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#03.レアンドラの謎

 入学から半年が経ちました。レアンドラ様、取り巻き三姉妹共々充実した学園生活を送っています。


 授業が始まって直ぐ判ったことですが、日本と比べてしまうとブラーツ王国の教育水準はかなり低いです。それが一番顕著なのが数学で、直近の授業で分数のかけ算を習いました。まあ、ブラーツ王国の平民だと文字の読めない人とかもいますからこの水準からの授業になるのは当たり前なんですが、正直、退屈です。勝手に先に進むわけにはいきませんからこればかりは周りに合わせるより仕方ないですけど……。


 話は変わりますが、二期制の学園では先日期末試験があり順位が発表されました。ぶっちゃけ試験も簡単だったので、「1位じゃないかな?」なんて思いながら三十位まで張り出される掲示板まで行くと、残念ながら一番上の欄に私の名前はありませんでした。盆ミスで満点を逃し二位に甘んじた私の上の欄には――――


 レアンドラ・グレンデス


 悪役令嬢の名前があったのです。レアンドラ様が優秀なのは入学直後から気付いていましたが、ゲームのレアンドラは「どんなに良い点数を取ろうと生まれ持った貴さは身に付かないのにねぇ。ホホホホ」なんてセリフがあったので優秀だったとは思えません。やはりレアンドラ様だけはゲームの設定からかけ離れています。

 私は脇役ですから多少設定と違っても影響は少ない気もしますが、レアンドラ様は言わば主役の一人ですからね。ここは間違いなく現実ですからゲームのシナリオ通りに物事が進むとは考え難いですが、レアンドラ様という不確定要素(イレギュラー)はヒロインにとって非常に大きいと思います。とは言っても、現実のヒロインにゲームの知識が無かったり、イベントが一切発生しなかったりしたら、レアンドラ様のキャラがどう変化していようと何の関係もないですけどね。


 それそうと、レアンドラ様は本当に優秀で完全無欠の淑女(レディ)です。成績が良いのは前述の通りですし、魔法も並みの使い手ではありません。顔や体型は誉めるまでもありませんし、立ち姿は女王の如く気品が漂っています。いつも凛としていて、傲ることも卑下することもなく堂々と振る舞い、時に冗談を言って周りを和ませる。非の打ち所がありません。


 そんなレアンドラ様を慕う女の子の輪は徐々に広がりを見せています。本人が拒否したので表向きは私達三姉妹だけですが、実際の取り巻きは三十人規模まで膨れ上がっていて、そのうち保守派貴族の令嬢以外は皆飲み込んでしまうのではないでしょうか? 今学園に居る三人の攻略対象者達にはそれぞれ同士の集い (ファンクラブ)が存在しますが、レアンドラ様は王太子様支持者にすら受け入れられているようですからね。陰では取り巻きにまで悪口を言われていたゲームとは大違いですね。ホント。


 とは言え、レアンドラ様にはまだ謎が多いです。学園には短いですが夏季休暇があって貴族は皆実家に帰るのですが、レアンドラ様は何故か寮に留まっていましたし、本人に何も訊けていないので当たり前ですが「破滅を覚悟なさい」というあの言葉の意味も全く判っていません。言ったあとは冗談みたいに流していましたが……。


 それから、婚約は六歳の時に決まったことなのに、領地で暮らし始める前にも殿下との交流が無かったそうです。

 13歳前後にならないと招待されませんから社交に出ないのは不思議なことではありませんが、婚約者とは個人的な交流を持つモノです。ましてや王太子が相手なら、頻繁に王宮に通い、王后陛下や閣僚のご婦人方と交流を持って地位を固めて行く必要があるでしょう。何故か事情通な取り巻きその三、リリア様情報ではありますが、レアンドラ様は全くそれを行っていなかったそうです。

 私の記憶にあるどのエンドでも破棄されていた婚約ですから、レアンドラ様にゲームの知識があるなら誠意を見せようと思わないのは当然です。でも、学園入学以降彼女は王太子ラファエル様と交流を図っています。この事実で謎は更に深まってしまいました。


 それなりに信頼関係は築けていますから二人キリになれれば色々訊いてみることぐらい出来るのですが、三姉妹やら侍女やらが近くに居て残念ながらその機会は訪れていません。いえ、一番は私がヘタレだからです。レアンドラ様って打ち解けているようで本心は隠しているような気もするので……。


 兎にも角にも、レアンドラ様にゲームの知識があるのかないのか、今のところ全く判っていません。






 レアンドラ様が絶世の美女なのはお話しした通りですが、ラファエル様もレアンドラ様に負けず劣らずの美形です。絵画から飛び出して来たような二人が並ぶ姿は眼福以外ナニモノでもありません。私達三姉妹の最近のブームは、そんな二人を遠目で、若しくは間近で眺めることです。

 私達は今日もその機会に恵まれました。普通の授業日である今日は後者のパターンで、王族と上位貴族用の食堂で昼食をしていたところにラファエル様が現れ、ご一緒することになりました。ただ、いつもは取り留めのない世間話をすることの多い二人ですが、今日は凄く真面目なことを話題にしてます。


「どんな事情があろうと法を破ったモノは厳罰に処すべきだ」

「そうでしょうか? 恐怖心は人を従わせもすれば逃がしもします。多少なりとも寛大な処置は必要かと存じます」

「しかし、今回のような不正を認めてしまったら真面目に納税している者がバカをみる」

「どんなに厳しく取り締まろうとも、不正を根絶させることは出来ませんわ。法には少なからず抜け道もございますし、皆が皆、為政者の都合で定めた法律においそれと従う筈もございません。それとも、全国民が進んで税を納めてくれるようになるとでもお思いですか?」


 先日、税務役人が貴族や商人から裏金を貰って所得額を誤魔化していたという事件がありました。その影響で、今日のお二人の話題は役人の不正と処罰です。固過ぎる話にいつもは頻繁に口を挟むアリエル様も黙りです。


「そうは思わないが……。不正に手を染める役人を放って置くのも問題だろう」


 眼光鋭く威圧的な雰囲気を漂わせ、ファンからは「決して感情を表に出さないクールな一匹狼」として支持を集めているラファエル様ですが、今はその顔に明らかな迷いが浮かんでいます。


「役人でも本当に清廉潔白な者など極一部。多少“旨味”がなければやる気が出ませんわ。事と次第によっては見逃すことも許容しなければ、真の悪を暴き出すことなど叶いません。今回の事件も黒幕がいるのは間違いないのですから」


 先日の事件で発覚したのは役人一人で出来る規模の不正ではありませんでした。逮捕された役人一人と商人二人、男爵一人が蜥蜴の尻尾だったのは間違いありません。証拠はありませんが、納税者側にも役人側にも黒幕が居る筈なのです。


「大事の前の小事か」

「それもございますが、国を治める方法として寛大な処置も必要かと存じます。大事なのは人々がその裁きに納得すること。応変と優柔は別物ですわ」

「……助言に感謝する」


 男としてか王太子としてか、言い負かされることに少しの抵抗を見せたラファエル様に対して、母のように姉のように見守るような視線を向けるレアンドラ様。私には彼女が16歳にはとても見えません。


「わたくしはわたくしの考えを申し上げただけで助言などした覚えはありませんわ。

 それに、人は信じたいモノを信じます。どんなに言葉を並べても、無い裏を勘ぐる者も少なくありませんわ。そうなれば、どんな方法でも従わない者は従わないでしょう。殿下は殿下の信じる道を進んで下さいませ」

「……そなたはいったい何故そん――――」

「女の分際でまた生意気なことを言ってしまいましたわ。出過ぎたまねをして申し訳ございません」


 ラファエル様が何か訊こうとしたのを遮るようにレアンドラ様が謝りました。これは意図的でしょうか?


「そなたは我が婚約者。王妃と成る身だ。謝る程のことはしていない」

「ご慈悲に感謝致しますわ」


 レアンドラ様が微笑み掛けると、ラファエル様の頬が弱冠赤くなった気がします。見惚れましたかラファエル様?



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