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#08.逆ハーエンドをご所望です

「……え、あの、レアンドラ様……」


 レアンドラ様もゲームを知ってる? いや、そんなこと疾うに予想していたことなのに……。折角二人キリなんだから色々訊きたい。えーと、まず、レアンドラ様がラファエルルートのって、いやいや、その前にまずはレアンドラ様が日本でどんな? ん? ゲームを知ってるいるのと前世の記憶は別かな? ゲームのことは覚えていても前世の記憶は無い小説とかもあったし、だとしたら……。今は兎も角レアンドラ様が最悪のエンドを知ってるか――――


「貴女もゲームを知ってるのねエリミア」


 混乱するな私。レアンドラ様に二回も同じことを訊かせてどうする。

 誤魔化しても何の意味もありませんし、折角レアンドラ様が尋ねて下さったのですから思い切って全部打ち明けてしまいましょう。


「はい。レアンドラ様にもゲームの記憶があるのですね?」

「いいえ」


 え? 前世を覚えているか訊いたわけじゃないのに違うのですか?


「貴女“も”と仰ったのは聞き間違いではありませんよね?」


 と言うか、知らなかったら質問出来ませんよね?


「ゲームを知っていたのは祖母の侍女でわたくしの世話もしてくれた方よ。でも幼い頃寝物語にしてくれた“マリアの話”は良く覚えているわ」


 詰まり前世の記憶があるのはその侍女さんで、レアンドラ様は話を聞いていただけ?


「レアンドラ様はその話を信じていらっしゃるのでしょうか? 未来を予言するような話だと思いますけど……」


 前世の記憶が無く寝物語にゲームのことを聞かされただけだとしたら、それはお伽噺の類いにしかならないでしょう。レアンドラ様がそんな話を信じしまうとは思えないのですが……。


「ややもすれば妄想にしかならない話の全てを信じているわけではないわ。と言うよりは、一度も未来を知っているなんて思ったことはないわ。誰にどんなことを聞かされても、わたくしはわたくしよ」


 トコトンカッコいいですレアンドラ様。この方はどんな状況になっても自分らしく生きて行くのだと思います。でもこれだけは訊いて置かないと私の気が済みません。


「……その……ゲームでレアンドラ様がどうなってしまうかもご存じなのですよね?」


 レアンドラ様が何をしようと関係無しに酷いことになるラファエルルートのハッピーエンドの顛末を知っているとしたら、今此処に居ること自体が不思議なことです。私がレアンドラに転生したら出来るだけ早くこの国から逃げ出すでしょう。なのに……。


「勿論知っているわ。でも……。

 わたくしにはその“ゲーム”というモノがどういった類いのモノなのか未だに理解出来ていないのだけれど、マリアの行動によって幾通りもの結末がある物語なのでしょう?」


 何故笑ったのですかレアンドラ様。


「はい。全て覚えているわけではありませんが……。怖くはないのですか?」

「先のことがどうなるか判らないのは誰でも一緒よ。確定している未来など何処にもない。自らの未来は自らで切り開くしかないの」


 確かにその通りですが、


「でもレアンドラ様。もしマリアがラファエル様を選んだら――――」

「解っているわエリミア。心配してくれてありがとう。でもわたくしはわたくしの望む未来の為に今此処に居るの。誰に何を言われようと、わたくしは逃げない」


 輝きを増したその漆黒の瞳には、誰にも曲げられない強固な意志が見えました。やっぱり素敵ですレアンドラ様。


「私……手伝います。レアンドラ様はどんな未来を望んでおられるのですか?」

「……前にも言ったけれど、わたくしと共に在りたいなら破滅を覚悟なさい」


 あ……そうでした。あの謎発言を忘れていました。


「なんて、冗談よ」


 冗談?


「恐らく貴女に影響はないわ。わたくしの望む未来は――――」


 ……何でこんなに静かなの?


「『逆ハーエンド』だから」


 知らない! 知らないんですレアンドラ様!


「えっと……何故逆ハーレムエンドなのでしょう?」

「先見の巫女姫が夢に見たからよ」

「先見の巫女姫?」


 何ですかそれ?


「時間よエリミア。これ以上話していたら授業に遅れてしまうわ」

「え!? あ、はい」






 ドゥ・ラーダ神国


 二十五年程前にヘムダーズ帝国に併合され、今では地名以外にその名残りを見ることが出来なくなった小国です。嘗て南の大陸の片隅に存在し、ブラーツ王国の歴史の教科書には影も形も無いその国に、「先見の巫女姫」と呼ばれる預言者が居ました。


 神国は本当に小さな国で、ヘムダーズという大国の隣に在りながらその独立を保てたのは、「わざわざ占領する程の価値が無い」という理由が一番だったようです。それが二十五年程前突如として併合された理由は定かではありませんが、一説によるとこの「先見の巫女姫」が関わっていたそうです。なんでも、当時の巫女姫は歴代最高の力を持っていて、それを知った先代のヘムダーズ皇帝が強引に……。


 余り話したくないどころか、女性にとっては不愉快極まりない話は脇に置いておくとして、「先見の巫女姫」はその名の通り未来を予見出来るとされた巫女です。文献によっては大規模な災害を回避した実例も載っていました。

 因みに、姫と名付いているのは「先見」と認められると王族として扱われるからで、王族に先見の力があったわけではないようです。そもそも力自体が本物かどうか怪しいですけどね。回避出来てしまう例なんかは「何もしなくてもそうなったんじゃない?」と言えてしまいますし、予言が当たった例でも「何個外したの?」と訊けてしまいますから……。

 何れにしても、学園の図書室で調べただけなので確かなことは判りません。


 ハッキリ言えるのは、今現在「先見の巫女姫」はこの世界に存在しないということです。


 勿論、公になっていないだけなのでどこかしらに存在する可能性は否定出来ませんが、そんな中途半端な「先見」をあのレアンドラ様が信じるとは到底思えません。加えて、それ以前の口振りからすると明らかに本人の意志なのに、「先見の巫女姫が夢に見たから」なんて理由には全く説得力がありません。


 と言うかレアンドラ様。思いっきり矛盾してませんか?


 ――どんなことを聞かされても、わたくしはわたくし――そう言っていたのは間違いなくレアンドラ様なのに、「先見」に影響され過ぎではありませんか? 全く“らしく”ないように思いますが……。


 これはもしかして、からかわれているだけではないでしょうか?


 レアンドラ様には現実主義的な部分、特に政治や経済に関しては統治者向きな冷酷と言えるぐらいドライな部分がある反面、下らない冗談にも付き合ってくれる度量の広さがあります。もっと言えば、多少イタズラ好きな所もあります。まあ四人の中でイタズラ好きなのはアリエル様で レアンドラ様は付き合っているだけですが、咎めずに許容しているのは事実ですからね。直接尋ねたら、「冗談を本気にするな」と言われる可能性も低く無い気がします。

 二人キリになれば直ぐにでも訊いてみたいのですが、相変わらず誰かしら傍に居ることが多くなかなかその機会がありません。まあ、あったらあったでいざとなれば尻込みする気もしますが……。いずれにしても、


 何故逆ハーエンドなのか?


 そもそも逆ハーエンドとはどんな結末なのか?


 謎は深まるばかりです。



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