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#25.マリアの秘密

 妙な形ではありますが、マリアさんの失踪事件は一応の収束を見ました。学園は元の平穏を取り戻しています。


 とは全く言えません。


 事件発生から約2ヶ月、マリアさん自身は相変わらずラファエル様達の間を駆けずり回る尻の……フットワークの軽さを見せていますが、攻略対象者同士が火花を散らす場面が頻発しています。とは言え彼らはこの国の中枢を担う為に教育を受けた人達ですから、罵り合ったり下らない嫌がらせをしたりすることはありません。にらみ合い、皮肉めいた事を言い合う程度です。


 ただ、彼らの信者達までそうかと言えば全くそんなことはなく、ファンクラブ同士の対立は日に日に激化していて、最近では問題の起きない日の方が少なくなって来ました。やれ、教科書が隠されたとか、水を掛けられたとか、机に落書きされたとか、下らない嫌がらせ、虐めなのですが、そんな話を毎日聞くとなると……。

 誰かしらのファンクラブ会員が一人で歩くと大変だということで、数人から十人以上で纏まって廊下を歩く女の子の集団なんかは日常の光景に成りつつあります。それから、他のファンクラブのせいにしてマリアさんに地味な嫌がらせをしたり……。鬱憤が貯まっているのは解りますが、やることが幼稚過ぎませんか?


 まあ私はレアンドラ様の保護下にあるので余り関係ありませんけど。


 と言えれば良いのですが、残念ながらそうは言えません。

 その原因は二つあって、まずはレアンドラ様の信者、取り巻きに成れなかった取り巻き達と、ラファエル様のファンクラブ会員が対立してしまったことです。対立した理由は単純で、「ラファエル様が裏切った」というレアンドラ様信者の言い掛かりです。まあこれはレアンドラ様がその器量の大きさを見せただけでほぼ収まりましたから、問題なのはもう一つです。


 レアンドラ様はこの下らない争いに干渉しないことを決めました。動いてしまうと影響が大きいのでそれは仕方がないことなのですが、同時に争いを仲介出来る人がいない状況が生まれてしまったわけです。結果、誰がファンクラブ同士の争いを仲介することになったか、ここまで言ったら想像が着きますよね。

 学年。中立の立場。誰のファンでもないことがはっきりしている。後ろ楯がある。様々な条件が重なって、どうでも良いような諍いの仲介をすることになったのは、私です。

 レオンハルトは関係ないですからね。仕方がないと言えば仕方がないことですが、面倒なことに変わりはありません。そしてなにより、


 多過ぎだよ!


 何せ数が多くて処理が追い付きません。お願いだから、幼稚な嫌がらせが起こる度に私を呼ぶのは止めて下さい。法律上皆成人しているんですからね!


 とは言え収穫が無かったわけではありません。


 ファンクラブ会員の中には純粋な子も沢山居ました。そういう子と信頼関係を築けたのは、交流関係の狭い私には後々大きな財産となるかもしれません。それから――――






 此処は学園の片隅の東屋。季節がら寒くなって来たのでこの東屋を使う人は余り居ません。庭に向かって横に並んだ椅子に腰掛け、隣にはレオンハルトが座っています。

 他に人の居ない東屋に横並びでゆったりした椅子に腰掛けお喋りしている男女。要するに、デートの最中です。


「本気じゃない?」

「うん。ラファエル様にはファンクラブの子も近づけないから分からないけど、ハイムルト様もアロイス様もオズワルド先生も愛していないんじゃないかって

「あれだけ騒ぎを起こしておいて?」

「そう感じてる子が居たってだけだよ。一人じゃなくて結構いっぱい居たけど」


 恐らく一割から三割程度そう感じている子が居たと思います。全員と話したわけではないので只の推測ですが。


「おかしいと思わない? 行政府も立法議会も相当ピリピリしてるらしい。マジで一触即発って感じで。他にも理由は有るだろうけど、直接の原因となったのはマリアの失踪事件だ。あんなの無視出来れば出来た筈。“平民”の小娘一人に大人達がこんな一喜一憂すると思う?」

「……しないよね」

「しないだろうな」


 海千山千の貴族達がこれだけの騒ぎをするということはそれなりに理由が在るのだと思います。


「……マリアさん捜索にはグレンデス家まで動いてた」

「グレンデスは動きが遅かったしプライドが高くて負けず嫌いなだけとも思えるから微妙だけど、グレイナーもクロフォードも本気で動いていた」

「アリエル様がアロイス様を止めなくなった」

「ラファエル様は本気でマリアを後宮に入れる気でいる。正妃にする積もりかもしれない」


 これだけ揃っているとしたら、答えは出ています。


「「皆知ってる」」


 ゲームの知識という先入観が私達の判断を鈍らせていたと思いますが、ここまで色々な条件が揃っていて気付かないのはお粗末でした。


「いつからだろう? 攻略の早さから考えると最初から? でも事実マルチアは貴族の間にも知られていない。なんで……」

「マリアさんが自分で話したってことも考えられるよ」

「あり得るけど、それって結局自分で自分を利用してくれって言ってるようなもんじゃん。それに、何かしら証拠がないと戯れ言にしかならない」


 ゲームではラファエルルートでしか出て来ない真実ですからね。ん?


「逆ハーでも明らかになるの?」

「なる。逆ハーは結局ラファエルエンドの亜種みたいなもんだったから、ラストのイベントとエンディング以外は似たような感じだよ」


 そう考えると、アレをバラしたのはもしかして、


「レアンドラ様?」

「レアンドラ? やっぱりレアンドラにも前世の記憶があるのか?」


 口が滑った!


「あ……その……前世の記憶はないけど、ゲームの知識はある」

「知識だけ? どういう状況だよそれ」

「えーとね。だから、レアンドラ様は――――」




 ・・・




「レアンドラ様が逆ハーエンドを迎える為にハイムルト様達にバラしたのかな?」

「そりゃその可能性もあるけど、そもそも逆ハーエンドでレアンドラが死なないってのは間違いだし……全然解んねぇ。何で逆ハー?」

「さっきも言ったけど、私もそれは分からない。分かってるのはレアンドラ様が本気で逆ハーエンドを望んでるってこと」


 何も分からず、何も出来ずにもう12月です。25日にはルートが決まるイベントがありますし、もう止めることは……。


「自ら破滅を選ぶっておかしいだろ」

「私だってレアンドラ様には幸せになって貰いたい。でもこれはレアンドラ様が望んでいることだもん」

「望んでるって……理由が分からないのに止めないの? 友達なんだろ?」

「じゃあどうしろって言うの? レアンドラ様は本気なんだよ。ハッキリ言ったんだよ私に。死なないって。あれが嘘だったって言うの?」


 言ったもん。心配するなって。死なないって。


「それはさ、エリミアが心配しないように――――」

「仮に嘘だとしても! レアンドラ様は本気で望んで、本気で全て受け入れる積もりかもしれないんだよ。そんなレアンドラ様に何を言えば良いの? 逆ハーエンドは死ぬからダメって言うの? 此処は現実なんだよ。ゲームじゃないんだよ。ゲームじゃないのに、本気で、真剣に、必死に築いて来たモノを勝手に壊して良いの?」


 私にはレアンドラ様の望みは分からない。何故望んでるいるかも分からない。でも分かる。レアンドラ様には信念がある。誰にも揺るがせない強い想いを持って進んでる。だから中途半端な気持ちで止めてなんて言えない。


「……ごめん。俺が浅はかだった。だから……」

「……わたし、こそ、ご、めん」

「泣くな。エリミアに泣かれたら俺はどうすれば良いか分からなくなる」


 泣くな? 私……泣いてる!?


 え? 何で立ったの? 何処に行っちゃうのレオンハルト。


「泣かないで」


 後ろ抱きぃ!!!! 後ろ抱きにされて耳元で囁かれてる!!!!!!


「あれ? もう泣き止んだ」


 あ……もう終わり?


 想像以上だったレオンハルトのイケメンスキルに驚いて、私の涙は止まってしまいました。なんか……残念。


「……名前。呼び捨てで良い?」


 自分の椅子に戻ったレオンハルトは、優しい声で私に問いかけました。


「名前?」

「エリミア。って呼んで良い?」


 うわぁぁぁぁぁぁ。叫びたいほど嬉しい。レアンドラ様にもアリエル様にも毎日呼ばれてるのに何で? イケメンだから? 彼氏だから? どっち?


「うん。良いよ」

「じゃあ俺のことも呼び捨てね」

「え? うん」


 呼んでいる気がするけど……。


「呼んでよ」

「……レオン、ハルト」

「ちゃんと」


 ちゃんと? なんか恥ずかしいなぁ。


「レオンハルト」

「何だエリミア。俺と結婚する気になったか?」


 おどけてるし。


「ううん」

「違うんかい!」


 ツッコミって……。


「……ありがとう」

「……どう致しまして」


 その後お互い照れ臭くなって少しの間顔を合わせられなかったのはお約束通りでした。






 そろそろ寮に戻ろう。なんて空気になった頃ハロルド様が現れました。「別れの挨拶」を理由に東屋に来たハロルド様が何故かレオンハルトと逆隣の椅子に腰掛けたものですから雰囲気が悪くて仕方ありません。

 いえ、雰囲気が悪いのはレオンハルトがハロルド様を睨んでいるからではありません。ハロルド様がこんな話を始めたからです。


「ブラーツの王族に良く見られる青い瞳。マルチア様と同じ純白の髪。王族並みに膨大な魔力。とても平民には真似できない美貌。そして、マルチア様が失踪したのは17年前。これだけで疑う理由には充分だと思うけどな」

「……何故ハロルド様がそんなことをお調べに?」

「僕の騎士もマリア捜索に協力したからね。その時彼らが噂を耳にしてねぇ」


 他は兎も角、マルチア様のことなんて調べても簡単には出て来ません。だからこそ私達はレアンドラ様に疑いの目を向けたわけですし……。この方が嘘を吐かない人だとは到底思えませんし、誰に聞いたのか訊き出すだけ時間の無駄でしょうか?


「……そのマルチアとかいう側室が本当に存在したのですか? 純白の髪を持つ側室が居たなど聞いたことがありませんよ」


 レオンハルトは惚けることにしたようですね。


「ふーん。知らない振りをするんだ」

「知らないことを知らないと言っただけですが?」

「まあ、良いや。君達の反応は今一だけど、他の人は随分と分かり易かったからねぇ。そう君の友達、アリエル嬢なんか「なんでそれを」なんて溢してたからね。間違いなく――――」


 アリエル様……貴族令嬢として感情が表に出易いのは問題ですよ。まあそうじゃないとアリエル様らしくないですけど。


「マリアは先王の落胤だ」




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