表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/50

#09.兄の忠告

「グレンデス家の令嬢と仲が良いと聞いたが?」


 わざわざ伯爵邸に呼び出して、「学園の成績で品位が決まるわけではない」とか下らない嫌みを散々言ったあと、やっと入った本題らしき話がレアンドラ様のこと。伯爵本人(長兄)が確認するようなことだとは思えないのですが……。


「レアンドラ様とは友人として交遊を持たせて頂いております。今のところ私の方には何もございませんが、公爵家から抗議でもございましたか?」

「グレンデス家から何も言われていないからと言ってお前が馴れ馴れしく話して良い相手ではない。最低限の交流に留めるのが筋だ」


 学園入学からもう一年半が経つのに今更そんなことを……?

 兄達は私に興味が無いので目立つことをしなければ特に何か言って来ることはありません。私達の関係を知らなかったのならこの時期になってこんなことを言い出す理由の説明は付きますが、寮に居る使用人の中には私と全く親しく無い、兄が付けた監視役のような侍従が一人居ます。当然、私とレアンドラ様が交流を持っていることは入学直後に報告されている筈です。だとしたら――――


「私からレアンドラ様を誘うことは殆どありませんから必要以上に交流を図ろうとした積もりはありません。それに、レアンドラ様とご一緒する時は大抵クロフォード家のアリエル様とライトマン家のリリア様もご一緒です。お二人は勿論、レアンドラ様ご本人からお誘いを受けることも少なくありません。私がどんな分に置かれている身であれ、誘いを断るのは失礼に当たのではありませんか?」

「誘い断れとまでは言っていない。相手は公爵家。うちは伯爵家。節度を持って適切な距離を保てと言っているんだ。必要以上に近付くな」


 どうやら兄はレアンドラ様との繋がり、いえ、グレンデス家との繋がりを嫌がっているようですね。実質的に王を傀儡にしているグレンデス公との繋がりを固くすることに反対する筈がないと思っていましたが……。


「お兄様は革新派を裏切るのでしょうか?」

「革新派を裏切る? 爵位を継いだ時ならば保守派に付くことも出来たが、今更そんなことが出来るわけがない。その程度のことも分からないのか?」


 ご自分の腹の中で企んでいることがこんな小娘に伺い知れてしまうのだとしたら当主失格ですよお兄様。それに、家を守りたいのなら保守派に寝返ることも頭に入れて動かなくてはいけないのではありませんか?


「私にはお兄様が何を考えてらっしゃるかなど分かりません。一緒に生活しているわけではないのですから」

「トーグ家が革新派を裏切れないことぐらい子供でも解る。そんなだからお前は学園で男一人見付けられないのだ」


 男一人って……。中途半端な相手を紹介したらそれはそれで嫌みを言われそうだし、良家の嫡子だったら「不相応」とか言い出すのは目に見えています。いずれにしても、何かしら文句を言うのに……。止めましょう。時間の無駄です。話を戻してしまいましょう。


「裏切るわけではないのなら、グレンデス家に問題があるということですね? それも、発覚したら婚約破棄が認められるような」


 ゲーム通りだとしたら婚約破棄どころではありませんけど。


「貴様……何か知っているのか? グレンデス公の娘に何か聞いたのか?」

「私は何も存じておりません。ただ、お兄様が“グレンデス家”と距離を置こうとしていらっしゃることぐらいは理解出来ます。近々大きな動きがあると思っていらっしゃるのでしょうか?」


 豪奢な椅子に腰かけたままの長兄が、執務机の向こうで直立する私を睨み付けます。

 私を疎み嫌っている兄ですが、内務政務官として中央の政治にも携わっているぐらいですから公爵家を潰すような動きぐらいは察知出来る筈です。今日私が呼び出された理由は、遅かれ早かれグレンデス家が危うくなることを察したからでしょう。


「……兎に角、グレンデスの娘とは距離を保て。話は以上だ。出ていけ」


 答えが是と言っているようなモノですね。






 兄姉とはずっと疎遠ですが、十五年暮らした家にはそれなりに愛着がありますから潰れたりするのは流石に嫌です。まあそこまでは至らないにしても、「お前のせいで無駄な調べを受けることになった」なんて因縁を付けられる可能性は低くありません。忠告を受けた以上、レアンドラ様とは距離を置く必要があるわけです。でも、これだけ仲良くなれた友人達と離れるのも嫌です。


 マリア入学を半年後に控え妙な板挟みに合っているわけですが、ゲームの設定上グレンデス家が抱える一番大きな問題は過去の話ですし、それ以外の問題もレアンドラ様が直接関与している可能性は極めて低い筈です。それは私がレアンドラ様を信じたいだけかもしれませんが、不正とは無関係の娘の友人の実家にまで捜査の手が及ぶとは考え難いですからね。兄がレアンドラ様との交流を控えるように言った理由の大半は、“体面”だと思います。


 いざ私が疑われたとしたら、「疾うに縁を切っている」ぐらいのことを言うんですから放って置いて貰いたいですね。ホント。

 なんて、「誘いを断れとは言っていない」そう言ったのは兄自身なんですから、無理に距離を取ったりする必要はありませんけど。

 実際、忠告されてからのこの二週間も私は今まで通り四人での学園生活を満喫していますし。


 ただし、レアンドラ様と二人キリで会うことはかなり難しくなってしまいました。まあ元々二人キリになる機会は極めて少なかったわけですが、レアンドラ様にゲームの知識があるのならこれからは頻繁に情報交換や相談をするべきです。なのに……。


「エリミア」


 え?


「どうしましたの?」


 四人でお茶の最中だったのに一人で考え込んでいましたね。


「考え事?」

「はい。お茶の最中に申し訳ありません」

「謝ることはないけど、わたくし達に相談出来ないようなことなのかしら?」


 グレンデス家と距離を置けと言われたなんてレアンドラ様に相談出来るわけないけど……。


「……皆様に相談する程のことでもありませんから」


 レアンドラ様は私達に姉貴分的振る舞いをしますし、アリエル様はお節介な部分があります。これで引き下がってくれるなら楽なんですが――――


「また「後妻の子である私が」なんて思っているのかしらエリミア? 今更そんな事を言い出したら貴女との関係はこれまでにするわよ?」

「レアンドラ様の言う通りよ。クロフォードの娘としてそんな根性無しとは付き合えないわ」


 やっぱり無理でしたね。


「えーと……どうお話しして良いか分からなくて……」


 ホント、どうしましょう?


「そんなに話辛いことなら無理に聞く積もりはないわ。ごめんなさいねエリミア」

「いえ! レアンドラ様が謝ることはありません! 本当にどう話せば良いか分からないだけです!」


 ……これは逆に話さなくてはならなくなりましたね。


「えーと、だから、そのぉ…………」


 私の話を聞く為でしょう。三人は黙ってこちらを見ています。気まずいです。


「……兄からグレンデス家と距離を置くように言われまして……」


 確かなことは一つもありませんから不正に関して私が言えることはありません。話せるのはギリギリ此処までです。


「トーグ伯爵が?」

「何故でしょう?」


 直ぐ様質問を返して来た二人に対してレアンドラ様は、


「……トーグは保守に寝返るのかしら?」


 少し考えてから私と同じ質問をしました。


「理由は判りません。と言うか、それが悩みの種です。兄は私を疎んでいますから詳しいことは話してくれないので……」


 実際理由に関しては何も聞いていませんし。


「保守派に寝返るとしたらエリミアにそう言うのは当然ね」

「レイクッド様に取り立て頂いたトーグがグレンデス家を裏切るなんて中央から下りるようなモノです。そんなことが出来るとは思えません」

「今の宰相はグレイナーであって前任のお祖父は無関係よ。父に政務官を更迭する力は無いわ」


 それは表向きですよね、レアンドラ様。


「ダン様なら出来ないこともないのではありませんか?」

「伯爵がどんな理由を用意しているかによるわ。トーグ程力のある家が裏切ったとなれば父は求心力を失い兼ねないもの」

「……只の推測ですが、兄は私がレアンドラ様にすり寄って自分の立場を確保しようとしているのが我慢ならないのかと……」


 私にそんな積もりは毛頭ありませんが、これなら一応理由になります。


「随分と狭量なお兄様だこと。あ、流石に失礼ね」

「そうですね。腹違いというだけで妹を居ないモノとして扱うぐらいですから心が狭いのは間違いありませんね」


 そう言って笑い掛けると、三人も笑顔で返してくれました。

 リヴィも友達ですが彼女は侍女です。いついかなる時も主従の関係を崩してはくれません。また前世では、オタ仲間は少なからずいましたが何でも相談出来るような友達は居ませんでした。初めて、本当の意味での“友達”を持てた。そんな気がします。


 ――やっぱり離れたくないです――


 皆が笑顔に成って訪れた何とも言えない優しい時間。数瞬のそれを打ち破ったのは、女王然とした悪役令嬢の質問でした。


「それで、貴女はどうしたいの?」


 レアンドラ様の直球質問は珍しくありませんが、これまたど真ん中過ぎる聞き方ですね。あまり貴族らしくないですが、私は好きです。


「……レアンドラ様の傍に居たいです。良いですか?」


 あ! 告白したみたいじゃないですか! うわぁ。恥ずかしい。頬が熱くなって来たし、赤くなってません? なってますよね? これじゃあホントに告白したみたいじゃないですか!


「好きにしなさい」


 答えて目を逸らしたレアンドラ様の頬が少し赤いのは気のせいですか? ……照れたんですか?


「レアンドラ様もエリミアも美人だから殿方が嘆きますねぇ」

「そうね。でも思い合っているのなら仕方がないのではなくて?」


 何を言っているんですかリリア様! アリエル様も便乗しないで下さい!


「婚約破棄は難しいけれど、女なら後宮に入れるから大丈夫よ」


 レアンドラ様まで!!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ