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#12.団欒?

 学園内では、上位貴族の嫡子であろうと護衛が付くことは禁止されていますし、帯剣することも許されません。また、鍛練場や試合場等の特定の場所以外には魔封じの陣が敷かれていて、殆どの魔法はその効果を失います。

 学園の治安は王国騎士団によって維持管理されているのです。


 ただ何事も例外はあって、王太子ラファエル様にだけは近衛騎士が二人、常に護衛についています。授業中も例外ではないので微妙な光景ですけどね。教室の一番後ろの真ん中に離れ小島のようなラファエル様の席があって、両脇には帯剣した騎士が二人立つのですから……。シュールです。

 無理に学園で授業を受けなくても良いんじゃないですかね? なんて、歴代太子が皆そうして来たと言われれば仕方のない気もしますけど。


 話を戻しましょう。魔法や体育の授業でも常に騎士が張り付きますから、王太子様がお一人になるのは寝室以外殆どありません。際立ったイケメンばかりの攻略対象の中でも一段上の正統派イケメンラファエル様ですが、近付くことすら簡単なことではありません。勿論、マリアさんも。


 但し、例外にも例外があったりします。


 例外中の例外の存在、それがレアンドラ・グレンデス様です。


 とは言いつつも、お二人で庭を散歩している時もテラスでお茶をしている時も、全く二人だけの空間、なんて状態にはさせて貰えません。二人の視界の端には常に騎士が見切れているのです。まあ寝室に入れば話は別でしょうが、日本と違って婚約者でもそれは「ふしだら」と言う評価を受けてしまいますからね。しかも女性だけ……。


 理不尽だ!


 と叫んだところで常識や倫理観は簡単には変えられませんからそれは脇に置いておくとして、今大事なのは、その例外中の例外にいつの間にか私達三姉妹が入っているという事実です。


 レアンドラ様とラファエル様のお茶に初めて同席させて頂いた時は騎士を一人増やして見張られているような状況でした。しかし、回数を重ねるうちにどんどんとその圧迫感が薄れて来て、いつの間にやらラファエル様とレアンドラ様お二人の時と同じ扱いになっていたのです。


 勿論今日も。






 昼休み。上位貴族専用の食堂。


 ここ一年昼食はラファエル様も一緒です。クールで冗談は言わないラファエル様ですが、一年も一緒に食事をしていれば流石に打ち解けます。食後にお喋りをすることも増えて来ました。まあ、喋っているのは女の子、特に三姉妹が中心ですけど。

 そんな食後の団欒の今日の話題は、最近話題の彼女です。


「殿下はどうお考えでしょう?」


 直球ですねレアンドラ様。


「結局はその者の資質の問題だろう? 平民だろうと他国の者だろうと当人次第だ」


 その考え方が無難でしょうね。逃げとも取れますけど。


「心根が卑しくとも外見を取り繕うことは出来ますわ。いざという時に見苦しい本音が出てしまってはお家が恥を晒すことに成りますのよ?」


 アリエル様はマリアさんが気に食わないようですね。実の弟さんが被害者?なんですから当たり前ですけど。


「貴族でも卑しい方はいます。当人次第というのは殿下の言う通りだと思います」

「矜持の低い貴族が居ることぐらい知っているわエリミア。でも品格ある平民を見たことがあって?」


 心根が分かるほど平民と交流をお持ちになったことがあるのですか? という返しはしないでおきましょう。貴族の常識からすれば、アリエル様が普通で私の方が異端ですから。


「城に仕えている平民は節度のある者が大半だが?」

「それは選ばれた一部の者しか城に登用されないからですわ殿下。我がクロフォードに雇われる下男など隙あらば盗みを働こうとする者ばかり。遠貴族でもそうなのですから、平民となれば口にするのも憚れるような卑しい者達ですわ」

「盗賊団を捕まえてみたら遠貴族ばかりなんてこともある。一概には言えない」


 遠貴族は平民なのに貴族に近いという偏った自尊心を持った人が多いですからね。純粋な平民みたいに割り切っていない分犯罪に走りやすい傾向にあります。


「貴族もそれぞれ平民もそれぞれ。今大事なのはマリアがどんな人間かではありませんこと?」


 そうですね。そもそもレアンドラ様の質問は「公爵家に平民が嫁ぐことについてどう考えているか?」ですからね。


「上位貴族の跡取り三人にすり寄って殿下にまで近付こうとしている女の性根なんて知れていますわ」

「そうですねぇ。レオンハルト様にも声を掛けていたようですけどぉ」


 え? なんで私を見るんですかリリア様。ニッコリ微笑んだりして……って、皆に見られてるし! レアンドラ様話しましたね? 笑ってるしぃ。意地悪です。


「なんですか?」

「なんでもないですよぉ」


 嘘つき。


「顔が良ければ誰でも良いのかしらね?」


 もう話を戻すんですねアリエル様。


「確かに皆さん男前ですねぇ。でもぉ、リール家のルーカス様に声を掛けていないのが不思議なんですよねぇ。子爵家の嫡子なのにぃ」

「好みじゃないからではありませんか?」

「殿下程ではないにしてもスマートで綺麗なお顔の方ですからぁ……」


 系統はラファエル様と同じということですね。ただ、殿下の顔はスマートと言うよりクールだと思いますよ? まあ個人の意見ですけど。


「だとしたらレオンハルトの方が好みなのかもしれないわね」


 マリアが他のイケメンに興味を持たないのは攻略対象じゃないからに違いないのに……。わざわざそんな仮説を立てなくても良いんじゃないですかレアンドラ様。


「なんにしても、何人もの殿方を誑かしているのは間違いないわ。娼婦にでもなったら良いのよあの娘は」

「男性にも問題があると思います。特にオズワルド先生とハイムルト様は……」


 マリアさんが複数の男性と親しげにしているという事実は学園中が知っていることです。そんな方に自分から近付く上位貴族家の嫡子やその候補……。この国の行く末が心配です。なんて言いつつ、このこと以上にグレンデス公爵は――――。


「アロイスも他人のことは言えないわ。同じクラスだからわざわざ誘う必要がないだけだもの。……まったくあの子は……」


 アリエル様の言うことも一利ありますが、アロイス様が積極性に欠ける理由は他にあると思います。


 ハイムルト攻略の鍵はその妹ヒルデにあります。ゲームでは、ハイムルトの好感度をある程度上げるとそのシスコンが明らかになって、その後初めてヒルデとの交流が図れるようになります。そして、ヒルデの好感度を上げて行けば自動的にハイムルトの好感度も上がる仕様になっていました。ヒルデの好感度を上げるのは難しくないのですが、ハイムルトは好感度の上がり難いキャラの為、妹を登場させるまでが難しいのがハイムルト攻略の特徴でした。しかし、現実ではヒルデ様に会えないなんてことは無かったようで、マリアさんは入学式直後からヒルデ様と接触を図っていました。その結果が今のハイムルト様とマリアさんの親密さに繋がっているのでしょう。

 またオズワルド攻略は、監禁系ヤンデレである彼の性癖を否定せずにやり過ごすテクニックが必要です。但し、美貌のステータスが高ければ高い程ヤンデレ化、と言うより監禁イベントを避け易くなるので、上手くパラ上げが出来た時は簡単に攻略出来るキャラでした。ステータスを見ることが出来ないので美貌のパラメーターがどれ程上がっているかは分かりませんが、現状のオズワルド先生の態度を見るに明らかと言えます。

 要するに、ハイムルト様とオズワルド先生は攻略出来る条件が揃っていたのだと思います。


 それに対してアロイス様ですが、ゲームの彼は依存系ヤンデレキャラで、社交性のパラメーターと好感度を上げ過ぎてしまうと執着ルートに突入してしまいます。これは、常時アロイスに付いて回られるバッドエンドほぼ確定のルートです。執着ルートに入ったあと他の攻略対象キャラの好感度が少しでも上がってしまうと、マリアとそのキャラが刺殺され、彼自身も断崖から身を投げるという展開が待ち受けています。ゲーム会社の悪意を感じますよね。よってアロイス攻略には、好感度と社交性を徐々に上げて行く必要があるのです。

 そんなアロイス様が相手ですから、マリアさんがアロイス様との接触を避けている可能性が高く、端から見たら「アロイス様は積極的ではない」ように見えるのかもしれません。


 そしてこれらのことを踏まえて言えることは、マリアさんにはゲームの知識があるということです。仮に、「魂がゲームに導かれている」なんて状況だったとしても、これ程的確に攻略を進めることは不可能です。ゲーム知識がない可能性より、ある可能性の方が遥かに高いと言えます。


 ゲームの知識のあるヒロインが逆ハーエンドを目指している。


 普通に考えると避けるべき事態だと思いますが、レアンドラ様には理想的なんですよね……。






 アリエル様を中心にマリアさんの愚痴大会と化した食後の団欒ですが、私達以外が居なくなった食堂にこの方が現れたことで雰囲気が一変しました。


「殿下? レアンドラ嬢まで。ご使用中とは思いもよらず失礼致しました」


 声に皮肉が含まれているように聞こえたのは気のせいでしょうか?


「ハイムルト様……」

「ここは王族と上位貴族の使う食堂だ。遠慮することはない」

「いいえラファエル様。殿下と婚約者殿との歓談を邪魔するような無粋な真似は致しません。ここはお暇させて頂きます」


 ハイムルト様はその知的な顔にどこか冷めた笑みを浮かべ臣下の礼を取りました。


「そうか。ならまた今度な」


 社交辞令が下手ですねラファエル様。


「ええ。それでは」


 妙な緊張感に包まれていた食堂に本当の騒動を巻き起こしたのは、無邪気で可愛らしい声の持ち主のこの人でした。


「ハイムルト様! お待たせ致しました!」


 上位貴族専用の食堂にバタバタと駆け足で入って来たのは、


「マリア」




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