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#01.取り巻きその二に転生した私

 エリミア・トーグ


 私の名前です。二大派閥の一つ革新派に属するトーグ家は、三大国の一つに数えられるブラーツ王国に於いて20以内には入る有力な貴族の一つで、爵位は伯爵。伯爵家は大貴族と呼ばれる家から没落寸前の貧乏貴族まで様々在りますが、トーグ家は上位貴族の部類で派閥にも結構な影響力を持った大きな家です。


 そんなトーグ伯爵家の令嬢である私の前世の名は工藤絵美里。そうです。ラノベで流行っていた?異世界転生をしたわけです。

 ただ、神様が出て来て「転生させてあげる」とかは言われていません。三歳ぐらい迄は何だか良く解らない状態で過ごし、前世の記憶であることがきちんと認識出来たのは五歳ぐらいだったと思います。

 そして残念なことに、その間で奇行を繰り返してしまった私は兄姉から冷めた視線を向けられるようになってしまいました。いえ、それはあまり関係ないかもしれませんね。


 兄姉達が私を無視する一番の理由は、二男四女の兄妹で唯一私だけが腹違いだからです。違いますよ。母は後妻であり父が浮気者だったわけではありません。でも腹違いというだけで兄姉達には家族と思えないようです。まあ、一番近い姉でも11歳離れていますし、色々複雑なのは仕方のないことだと思います。私からしても、完全に無視されているので家族というより只の同居人ですし……。


 でも哀しいことに、奇行を繰り返し兄姉に無視されていた私に対しても沢山の愛情を注いでくれた父と母ですが、二人はもうこの世にいません。

 父は私が四歳の時、隣国レイダム王国との小競り合いで戦死。母は三年前病に倒れました。だから今、私のことを気にかけてくれる血縁者は居ません。特に長兄の現トーグ伯爵は酷く、「魔法学園に行かずに結婚しろ」なんて命令されたのは2ヶ月程前のことでした。その時は、次兄が貴族の常識として「学園に通わせないのは家の恥」と言ったので回避出来ましたが、仲の良い一部の使用人を除きトーグ伯爵家で私の事は居ないモノとして扱われているのです。


 なんか凄く悲惨な話をしているみたいですが、そうでもありません。流石に母に死なれた時はかなり落ち込みましたが、兄達も私を虐げているわけでもありませんし、直接私に関わる使用人は皆優しくしてくれるので多少寂しくはありますが不幸という程ではありません。まあ肩身が狭いのは間違いないですけど……。と言っても、あっちは大人でこっちは子供です。広い広い伯爵屋敷でばったり遭遇して気まずいのはお互い様なんですよね。子供相手に皮肉を言ったりあからさまに無視したりは大人げないですし……。って、ブラーツ王国は15歳で成人ですから私ももう大人ですけど。


 何れにしても、そんな生活は今日までです。


 と言うのも、私は明日魔法学園の寮に入るからです。

 魔法学園への就学はブラーツ王国の貴族の義務です。厳密には法律上爵位を継げないだけなので義務とは言えませんが、“男女問わず”学園に入ることは慣例になっているのです。男性の場合は国の役職が欲しければ学園の卒業が必要ですから就職の為に義務化されていると言えますが、かなり特殊なケース以外爵位を継ぐことも国の役職に就くこともない女性まで学園に入るのは、学園が婚活の場になっているからです。

 貴族ですから入学するまでに婚約が成立している人も珍しくはありませんが、若い男女が一同に介する場に恋が生まれない筈がありません。特に貴族の女性は二十歳までに婚約すらしていないとなかなか結婚が難しくなってしまいますから、皆パートナー探しに躍起になるのです。

 そして、在学期間の三年で学園でも社交の場でも相手が見つけられなかった貴族の女性は、ほぼ百パーセントお見合い結婚か政略結婚をすることになります。


 だから非常に不本意ですが、私もその争いに参加せざるを得ません。三年で結婚相手を見つけないと兄に政略の道具として使われてしまうでしょう。十代で後妻に入るなんてことも充分考えられますからね。いえ、今までそうなっていなかったのが寧ろ幸運かもしれませんが……。

 母が美人だったお陰で今世の私は美人の部類に入りますし、一応伯爵令嬢なのでなんとかなる気もしますが……。彼氏がいたことすら無かったオタク前世を持つ身としては気が重いです。


 なんかまた悲観に暮れていますが、学園生活自体はとても楽しみです。学校で学ぶのが今世で初めてですし、数少ない社交経験で出来た友達も居ますからね。そして何より、学園に行けば攻略対象者達が――――


 ああ! 一番大事な報告を忘れていました!


 私が転生したこの世界、実は乙女ゲームの世界です。


 転生自体が電波なのにどうしようもないなコイツ。とか思いました? はい。私も思います。でも事実なのです。

 そしてお察しの通り?私も登場人物の一人です。私こと、エリミア・トーグは乙女ゲーム『真実を暴き復讐を~~』の主人公、ヒロインです。そうです。イケメンを選り取り見取りです。


 はい。すみません。嘘八百です。


 後妻の子で疎まれていようが、伯爵令嬢がヒロインではドラマ性がありません。ヒロインは孤児院で育った平民の女の子です。 魔法の才能を見出だされ学園に入ったヒロインは、様々な苦難に遇いながらも成長し、やがて素敵な男性と――――。という、まあベタなラブストーリーを軸にした乙女ゲームです。


 そんな乙女ゲームでの私の役割は、悪役令嬢……の取り巻きです。しかもその二。その一ならまだ攻略対象の姉という役割が有るのですが、エリミアには取り巻き以上の役割はありません。セリフもそこそこ多いのに、各エンディングでの存在感は皆無だったと記憶しています。まあ正直ちゃんと覚えてはいません。だって脇役だし。


 それはそうと、一つ重大な事実があります。それは私のボスである筈の悪役令嬢のことなのですが、公爵令嬢レアンドラ・グレンデスが何故か社交界に全く姿を表さないのです。

 貴族の常識として覚えさせられた上位貴族の名簿には名前が有りました。なので本人が存在しないなんてことはないと思いますが、社交の場に出て来ないことで有名な方なのです。ゲームのシナリオ通りレアンドラは王太子の婚約者ですし、私の把握している限り他の登場人物もゲームとそっくりな状況にあります。ですからこの事実はかなり不自然です。


 レアンドラも転生者でしょうか?


 レアンドラにはかなり悲惨なエンドがありますし、そう考えるのが自然だと思います。でも、次兄が言う通り貴族で魔法学園に通わないのは家も含めて相当外聞が悪いです。学園入学を避けられるとは思えません。あんなエンドは関係のない私も嫌ですし、避けられるなら避けたいと思うのは当たり前ですが……。


 とまあ、色々と不安要素はありますが、前世の記憶のお陰で小さい頃から地道にレベル上げ?に励んだ私は、実のところ結構なハイスペックです。そんじょそこらの令嬢達とは格が違うのです。いえ、容姿は限界がありますから知力体力と魔法の話です。一応試験もありますし、極稀ですが女性の官僚もいないことはないですからね。


 ということで、私は明日、魔法学園に入ります。まあ、明日は入寮するだけですが……。






 数日後。私は今魔法学園のホールに来ています。千人以上はゆったりと座れるこのホールで今日行われるのは勿論入学式。新たな門出の儀式です。


 入学式後直ぐに行われる新入生歓迎の舞踏会の為に薄桃色のドレスを着た私が、数少ない友人とおしゃべりしたり、ぞろぞろと集まって来る生徒達を何の気なしに眺めたりしていると、後方の出入り口付近が俄に騒がしくなりました。つい先程、王太子様が来た時にも起きた現象ですが、今回の方がざわめきが大きい気がします。

 座っていた椅子から少し身を乗り出して後ろを向くと、視界に入った沢山の生徒全員が皆同じ方向を見ていました。そして、数百の視線を集めていたのは――――


 女神です。女神が居ます。


 モーゼの如く道を譲られ優雅に歩くその姿は正に女神です。ああ。あんな美しいモノが現実に存在するんですね。


「レアンドラ様。綺麗な方ねぇ」


 隣の友人の囁きで私は半分飛ばしていた意識を取り戻しました。そうです。あの方は、悪役令嬢レアンドラ・グレンデス様なのです。私が入寮した二日後にレアンドラ様も入寮したという話は聞いていましたが、本人を実際に見たのは今日が初めてです。本当に、本当に綺麗な人です。


 深紅の髪を縦ロールにし淡い水色の清楚なドレスを纏った長身のその女性は、慣れていない筈のこの空間を我が物顔で堂々と、それでいて凛々しく優雅に歩いて来ました。私の直ぐ近くまで。そして、立ったまま呆然と目の前の人物を見ていた私と目を合わせた彼女は――――


「ごきげんよう」


 え!?


「隣、良いかしら?」


 話し掛けられた!?


「え? あ、はい」


 慌てて返事をした私は、急いでハンカチを取り出し空いていた隣の椅子を拭きます。さながら執事のように。


「どうぞ」


 突然椅子を拭いたあと、腰を下ろす女性をエスコートする男性の如く手を差しだした私。レアンドラ様はその少し吊り上がった猫目でじっと私を見詰めて来ました。美人です。ああ、美人です。美人です。つい一句詠んでしまうぐらいの美人です。


「ありがとう」


 私に礼を言ったレアンドラ様は、差し出された手を取りエスコートに従って椅子に腰掛けました。そして彼女は私の顔を見上げ、


「レアンドラ・グレンデスよ」


 笑ったぁアアアア! 女神が微笑んだぁアアアア!


「レ、エリミア・ツォ、トーグです。エリミアとお呼び下さい。よ、宜しくお願いします」

「ふふ」


 カミカミながらなんとか名を名乗った私がおかしかったのか、右手で口を隠して小さく笑ったレアンドラ様。そのちょっとした仕草も優雅で美しいです。


「私のこともレアンドラで良いわ。宜しくねエリミア」

「は、はい。宜しくお願い致します」


 一生付いて行きます御姉様!




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