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#14.襲撃事件

 休日。初夏の昼下がり。ブラーツ王国王立魔法学園。最高学年の王太子は絶世の美女の婚約者と学園の庭で散歩を楽しんでいた。


 12年前に決まった婚約ではあるが、彼女と交流を図るようになったのは学園に入学して以降、詰まりここ二年だけである。レアンドラ・グレンデスは確かに、頭脳明晰、容姿端麗、冷静沈着、国母と成るに相応しい人材である。それは疑いようもない事実ではあるが、未だラファエルにとって婚約者以上の何かにはなり得ていない。その最大の理由は、レアンドラの心の奥底にある闇を無意識に感じ取っているが故である。

 触れてはいけない巨大な闇を感じ取れたのは、彼の野性的な感なのか、それとも彼女の意図なのか、その答えは――――。


 二人が良く散歩に用いるバラ園は一年で一番の見頃を迎え、本来なら学園内デートを楽しむカップルで賑わう筈だが、そこは王太子。警備上の理由もあり今日は二人きりである。

 とは言うものの、近衛騎士が見切れているのは当然のこと、バラ園の入り口は“見物客”で溢れている。いいや、バラの見学では決してない。見目麗しい二人の仲睦まじい姿をその目に納めようとする乙女の集団である。中には物好きな男がいないこともないが、黄色い声が響き様々な香りが漂う妙に色めかしい場所となっているのが現状だ。

 そんな彼女達を入り口で押し留めるのは王国騎士の役目であるが、彼らの仕事は学園全体の治安維持であって王太子一人に多くの人数を割くことは出来ない。故に、このあと起きた事態に於いて彼らを責めるのは酷というモノである。


 王太子とその婚約者が入り口の手前まで戻って来ると、王国騎士達は二人をバラ園から出す為入り口に集った見物客達に下がるように促した。若干の抵抗はあるものの、彼女らは素直に従い二人の通る道は直ぐに形成される。そして、


「貴様何を!」


 二人の位置を確認しようと見物客から目を離した一人の王国騎士。その一瞬の隙をつき、剣を奪い王太子へと突進する学園の一男子生徒。その動きは速く、既に王国騎士達には止める術が無い。


「くそっ! 待て! 殿下!」


 少し離れた位置から太子の前に回り込もうと動き出す近衛騎士。婚約者を庇うように一歩前に出ながら剣を抜く王太子。太子の心臓を一射ししようと突進する襲撃者。次の瞬間起きたのは――――


「待て!」

「止めろ!」

「何をして――――」

「きゃあぁーー!」


 予め分かっていたかのように襲撃者の前に飛び出した純白の髪の少女。その華奢な肩が、鋭い刺突によって貫かれた。


「お前。何を」

「貴様! 何者だ!」


 突然の目の前に現れた少女に邪魔され動きを止めてしまった襲撃者は近衛騎士によって即座に拘束され、肩を貫かれその場で崩れ落ちかけた少女は駆け寄った太子によって抱き止められ静かに横たえられる。


「ラ、ラファ、エルさ、ま。だい、じょうぶ、です、か?」

「喋って良い傷ではない。黙っていろ」


 大きな血管が傷ついたのか、少女の肩からは大量の出血が見られる。一刻の猶予も無いことは明らかだ。


「治療魔法師を呼べ! タンカもだ! 早くしろ!」

「その出血で動かすのは危険ですわ殿下。魔封じの陣を解きましょう」


 太子が矢継ぎ早に命令を下すと、婚約者は冷静に助言をした。魔封じの陣の下で効果がある魔法は、陣に注がれた魔力を上回る魔法のみ。学園の教師30人が全魔力を注ぎ込んだ魔封じの陣を破れる治療魔法など存在しないと言って良い。陣の影響のない治療室等に移動するか、陣を解くしかないのである。


「校長を呼べ! 魔封じの陣を解く!」




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 襲撃事件から三日、放課後。


「入れ替わりですか?」


 どうやってそんなことを?


「同級生も気付かなかったということですかぁ?」

「友人とも殆ど話さなくなって様子がおかしいとは思っていたそうよ。でもそれは事件前の二週間程度。顔も背格好もそっくりだったものだから、別人だとは思わなかったようね」


 他人と入れ替わって暗殺を企むなんて……漫画みたいな話ですね。


「背格好は兎も角、顔の似ている暗殺者を仕立てるなんて難しいと思いますけど……」


 私の知る限りこの世界に幻術や変化の類いの魔法は存在しませんし、ル○ン三世みたいな変装が出来るとも思えません。都合良く学園関係者に似た暗殺者なんて居るとも思えませんし……。偶然が偶然を呼んだということでしょうか? まあ全くないとは言えませんが……。


「肉の内側に金属を入れて鼻を高くして、骨を削って顎の形を変えていたそうよ」

「骨を削って?」


 麻酔がないのに整形ですか? ……痛そうだから詳しいやり方は想像しないことにします。


「入れ替わった生徒はどこへ行ってしまったのかしら?」


 ナイスですアリエル様。整形の話は続けたくありません。


「分かっていないわ。さっきも言った通り犯人は自害してしまったから」

「それがおかしいですよね。牢で自害なんて」

「そうね。「壁に頭を強打していた」と聞いたけれど、自分で自分の頭を叩きつけて死ぬなんて簡単なことではないわ」


 牢屋には当然魔封じの陣が敷かれていますし、凶器を持ち込むなど不可能です。仮に多少鋭いモノを拵えて自殺を図ったとしても、見張りに見つかれば治療されてしまいます。死ぬのは簡単ではありません。死ぬ程壁に頭を叩きつければ大きな音がした筈ですし、自殺を手引きした人間が居る可能性はかなり高いと思われます。と言うか、


「黒幕は内部に居るのでしょうか?」

「普通に考えたらそうではなくて?」


 ですよねぇ。嫌だなぁ。戦争は勿論嫌ですが、内戦は最悪です。


「でもぉ。ラファエル様が死んでも代わりがいませんよぉ。ブラーツが混乱するだけで国内の勢力には動機がないんじゃありせんかぁ?」


 そう言えばそうですね。ブラーツ王国の公爵の血筋は王位を継げませんから、現状王位継承権を持っているのはラファエル様だけです。現太子が死んでも新たな太子が擁立出来なければ国内が混乱するだけなのですから、国内勢力がラファエル様暗殺を企む動機は余りありません。そう考えると当然、


「レイダムかヘムダーズなの?」

「外国勢力がブラーツの王城内で暗躍するのは難しいのではなくて?」

「難しいかもしれませんけど、レイダムの第二王子派なんかはブラーツに混乱して欲しいんじゃ……」


 北の大陸の西半分を領有するレイダム王国は、ブラーツ以上に派閥対立が激しく、和平路線の第一王子派と対立維持路線の第二王子派とに二分しているそうです。

 対してブラーツ王国は、ラルフェルト陛下自身は一応中立の体裁を取っていますが、実際のところ革新派の政策、和平路線を歩んでいます。

 故に、間接的にですが第一王子派を支援する形になっているわけです。

 しかも、第二王子派はレイダム王国の東側を領有している貴族が多く、ブラーツが完全に第一王子派に付いてしまうとなれば、敵対勢力に挟まれる形になるのです。これは、第二王子派としてなんとしても回避しなければならない事態です。

 例えブラーツを混乱に貶めてでも。


「それは否定出来ないですけどぉ、第二王子派はブラーツ国内に影響力がある程大きくないですよぉ。王子自身も好色な不器量者と言われてますしぃ」

「そう言えば、その第二王子が秋に視察に来るって話がありましたわね」

「視察というより短期の留学よ。授業も受けるとラファエル様が仰っていたわ」


 隠し攻略キャラの他国の第二王子。通称、色魔ハロルド。息を吐くように女を口説くゲス男。やっぱり来ちゃうんですね。ってまあ攻略したことがないんで、ゲームですらどんなキャラか詳しくは知らないんですけどね。


「事件の影響で中止になったりしませんか?」


 余り会いたくない人種です。


「中止にはならないでしょうね。あの娘が飛び出さなくとも暗殺は防げたでしょうし」

「え? そうなんですか?」

「そうよ。殿下は剣を抜いていたし、近衛も回り込めていた。マリアが止めなくても殿下には傷一つ無かったでしょうね」


 それって……無駄骨。切なすぎる。死ななくて良かったですねマリアさん。ん? そう考えると逆に、


「自作自演なんてことありませんよね?」

「出血はかなり多くて実際命が危うかった筈よ。それはないでしょうね」

「……でも、あの娘はこれでラファエル様に近付けるようになってしまいましたわ」


 そうです。命懸けで王太子を守ったマリアさんは、ラファエル様と接触するチャンスを得たのです。まあこれも勿論ゲームのイベント通りなんですけどね。


「仕方がないわ。殿下の為に命を張った彼女を卑賎な者として扱うことは出来ないでしょう?」

「殿下だけに寄って行くのだったらまだ赦せますのに……」

「三人が四人になるだけでしょうからねぇ」


 相変わらずの嫌われっぷりですね。まあこれまたゲーム通りですけど。


「いずれにしてもエリミア。貴女はさっさとレオンハルトを捕まえておきなさいね」


 いつ私がレオンハルト狙いだと決まったのでしょう?




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