし、また、根は善良であった。

王としてではあるが。



「はっ?!」

「勇者は女?」

「聖剣を抜いたのは女なのか?」

「女がアレを抜けるものか!何か細工したに違いない」

「とんだ怪力女がいたものだ。それは確かに我が国にはおらぬであろうな」

「儂の息子ですら抜けなかった者を女が抜けるはずがないわ」

諸侯がざわめく。


 後宮の件から話が離れることで落ちついていた王が場を締める。

「えーバックアップの件については謁見後に再度合議となるであろう。今考えても仕方ない」

「旅の資金と、人員は最低限必要であろうな」

「うむ。」



「では、ふたつ目」

「出自や目的の確認です。」


「そちらが先であろう。」

「だいたい、剣は抜きましたが魔王討伐は嫌ですなどと言われたらどうするのだ。意思確認くらいはもうしておるのか?」


「いえ。そちらもまだです。」

「聞いたが、答えなかったのか?聞かなかったのか?どちらだ?」

「聞きましたが答えを頂けなかったようです。」

「なんだ、そやつは。端からそれでは先が思いやられるぞ」


「ですので、まずは自己紹介をしてもらい、その後、勇者としての認定及び援助のお話を……」

「なんとまぁ……」

「そんな行き当たりばったりの謁見があるものか」

「だいたい聖剣の話ですら行き当たりばったりだったのだから仕方あるまい」

「大丈夫なのか。この国は」

「有事であるからして、仕方あるまい」

「その仕方あるまい仕方あるまいでこんな状況になっているのでは?」

「では其の方が最善の案でも出したら良かろう」


「えーい。静かにせぬか。とにかく明日、謁見じゃ。」

「その後は合議であるから、全員10時には登城し謁見から参加するように。以上。」


 王の荒げた声により、勇者謁見の儀は定まり。

明日、勇者を王城へ迎えることになった。




 ※※※




【6月 金の4の日】


 午前10時丁度にに勇者は王城前に現れた。

衛兵に連れられ、今は控室で待っている。

王の影武者エイリックはため息をついていた。

面倒なのだ。

王の所作は真似れらるが、今回は政治的決定までしなければならない。


 勇者との謁見である。

そんなものは多くの護衛でも付けて、なんとかこなせばいいのだ。

だいたい、暗殺を警戒するから影武者って、王は公の場に出られぬではないか。

いつも私だ、この前の演説も、パレードでもなんでも私ではないか。

それに比べてあの王は、夜の営みばかりで。

なんなんだろうな。私の人生は。


 いいさ。国からの補助により、村に残してきた両親は幸せなまま旅立ったし。

妹も良家に嫁いで行った。

寝食の心配も無い。

家族はいい。皆幸せだと思う。

だが、どうだ。私の人生はなんだったのだ。


 エイリックがいつもの愚痴を頭の中だけで繰り返していると、ドアがノックされる。


「時間です。」


「うむ」


 途端、エイリックは王の声となり、王の顔になり、謁見の間に向かう。

彼はまだ知らない。

この謁見がこの国の大きな転換となることを。



続く





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