年齢(28歳)=彼氏いない歴の女をお持ち帰りしました。
『年齢(28歳)=彼氏いない歴の私が、御曹司にお持ち帰りされました!?』の男主人公視点です。
埋もれたガラクタの中からダイヤモンドの原石を見つけた。
まだ誰の目にも晒されていない原石を自らの手で磨きあげたい、そう強く思った。
それは生まれて初めての感情であった。
自分の欲求を満たすためだけの行為に虚しさを覚えていた自分にとって、彼女との出会いはまさに一筋の光だったからだ。
俺は、心の底から彼女を欲した。
初めの頃はこの感情に激しく戸惑い、必死に自分の中に押し隠そうとした。しかし、日に日にこの気持ちは強くなる一方で、ある日一つの答えに至った。
これが『恋』なのだと──。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺──壱流 蓮は、日本屈指の大財閥『壱流家』の御曹司である。これほどの大財閥となると、政略結婚や親同士の結婚は当たり前のことだろう。しかし、壱流家は“使えない奴は家族であろうが見捨てる”という究極の実力主義だった。
壱流家にお飾りの嫁などいらない。おかげで、好きでもない女と婚約せずに済んだ。
一方で、蓮のブランド欲しさに実の多くの女が集まった。財産やルックス、家格においても蓮ほど条件の良い男はそうそういないだろう。
そんな女達に嫌気がさした俺は、自分の欲求をただ処理するものとして扱うようになった。一生自分に合った人は、見つからない。そう諦めていた──。
その日は、とても幸運なことが続いていた。二時間かかるはずの会議が一時間ほどで終わったり、部下の報告書に一つもミスが見つからなかったり……。おかげで、びっしりと詰まっていたスケジュールに空きができ、午後からの会議に向けて、資料の確認をすることができた。
今回の会議では、会社Aと共同の初企画についての話し合いが行われる。『壱流の』の後継者として必ずこの企画を成功させなければならない。一週間前から徹夜をして完成させた資料を手に持ち、会社Aへと車で向かった。
会社Aに到着すると、社長自ら出迎えをしてきた。
「ようこそ、壱流 蓮様。さ、こちらへ」
会社Aの社長に続き、社内を颯爽と歩く。それだけで周囲の女性社員達は頬を赤く染め、男性社員達は敬服する。蓮は上に立つ者として必要なオーラを持っていた。だから、誰もが頭を下げる。
「こちらで会議が始まるまで、お待ちください」
そう呼ばれて、待つこと十分。次々と会議室に入ってくる面々を蓮はじっと見つめていた。
まともに挨拶をしてくる奴がいない。大体の奴らが緊張してなのか、おどおどしている。
(どいつもこいつも同じことしか言えないのか!?一体こいつらは何をしていたんだ)
だんだんと俺のテンションが下がり始め、同時にその場の雰囲気も悪くなっていく。
究極の実力主義のなかで生きてきたせいか、時間が無駄に過ぎていくことにイライラばかりがつのる。
そのとき凛とした鈴のような声が蓮の耳に届いた。その心地良さに思わず視線を向けると、見るからにしてダサい女。ところどころで彼女を嘲笑する奴らが目に映る。それを怒鳴り散らしてやりたい気分になるが、そんな余裕はない。なぜなら、彼女に視線が釘付けになってしまったからだ。
胸が動悸を打ち始める。それぐらい彼女との出会いは、蓮にとって衝撃的だった。
「私は如月 舞子と申します。今回のプロジェクトにおいて──」
彼女の発表が始める。その発表は今までの奴らとは明らかに違っていた。彼女の案は俺の案に匹敵……いやそれ以上のアイディアが盛り込まれている。俺は近くの部下に彼女の案を紙に書いておくよう命じた。
(如月 舞子か……欲しい。手元に置きたいぐらいだ)
会議はあっという間に終わりを告げ、蓮はすぐさま彼女の元へと向かった。
「実に素晴らしい案だ」
「……仕事ですので」
仕事の鬼と呼ばれる蓮に褒められることは、この上なく名誉のことだ。それを重々承知している部下達は、舞子のこの反応に目を見張った。
「では、仕事が控えておりますので」
「そうか……」
俺の元を颯爽と去っていく彼女の腕を掴みたいという衝動に駆られる。その衝動を必死に抑え、なんとか彼女に背を向けた。
(絶対に手に入れてみせる)
蓮はそう強く決心した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
自分の会社に戻った蓮は、すぐさま情報屋『烏』を呼びつけた。
情報は、会社にとって命と同じくらい大切なもの。だから、『壱流家』のほとんどの者が自分専属の情報屋を雇っている。特に『烏』は情報屋の中でも、トップクラスの実力を誇っていた。他人のパソコンに入るこむことなど『烏』にとっては朝飯前のことだろう。
「はあ、せっかく人が気持ちよく寝ていたのに〜〜!主殿の鬼畜〜、鬼〜、血も涙もない男〜」
無理矢理起こされたのが癪に触ったのか、『烏』は蓮に文句を言い始めた。しかし、それを蓮は軽く無視する。
「烏、うるさい。最近休息を与えてやっただろう。だから働け」
蓮がそう言うと、烏は頬を膨らませた。烏の見た目は、少し見目の良い中学生といったところだ。こんな奴が情報屋の中でもトップクラスに位置するのだから、世の中は不思議なことばかりである。
烏と出会ったのは蓮が大学一年生の頃。当時烏は孤児院で暮らすどこにでもいるような普通の少年だった。それを蓮は引き取り、『壱流家』の使用人として働かせていたのだが、どうやら最強の情報屋『鷹』に気に入られてしまったらしい。いつの間にか使用人から情報屋になっていたので、流石の蓮をびっくりした。
烏の望みは蓮の手足となり、蓮に尽くすこと。だから、一生コキ使ってやろうと思っている。
「はいはい。働くよ。今回はどんなご要望で、我が主殿?」
「調べて欲しい人がいる」
「へえ〜、男?それとも女?」
「女だ」
蓮がそう答えると、烏の眉がピクリと一瞬動いた。
「女?またうざい女でもいたの?本当に主殿って女ホイホイだよね〜。フェロモンが溢れでているんじゃないの〜?」
そう言って自分の鼻をつまむ烏に、げんこつをくれる。こうやって蓮は烏に教育をしてきた。
「痛っ!?」
「ふん、私を馬鹿にするからだ。ただ気になった女性がいる。女性の名は、如月 舞子だ」
「き、気になった!?主殿が?数え切れないほどの女性を泣かしてあの軽薄な男が?なんの冗談?よしてよね〜」
かなり酷いことを言ってくる烏にもう一度げんこつをお見舞いする。
「三日以内に調べ上げろ」
「ゔぅ…本当に僕の扱い酷くない?ああ、頭にたんこぶが二つもできちゃった……」
「なんだ?文句があるのか?」
もう一回俺のげんこつをくらいたいのか?と拳をかまえると、烏は蜘蛛の子のように扉の前まで移動した。
「やればいいんでしょ、やれば……」
かなり強引な手?で烏に仕事を頼み、蓮はゆっくりと自分の椅子にくつろいだ。そして、口元に不敵な笑みを浮かべて呟いた。
「待っていろよ」と。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さあ、分かったことを教えてくれ」
三日後、蓮は烏の報告を受けていた。
「はい、これ」
烏に差し出された一枚の紙きれを受け取る。
「……これだけか?」
そう言うと、烏はどこかきまり悪そうな顔をして言った。
「……彼女の周りってかなりセキリュティが頑丈でさ、中々情報が掴めなかったんだよね〜。誰かが彼女の情報を隠してるみたい。まあ、僕なりに精一杯頑張ってみたよ」
「そうか……」
紙きれに視線を向けると、箇条書きで彼女の情報がズラズラと記されていた。
・如月 舞子 28歳
・〇〇大学 首席卒業
・仕事が好き
・生粋の酒好き
・酒癖が悪い
・仕事用パソコンのアドレス 〇〇-△△◇◇815
・体重は乙女の秘密♡
・90・50・85
と書いてあった。
(体重はどうでもいいんだが、最後の「90・50・85」なんだろうか?暗号か何かだろうか?)
「おい、烏。最後の90・50・85はなんだ?」
「それは…ゴニョゴニョ……」
烏があまりにも声をひそめて言ったので、蓮はよく聞き取ることができなかった。
「何を言っているか分からない。はっきり言え」
蓮がそう指摘すると、烏の顔が僅かに赤く染まった。
「だーかーら、スリーサイズだよ彼女の!」
「……は?」
「それぐらい分かるでしょ!わざわざ僕の口から言わせないでよ!」
烏は「うわーん」と騒ぎながら、部屋から出ていった。
「なんだった。それにしてもこれが彼女の……、はっ!?俺、一体何を想像しているんだ!」
その日、蓮は邪な気持ちを打ち消すかのようにいつも以上に仕事に励んだ。
それから二週間近く蓮は、歯の浮くようなメッセージを彼女に送り続けた。が、全く相手にされず、かなり歯痒い思いをすることになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
(一体俺の何がいけないのだろう。直接会いにいかず、メールで勧誘するような真似をしたからなのか?)
毎日三回忘れずに彼女のメールを送って、はや二週間。まだ一回も彼女からメールの返信がこない。
「俺は……どうすればいいんだ」
蓮はガクッと机に項垂れた。
「主殿〜、彼女の件で新しい報告が〜!」
「な、なんだ!ま、まさか、男ができたとかではないだろうな?」
(もし彼女に男ができでもしたら……ふふ、俺の手でそれを破滅にしてやる……)
「そんなことではないですよ!だからそのヤバそうな顔つきはやめてください。人を殺しそうな勢いです」
「…安心しろ。彼女は殺さない。ただ男の方は……」
『壱流家の財力を使って、地獄を見せてやる』と心の中で呟いた。
「…お、恐ろしすぎる」
「ふん、それで報告とはなんだ?」
「驚かないでくださいよ?」
「ああ」
「如月 舞子が会社をクビにさせられました!」
「何だとォォォオオ!?」
予想以上の話に、生まれて初めて声を荒げてしまった。会社中に響き渡ったかもしれない。
「…ゴホン。烏よ、すぐさま彼女の居場所を確かめてくれ。それが終わったら、特別に一週間の休息をあげよう」
「本当に!?わーい!」
嬉しそうに部屋から出ていく烏の背中を見送った蓮は、ほくそ笑む。
(単純なやつだ。やはりアメとムチの教育が一番だな)
彼女の居場所はすぐに分かった。どうやら知人のバーでアルバイトをしているらしい。
その知人が男だと判明したときは思わず眉をひそめてしまったが、まるで兄妹のような仲らしく、ひとまず安心する。
愛しの彼女のもとに向かうため必死に仕事を終わらせようとするが、腹黒専務がここぞとばかりに仕事を押し付けてくるせいでそれもできない。
「クソ…あの専務が。いくら壱流家の分家出身だからといって、人にどんどん仕事を押し付けやがって」
蓮は、腹黒専務に悪態をつきながらせっせと仕事を終わらせていく。それを興味深そうに烏が眺めている。
「わあ、流石主殿!資料の山がだんだんと減っていく〜」
烏が関心したような声を上げる。そんな烏を無視して、蓮は最後の仕事に取りかかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
最後の仕事を無事に終えた蓮は、腹黒専務に仕事を押し付けられる前に会社を後にした。
「〇〇地区にあるバー『△△』に向かってくれ」
専属の運転士に場所を告げ、車に揺られること三十分。お洒落なバーに到着した。
かなり場違いな気がするも中に入ると、すぐに彼女を見つけた。しかし、どうやら彼女は帰る準備をしているようだ。慌てて店内に声をかけた。
「失礼、まだやっているか?」
すると、店内にいた全ての人がこちらを振り返る。中には俺を見て、失神しかけている女性客までいた。
店内がしーんとすること二分。その静寂を破るかのように一人の男性店員が近づいてきた。先ほど彼女と一緒にいたやつだ。
「お客様、今日はどのようなご用件で?」
「……彼女に用があってきた」
蓮はそう言って、ちらりと彼女の方に視線を向ける。男性店員は一瞬顔ををしかめた。
「…舞子に何か?」
彼女を呼び捨てした男性店員に嫉妬を覚える。俺はまだ彼女の名前さえも呼んでいないのに……。
「……勧誘しにきたんですよ。俺の秘書にならないか?と」
意味深な笑みを浮かべながらそう言った。
「ふ、面白い人ですね?貴方、壱流 蓮殿で間違いありませんか?」
「そうだが……」
「烏は役立っていますか?」
「な、なぜ烏を知っている?」
「何故かって?烏はこの私の弟子だからです。弟子がしっかりと働いているか心配しても当然ですよね?」
(烏の師匠ってことは……この男性店員があの最強の情報屋『鷹』ってことか!?)
「貴方があの鷹なのですか?」
「ええ、鷹は情報屋としての名前です。実は貴方のお父上に息子さんの情報屋を育て欲しい、と頼まれまして……」
「……くそ親父め。ま、それは後で抗議することにします。それで貴方は私の恋路の邪魔をするのですか?」
蓮がそう言うと、その男性店員は両手をあげて戦う意思がないこと示す。
「いや〜、天下の壱流 蓮様と戦ったりしたら、私なんてひとたまりもないですよ〜。ただ、一つ約束して欲しいことがあるんですよね?」
ヘラヘラとした態度で接してくる目の前の男性に思わず舌打ちをしたくなった。
「…約束?」
「ええ、彼女の眼鏡を必ず壊すという約束です」
「…壊す?彼女の眼鏡を?」
「そうです。この約束を守っていただけますか?」
「あ、ああ。壊す意味がよく分からないが……」
「あの眼鏡は彼女にとって足枷のようなものです。貴方、彼女に惚れてるんでしょう?」
男性店員は全て知っているんですよ、という意味ありげな視線を送ってきた。
「ブフッ!?な、何を言っているんだ!」
「隠されても無駄です。これで貴方のお父上も安心することでしょう」
「う、うるさい!もう話すことはないなら、彼女を好きにさせてもらうからな!」
「ええ、ご自由に。ただし彼女を捨てでもしたら……貴方のお父上の胃に穴が空くかもしれないので気をつけてくださいね?では、邪魔者は退場しましょうか。彼女には貴方の悩みを聞いてやって欲しいと言っておきますね」
そう言って男性店員は、彼女にことの成り行きを説明をするやいなや颯爽と店から出ていった。他のお客も男性店員に促されて帰ってしまい、店内に俺と彼女だけになった。
「お、お酒、持ってきますね。好きな席に座っててください!あ、ちなみに飲みたいお酒とかありますか?」
彼女がそう尋ねてきた。
「ウォッカを頼む。お前も飲みたい酒があったら、持ってこい。俺が奢ってやる」
「は、はい!」
彼女は俺から逃げるようにして、店の奥に引っ込んだ。その光景に若干傷ついたが、仕方あるまい。
取り敢えず、近くのカウンター席に座って彼女を待つことにした。
「こちらので、よろしいでしょうか?あまりウォッカに詳しくなくて……」
待つこと数分。彼女が店の奥から出てきた。
「ああ、大丈夫だ。取り敢えず座ってくれ」
そう言って隣の席を勧めると、彼女は恐る恐るその席に座ってきた。
「ほら、お前の分…」
彼女が持ってきたスパークリングワインをグラスに注いでやる。
「え、え!?で、でも!」
「いいんだ。俺に付き合わせているんだから。それにこれは奢りだ。遠慮せずにたくさん飲んでくれ」
なるべく優しくそう言い、彼女に酒を勧める。
「あ、ありがとうございます。私も注ぎます……」
すると彼女もウォッカを手に取り、俺のグラスに近づけてくる。
「ありがとう、君も飲んでみるかい?」
ウォッカを彼女に勧めてみる。
(たくさん飲んで酔っ払ってもらわないとな。そして、酔った彼女を酒に酔った勢いで抱いて既成事実を作ればいい。これで彼女を手に入れることができる)
そんなゲスい事を考えていると、彼女はおどおどした態度で申告してくる。
「私、酒癖悪いんですよね?酔ってしまったら、貴方のお話を聞くことができません」
「いいんだよ、だって君が緊張してるとこっちも話し辛いし?ほら、飲んで?」
そう言うと、彼女は遠慮しながらも頷いた。
「は、はい」
そして、空になった彼女のグラスにつかさずウォッカをタプタプと注いだ──。
三十分後……。
「わーたーしー、ブスだからクビにされたんです。酷いと思いませんか?」
彼女は完全に目が据わっていた。
「ああ、その男は随分と見る目がないんだな。こんなにも美人なのに」
彼女をブス呼ばわりしたその男に苛つきを覚えるものの、そいつが彼女をクビにしたことでこうも簡単に彼女を手に入れることができる。
「……こんな私を、美人って言ってくれるなんて、お世辞でも嬉しいです」
「お世辞?どうして、俺がお前にお世辞を言わなければならないんだ?こんなにも可愛いのに」
「え?」
自分の指で、ぐっと彼女の顎を捉える。すると、彼女の顔が赤く染まっていった。
「ん?どうして、赤くなっているんだ?」
試しに意地悪な質問をしてみる。すると、さらに彼女の顔が赤く染まった。
「お、お酒のせいで……」
「そうか……。ほら、もっと飲め」
再び彼女の空のグラスにウォッカを注ぐと、彼女の喉がごくりと鳴った。
それから彼女は次々とウォッカの瓶を空にしていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
酔った彼女をお姫様抱っこし、ずっと待たせていた運転手のいる車の後部座席に乗り込んだ。
「〇〇ホテルに向かってくれ」
「分かりました」
ゆったりと背もたれに寄りかかりながら、自分の腕の中で眠る彼女に視線を向ける。酒のせいか顔が火照り、どこか艶めかしい。つい見惚れていると、いつの間にかホテルに到着していた。
「今日はここで泊まる。お前も休め」
運転手にそう告げ、彼女を再び抱きあげてホテルの中に入る。すると、すぐさまホテルの従業員が出迎えをしてきた。
「壱流様、今現在スィートルームが空いているのでそちらでお泊りください」
「ああ、ありがとう」
顔パスでフロントを通過し、エレベーターに乗り込む。スィートルームに到着すると、彼女ををベットの上にそっと下ろした。
流石にあの状態の彼女を抱く気にはならず、シャワーを浴びにいこうとする。が、それを阻むかのように彼女が俺の腕を掴んできた。
「行っちゃ、やだ〜」
耐えていたものが今ので一気に砕け散った。彼女を怯えさせないように近付き、そっと抱きしめる。酒の匂いに混じって彼女の持つ甘い香りが俺を包み、思考が朦朧してきた。
「なあ、抱いても文句言わないよな?だって、誘ってきたのは舞子、お前だよ?」
彼女に懇願するかのように告げる。すると、彼女は自ら俺に抱きついてきた。
「うふふ、いいよ。名前の知らない優しい人…」
普段の彼女からは予想もできないほど甘い声。流石の蓮も男だ。ここまでされといて抱かないようなヘタレではない。
「……蓮だ。壱流 蓮」
「…れん?蓮ね、蓮…」
嬉しそうに俺の名前を連呼する彼女に、最後の理性が崩壊した。
「…抱くよ…」
そう言って、俺は舞子を抱いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
彼女より先に起きた俺は後悔に苛まれていた。昨日の夜は彼女との既成事実を作ることで頭がいっぱいになり、彼女が処女だと知らずに抱いてしまったのだ。シーツについた血の斑点を見て、さらに落ち込む。
「うん……」
彼女が寝返りを打とうとして固まるのが分かった。
「え?うそ……」
(ああ、かなり戸惑っているよな……)
「う、嘘でしょうッ!!」
彼女の悲鳴に似た声に居ても立っても居られなくなり、そっと後ろから抱きしめた。
「うるさい……もっと寝ろ(すまない、舞子。俺は……)」
自分の内心を知られまいと必死に平常を保った。
「はう……、って違う違う!」
彼女が振り返ったせいで、シーツの合間から彼女の裸ががっちり見える。それがあまりにも綺麗で、思わず目が釘付けになりそうになった。
「……身体は辛くないか?初めてだったんだろう?(処女なのに激しくしてしまった……あの色気で処女とか……)」
「は、初めて!?そうだ……私は、処女だったんだ……」
急に黙りこみ、静かに涙を流す彼女に焦り出す。
「お、おい。どうして泣くんだ?そんなに痛かったのか?(ああ、やっぱり激しくやり過ぎたんだ……)」
落ち込んでいると、小さな笑い声が聞こえた。
「……ふふ」
それがあまりにも可愛くて、つい抱きしめてしまった。
「昨日はすまない。まさか、処女だったなんて……。もちろん責任はとる。どうだ?俺のものにならないか?」
蓮はここぞとばかりに彼女に迫る。すると彼女は戸惑いながら言う。
「え?で、でも、名前を知らないですし……」
「……昨日教えただろう。忘れたのか?」
「そ、その……お酒を飲んでいたところまで覚えているのですが……」
「……」
昨日の夜のことを何も覚えていないという彼女に、安心を覚えてる同時にもどかしさを覚えた。一方で名案が浮かんだ。
「そうか……それなら仕方ないよな」
そう言って、蓮は舞子をベットに押し倒した。
「ワワワっ!?」
「…忘れてしまったなら、思い出せばいい。俺の名前は壱流 蓮だ。ほら、呼んでみろ」
それからもう一度舞子と愛しあえたことで、蓮は心も身体もかなり満足できた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
鷹との約束をしっかりと守った俺は、それから一週間後。舞子を連れてとある場所に来ていた。以前舞子が働いていた会社Aである。
「あ、あの、どうしてここに?」
舞子が戸惑いながら質問してくる。
「舞子を見せびらかすためだよ」
そう答えると、舞子は不思議そうに首を傾げた。眼鏡を破壊された舞子は、現在眼鏡をかけていない。そのせいで先程から男性の視線をかなり集めている。俺は、舞子を隠すかのように腕の中におさめる。
「ひ、人前何をするんですか!?」
「何って抱きしめてる」
悪そびれなく答え、茹でタコのように真っ赤になる舞子。それを眺めていると邪魔者が登場した。
「え、えーと、壱流 蓮様?」
戸惑いながら話しかけてきた男をつい睨んでしまった。すると、その男は「ヒイッ!」と声をあげた。
「すまない。えーと、ここの次期社長殿に用があってな。もしよければ、呼んできてくれないか?」
「は、はい!」
その男は慌ててどこかに走っていった。ふと、腕の中で震えている彼女に気がつく。
「どうした?会うのが怖くなったか?」
「いいえ、あの男のことを思い出したらムカついてきて」
どうやら怒りで震えていたらしい。そんな彼女にとって頼もしさを感じる。
それから数分後、先程の男に連れられて次期社長らしき人が近づいてきた。
「壱流 蓮様、今回はどのようなご用件で……おや、そちらの女性は……」
どうやら彼女に見惚れているらしい。
「忙しい中、すまない。貴方にお礼を言おうと思って」
「お礼、ですか?」
俺にお礼されるようなことをした覚えがないのか、会社Aの次期社長は頭をかしげた。
「ええ、彼女をクビにしてくれてありがとう」
「え?」
「それと、今後一切この会社と協力をするつもりはない。それでは、さようなら」
「ま、待ってください!」
男を無視して、颯爽とその場を去った。
会社Aは以前から不正を行っていた。本当は無視するつもりでいたのだが、既に欲しいものは手に入った。会社Aで働く優秀な社員だけを自分の会社に引き抜き、後は会社Aの不正の証拠を親父の机にあげとくだけで全てが済む。
そのことを舞子に知らせるつもりは毛頭ない。それで舞子が俺にビビって逃げでもしたら本末転倒であるからだ。まあ、舞子がそれで逃出すとは思ってはいない。多分舞子ならそんな俺を含めて愛してくれると確信しているからだ。
結婚の返事はまだ返ってこないが、彼女の準備が整うまでじっくりと待つことにしよう。
少し急いで書いたので、所々誤字や脱字があったかもしれません。
お読みいただき、ありがとうございます。