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#24.マリア発見。そして、

 時刻は正子近く。辺りは暗闇に満ちている。正門付近は魔法の証明によって照らされているが、その独特な青い光と魔法光特有の揺らぎは、彼の不安を駆り立てることはあっても抑えてはくれない。

 学園の外まで迎えに出て来た王太子は大きく一つ息を吐いた。周りにいる十数人の男達はそれが拭い切れない憂慮を誤魔化すためだと気付いているが、口に出すようなことはしなかった。大半は職務上それが許されないからであるが、一部は自分も同じ想いを抱えているからだ。


 やがて見えて来た一台の馬車とそれを囲む十数騎の騎乗した騎士。毅然としたその進行は深夜であることを考えれば異常に速く、道に何かあれば事故が起きても不思議はない。

 しかし、その場に居る誰一人としてそれを驚いてはいなかった。寧ろ、当然だと言わんばかりの男が四人。そのうちの一人がこの国の王太子であることを嘆いている者は少なくない。この国の未来を考えれば無理からぬことである。


 だが、本当の事を言えば嘆く必要はない。何故なら彼らが待っているのは――――


 馬車が校門の前に着くと、騎士は全員下乗し隊長格の男が太子の前で跪いた。


「お待たせ致しましたラファエル殿下。マリア嬢をお連れしました」

「ご苦労だった。そなた達には後で褒美を使わす。グレンデス公にも後日改めて礼をさせて貰おう」

「ありがたきお言葉にございます」


 隊長格の男が頭を下げその後ろで騎士達全員が最敬礼をとったが、ラファエルにはそのことに意識を向けている時間が無かった。何故なら、唯一心を開ける大事な人が目の前で姿を現したからだ。


「ラファエル様!」


 喜色に満ちた顔と声。足取りも軽い純白の髪の少女は、馬車から降りた勢いのまま王太子の胸に飛び込んだ。それを悔しげ見る三人の男を無視し、彼は彼女の存在を確かめるようにきつく抱き締める。


「マリア。無事で良かった」

「凄く怖かったです。でも必ず助けてくれると信じていました」

「遅くなって済まない」

「大丈夫です。元気ですから。あ……見張りが若い男性だったから何かされるんじゃないかって不安で眠れなかったのはありますけど」


 少女の言葉に太子は動揺した。つい先程までは「生きていてくれさえすれば良い」そう思っていた彼だが、彼女が失なったかもしれないモノを想い、言いようもない程の強い不安に駆られたのだ。そして同時に一つの確信を得た。


 ――マリアが欲しい――


 彼女に惹かれたのは命懸けで自分を守った彼女が信頼出来ると思ったからだ。自分が欲しかったのは信頼出来る人間。マリアではない。親しくしながらもそう線引きしていた彼は、この瞬間それが間違いだと気付いた。


 ――マリアでなくてはならない――


 彼の婚約者のレアンドラ・グレンデスは美しく賢い。人望にも篤く気品に満ちている。王后として迎えるに彼女以上の人材は存在しない。しかしその判断には感情がない。優秀な王后は必要だ。しかし、レアンドラが必要なわけではない。


 ――私にはマリアが必要だ――


「済まなかった。二度とそんな想いはさせない。私が君を守る。君を傷付けるモノは私が全て片付ける」


 想いを告げた言葉ではあるが、その真意を正しく理解した者は此所には居なかった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 昨日の夕暮れ時、舞踏会から10日目の夕刻、捜索打ち切り直前にマリアさんは発見されました。日が落ちてからも移送を強行し昨晩のうちに学園に帰って来たマリアさんは、心身ともに健康な状態で明日から授業に出るそうです。

 無事で何よりでした。とは言えないのが私の正直な感情ですが、失踪騒ぎは一応の収束を見るでしょう。


 ただ、何故こんなことが起こったのかは明らかにする必要がありますから、容疑が掛かった人が会議室に集められました。まあアリエル様他容疑が掛かってない方も沢山いらっしゃいましたけど。


 法廷みたいな作りになっているこの会議室には今、中央に演説台が置かれ、ラファエル様が一段高い上座、私も含めて革新派がラファエル様から見て左手、保守派が右手、その他の見物人が下座にそれぞれ腰掛けています。


「――――私がマリア嬢から聴取したことは以上です」


 ラファエル様に礼をして、マリアさんの証言を報告した王国騎士さんは部屋の中央の演説台から見物人席近くの自分の席に戻りました。


「結局マリアからは何も得られなかったってこと?」

「そういうことだ」


  マリアさんの証言は要約すると以下の通りです。


 ・レアンドラ様と話したあとお手洗いに行って出て来た時に何者かに気絶させられ、気付いた時には手足を拘束され暗い場所に監禁されていた。

 ・舞踏会の四,五日後に発見された座敷牢に移動した。

 ・移動前は一日一食程度だったけど、移動後は要求すればなんでも出て来た。

 ・犯人は複数。黒い布をかぶっていたため顔は一切見ていない。知っている声の人物は居なかった。

 ・移動はかなりの距離。


 四,五日後というのは王都のみだった捜索範囲が拡げられたあとということです。推測の域を出ませんが、最初に拘束されていたのは学園の近くで、警戒が薄くなってから運び出したということでしょう。それから、計画的な犯行である可能性が高いことも分かります。

 でも分かるのはそれだけで、肝心の犯人もその動機も全く判っていないのです。


「捕まっていた場所にもマリアの証言にも手掛かり無しか。グレンデス家の騎士達は本当に何も見ていないのか?」

「廃屋に人が居た形跡はなく、地下の座敷牢にはマリア嬢一人しか居なかった。そう聴いております」

「怪しいモノだがな。自作自演じゃないのか?」


 ハイムルト様は相変わらずレアンドラ様を疑っているようですね。

 グレンデス公爵騎士団の方は「深夜、不審な船が浜から沖に出て行った」という全く関係のなさそうな情報から実際にマリアさんを見付け出したそうです。これだけ聞くと疑いたくなる気持ちは理解出来ますが、


「マリアさんが死んだのなら話は解りますが、わたくしや父にはこんなことをする理由がありませんわ。拉致し、拘束し、移送し、救出までしたそのわけをご説明下さいませ」


 動機がすっぽり抜け落ちています。レアンドラ様やグレンデス家の犯行という推理には一切説得力がありません。「攻略対象の誰かがマリアさんを独占しようとした」これが現状最も説得力のある犯行の経緯だと思います。


「そもそも見付かったのはグレイナー公爵領だよ。グレンデスを疑う前に自分の容疑を晴らすべきじゃないかな?」

「関所のない細い道や海岸線全てが監視出来るわけがない。誰かが濡れ衣を着せようとしているだけだろう?」


 それがグレンデスの動機だと言いたいのですか? こんなやり方で公爵家を貶めるなんて絶対無理だと思いますけど……。


「領内の警備、警らをしているのはグレイナーの騎士よ。一番犯行が容易なのは誰かしら?」

「全く根拠のない推論だな。ではどうやって私がマリアを拉致監禁したというのだ? 説明してみるがいい」

「その言葉、そっくりそのままお返し致しますわ。グレンデスにだってそれは同じだわ」


 アリエル様。ハイムルト様相手となると貴女は直ぐにむきになりますね。


「このままここで言い争っていても不毛じゃないかなぁラファエル殿下?」


 見物人席の方から声がして振り向くと、そこに居たのは銀髪の長身男性、ハロルド様でした。


「……したかったのは報告だ。議論じゃない。現状、犯人もその目的も全く分かっていないという事実を周知したかった。それと――――」


 報告? こんな大勢に?


「マリアは王家で保護することに決めた。今後近衛を警護に付け、寮も一棟用意する」


 ラファエル様は何を……。


「近衛!?」

「上位貴族待遇ってこと?」

「それ以上だろ」

「近衛を護衛に付けるなんて聞いたことないぞ」


 見物人席を中心に会議室は騒然としてしまいました。

 当たり前です。こんな状況でラファエル様が冗談を言うとは誰も思いませんし、閣僚にすら近衛が護衛に付くことはありません。要するに、


「ラファエル様はマリアさんを後宮に迎えるお積もりなのですね?」

「……そうだ」


 本人に直接訊けるところがレアンドラ様の強さですね。


「申し訳ありませんが殿下。それは承服出来兼ねます」


 反論したのはオズワルド先生です。

 意外です。表向きマリアさんを奪い合ってはいましたが、一番冷めた空気を宿していたがオズワルド先生だったのです。なのに……。


「……王が臣下を召し上げることに貴族の承認など必要ない筈だが?」

「左様でございます。“王”が臣下を召し上げるのに貴族の承認は必要ありません」

「王太子には必要だと?」


 ラファエル様がオズワルド先生に向けた威圧感が凄いです。関係ない上に横顔しか見えないのに怖いぐらいです。


「今まで誰も明言はしておりませんが、ラファエル様も容疑者の一人です。マリアの保護をラファエル様に一任することは承服出来ません」


 動機のある人の一人ではありますが、夏期休暇以降マリアさんはラファエル様を重視していて明らかに他の三人より優位な状況がありました。現段階では拉致監禁して独占する理由が余りありません。


「……ではどうしろと? 今まで通りというわけにはいかないだろう?」

「我がキッシュ家とグレイナー家、クロフォード家それから王家。四家持ち回りで護衛を出したら如何でしょう?」


 幾らなんでも大袈裟過ぎませんか?


 流石にそれはないだろう。と思ったオズワルド先生の提案は採用され、マリアさんには毎日四家のうちの二家から一人づつ、日替わりで護衛が付くことになりました。本人達は兎も角、それぞれの実家がそれを了承するにはそれなりに理由がある筈です。


 もしかしてマリアの――――




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