散りゆく桜に、春を待ちて
「桜、散っちゃうね」
「もう5月だしな」
「そうだね」
人が一人通れる間隔を開けて、隣り合うと言うには少し遠い机の距離。
話す言葉はお互い聞こえてる。なのに視線が合わないのはお互い違うものを見ているから。これを、会話と呼べるのかな。まるで独り言を拾っているみたい。
私は風に舞う花びらを、君は・・・抱く想いの向かう先を。それぞれ別の方向を向いている。隣にいる人が、一番遠い。
叶わないよ。君の想いは。叶うのなら、そんな風に遠くから見つめているだけでは終わらないはずだから。願うことは容易いけれど、願いは所詮願いでしかない。
空に舞う花びらに、散らないでと願っても。風は容赦なく春を終わらせようとしているもの。
シーソーに、乗ったことはある? 片方にだけ乗っていても、君は持ち上げられない。反対側に、誰かが乗らなきゃ成立しないんだよ。
なのに君は、そこに乗る人を誰でもいいなんて言わない。頑固者、いつまで続けるつもりなの?
寂しいよ。つまらないでしょ? 待ち続けても、君の想いは報われない。私の願いも・・・・ 叶わない。
損得計算、しない? 私と君が、一緒になれば、さ。お互いのためになると思うんだけど。
・・・ なんて、そんな計算式みたいに単純じゃないよね。人の想いは特にそう。 どこまでも、貪欲な生き物だから。
「もう、夏になっちゃうね」
顔を伏せて、独り言。
「まだ気が早いだろ」
・・・ こんな独り言、無視してもいいのに。それを優しさと感じるのはおかしいのかもしれない。それでも、嬉しくなるのだから。私は勘違いしたままでいい。
「・・・ 春、終わっちゃう」
「また来るさ。終わらないと始まらないからな」
「うん・・・」
なら・・・ 君の恋が終わったとしたら。
「でも、やっぱりさ」
私の恋は、始まるのかな。それとも・・・・
「終わるのは、寂しいね」
横目に見た、桃色の世界は。どこか儚く、綺麗な色。
1/4 終