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#02.取り巻きその二に収まった私

 乙女ゲーム『真実を暴き復讐を~~』は孤児院で育ったヒロインが魔法学園に入学し、王太子様を中心としたイケメン達との恋を楽しむゲームです。期間は入学から一年で、エリミアやレアンドラ様、王太子様は三年生の設定でした。詰まり、ゲームの開始は二年後ということです。何が起きるかは分かりませんが、その時が来て慌てるのは愚かなことです。ちゃんと考えて準備しておかなければなりません。


 ヒロインが存在するかどうかはまだ確認が取れていませんが、登場人物の設定は概ねゲーム通りです。いえ、素性、外見などの外面的な話で、性格、倫理観などの内面がどうなっているかはまだ殆んど解りません。ゲームのシナリオ通りことが進むかはまだ全くの未知数です。

 故に、今出来る事は記憶にある限りゲームのシナリオを整理しておくことでしょう。とは言うものの、私のゲームの記憶は……。


 攻略対象は、メインヒーローでレアンドラ様の婚約者の王太子様に、宰相の息子の公爵嗣子、レアンドラ様の取り巻きその一の弟の侯爵嗣子、魔法学園の教師の伯爵家の次男、騎士家出身の平民の学園生。以上五人の初期攻略対象と、五人全員攻略した後に登場する隣国の第二王子の計六人です。

 皆負けず劣らずのイケメンですが、皆それぞれ何かしら問題を抱えていて、それを一緒に解決して行くことで惹かれ合い結ばれるというのが大筋の話でした。ただ、エンドは大まかに覚えてますが、個別の細かいエピソードまでは覚えていないんです。実際に起きれば思い出す気もするけど……。


 というのも、私があのゲームをプレイしていたのは、買ったモノは最後までやらないと勿体ないという貧乏性と、流行りモノには乗って置かないとオタク仲間との話に付いて行けなくなるという強迫観念に捕らわれていたからであって、決して好んで遊んでいたわけではないからです。まあ、全クリ前に死んでしまったようで、第二王子とその後に開放された筈の逆ハールートはクリアした記憶がないんですけどね。


 ないモノはないんですから諦めるとして、今大事なのはレアンドラ様がゲームとは全く違う性格だということです。


 ゲームのレアンドラ・グレンデスは、選民意識の固まりで平民であるヒロインが明らかに身分の違う攻略対象者達と仲良くしているのが我慢ならない。そんな悪役令嬢のテンプレです。平民の学園生ルートでさえも、嫌味、嫌がらせ、虐め、流言、攻略対象を誘惑、等を繰り返し、果てはヒロイン殺害計画を立てエンディングでは家と共に没落。こんなキャラクターでした。

 でも、現実のレアンドラ様に選民意識は欠片も見えませんし平民という理由でヒロインを虐げることはないでしょう。そうハッキリ断言出来るのは、私もゲームの設定通りの立ち位置に収まったからです。


 国庫で運営されている魔法学園は、貴族学校みたいな側面がある一方で魔法の才能が認められれば平民も受け入れています。人材を育成する機関としての役割もきちんと果たしているわけです。とは言っても、厳しい身分制が敷かれたブラーツ王国に於いて、貴族と平民が同じ扱いになるわけがありません。「学園内で身分制は適応されない」という規則は一応ありますが、それは建前でしかなく、平民と貴族、特に上位に位置する貴族では、その待遇に大きな差があります。それが最も顕著なのが、寮です。


 広大な敷地を誇る魔法学園では寮の敷地だけでもかなりの広さなので、平民、貴族、上位貴族とで区画が別れている(勿論男女も別れています)上に、上位貴族には一人に一棟が宛がわれるのです。しかも、一棟一棟が日本の田舎の農家の母屋ぐらいある立派な造りなもんですから、シェアハウスに住んでいたことのある私としては広過ぎるぐらいです。

 そして、私にも一棟宛がわれました。兄には「分不相応」とか言われてしまいそうですが、私は間違いなく有力貴族の令嬢ですからね。文句を言われたところでこれはどうしようもありません。


 それは良いとして、今重要なのは私に宛がわれた棟の“位置”です。


 貴族に宛がう寮は爵位の順に並べてしまうのが手っ取り早いのですが、そう簡単にはいきません。ブラーツ王国の貴族には派閥が存在するからです。今現在表立った争いはありませんが、水面下ではかなり熾烈な勢力争い、引き抜き合戦が繰り広げられているようで、私に持ち込まれた縁談もその影響です。そんな状態ですから、余計な対立を産まない為に学園の寮も派閥毎に固められるわけです。

 そして、私の実家トーグ伯爵家が所属する革新派の長は、グレンデス公爵です。グレンデス公爵、詰まりレアンドラ様のお父様です。そうです。私に宛がわれた女子寮第三棟は、レアンドラ様に宛がわれた第一棟の直ぐ近くなのです。


 “お隣さん”となれば、少なからず交流を持つことになりますからね。“挨拶”と銘打ってレアンドラ様に近づき、多少なりとも仲良くなることに成功すると同時に、いつの間にか“取り巻き”と呼ばれるようになっていました。まだ入学してから1ヶ月も経っていないんですけどね……。

 しかも、取り巻きは私一人ではなくて同じ革新派の侯爵令嬢と私の友達の子爵令嬢も一緒なのですが、これがなんと、ゲームの“取り巻き三姉妹”と全く同じメンバーです。運命の力とはかくも恐ろしいモノのようですね。って、ゲームの取り巻きはセリフがあるのが三人なだけでかなり沢山いる設定でしたけど。


 何れにしても、ゲームの設定通りの悪役令嬢の取り巻きその二に収まった私は、レアンドラ様とそれなりに仲良くなって快適に学園生活をスタートさせました。

 ホント、いろんな意味で快適なんです。同世代ばかりって気が楽ですし、一人暮らしって良いですねぇ。まあ使用人は一緒ですが、肩肘張る必要はありませんしね。


 充実した生活を送っている私は今、レアンドラ様に招かれた形で三姉妹と一緒に第一棟のテラスでお茶の最中です。






「レアンドラ様が社交にお出になられなかったのは何故ですの?」


 黄色い髪を一つに結った小柄な少女が薄茶色の瞳に好奇心を浮かべて対面に座る絶世の美女に問いかけます。その華奢な少女の名はアリエル・クロフォード様。クロフォード侯爵家のご令嬢で、レアンドラ様の取り巻きその一です。彼女はゲーム通りの性格のようで、気が強く選民主義的言動が多いです。でも、ゲームではそれを煽っていたレアンドラ様が逆に彼女を嗜めるので、このままゲーム開始を迎えれば三姉妹のイベントがゲーム通り進むことはないでしょう。


「考えてみたらぁ、太子様の婚約者なのに社交に出ないっておかしいですよねぇ。何故全く出席なさらなかったのですかぁ?」


 おっとりとした声でアリエル様に便乗した少女は、リリア・ライトマン様。赤い髪をショートにし茶色いつぶらな瞳が可愛らしい彼女は、レアンドラ様の取り巻きその三です。やや小柄でポッチャリしたその身体も、少し内気な性格も、おっとりした話し方も、ゲームのリリアそのままですが、ライトマン子爵家は中立で革新派ではありません。彼女が取り巻きに収まったのは私の友達だったからです。ゲームではどうだったんでしょうね?


「そんなに気になることかしら?」


 三人の視線がレアンドラ様に集中すると、彼女は目を逸らしたあと少し間を置いてから誤魔化すように聞き返しました。……話したくないのでしょうか?


「もっと早くレアンドラ様に出会っていたら今みたいな素晴らしい時間をもっと長く共有出来たのですわよ? わたくし達の幸せな時を奪ったモノが何なのか、知りたいですわ」

「私も知りたいです。レアンドラ様が社交にお出にならなかった理由」


 追及の手を緩めないアリエル様に私が便乗すると、諦めたように一つ息を吐いたレアンドラは静かに語り始めます。


「12の頃だったわ。重い熱病を患ってしまったわたくしは南方の領地で暫く静養することになったのだけれど、引退したばかりで暇をもて余していたお祖父様がわたくしの看病をして下さったの」


 レアンドラ様のお祖父様レイクッド・グレンデス様は前の宰相です。三年前に職を辞した後は表舞台に姿を見せていないのにも関わらず、中央には未だに前宰相の“シンパ”が少なからず存在します。相当優秀な方だったようですね。


「レイクッド様ご本人がレアンドラ様をですの?」

「ええ。過保護なお祖父様が「一度かかったのだからいつまた患ってもおかしくはない」なんて言ってわたくしを引き留めるモノだから、完治しても直ぐに王都に戻るわけには行かなくなってしまったの。そのまま一年程領地で過ごしていたら、今度はお祖父様がお倒れになって、わたくしが看病をすることになったのよ。お祖父様はお歳だから回復するにも時間が掛かって、気付いた時には学園に入る準備をする時期に来ていたわ」

「大変でしたわね」

「四六時中傍に居なければならない病ではなかったから大変と言う程ではないわ。それに、恩を仇で返すわけにはいかないでしょう?」


 レアンドラ様の静かな語り口に呑まれてしまいましたが、王太子の婚約者という立場を考えれば看病は他人に任せて王都に戻るべきだと思います。もしかするとこれは言い訳なのでしょうか?


「レアンドラ様は本当に淑女の鏡ですわ。王妃と成られてからもお茶に誘って下さいませ」

「アリエル様をお誘いになるなら私も呼んで欲しいです」

「わたしも王宮のお庭でお茶してみたいですぅ」


 三姉妹が続けて我が儘を言うと、僅かに口角を上げたレアンドラ様は意味ありげに三人を見渡したあと謎の言葉を放ちました。


「わたくしの傍に居たいのなら、破滅を覚悟なさい」




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