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火地域

「どうぞ、お口に合うといいのだけど」


テーブルの上にハートや星に人型、様々な形の綺麗な焼き色がついたクッキーが乗った皿と温かな紅茶が並ぶ。


「いただきます」


煌は星型のクッキーを口に運ぶとサクッとした食感と程良い甘さが広がった。


「美味しい!!」

「よかった!!、そういえば、お名前は?、私は(すずめ)


「ん、僕は煌だよ」


煌はクッキーを一枚、食べ終えると紅茶を飲んだ。

千歳と雀は、まじまじと煌の顏を見て息を呑む。

輝く白い髪と白と金が混じる両目を持つ煌と言う名の少年は、この世界で一人だけだ。


「まさ……か」

「煌様?」


煌は頷くと今度は人型のクッキーを掴むと、頭部をかじる。


「何故、貴方が……っ、まさか」


「選んだから、霧を」


煌を見る千歳の穏やかだった眼差しが警戒へと変わっていく。

頭がなくなったクッキーを振り、そんな顔も出来るのか面白いと煌は楽しげに千歳を見つめ返した。


「これも美味しいねぇ、味はジンジャーかな」


楽しげな煌と警戒心を露にする千歳は正反対の表情で視線を合わせている。


「千歳さん、私は……この方の血を口にしていません」

「しかし……煌様は霧を選んだと」


「僕が霧を選んだのは間違いない、でも従順とか望んでないし、寵愛を授けたふりをした」


誰も気づいていないみたいだったよ、とイタズラを成功させたように笑う。


「っ、では霧は兄のようには……」

「霧のパパに僕は会ったことがないから……分からないけど僕は今の霧がいいし」


千歳の顔が俯くと煌が覗き込み答えた。


「っぅ、ふ…煌様ぁ」

「泣き虫だね、千歳ちゃんって」

「千歳様ぁ~」

「えっ、雀ちゃんも!?、霧、なんとかして~」

「はぁ……無理です」


また泣き出してしまった二人に煌は慌てて助けを求めたが霧は溜め息をつく。


「二人とも泣かないの、大人なんだか」


煌は椅子に乗って千歳と雀の頭を撫でる。

その様子を横目に霧は黙々と、クッキーを平らげていた。


「って、霧、なんで一人で全部、食べてるの!!」

「……ふぅ、ごちそうさまでした」


煌が頬を膨らませ椅子から降りると霧は最後の一枚を口の中に放り込んで紅茶を飲んだ。


「ちなみに二人が同時に泣き始めたら放っておくのが一番です」

「早く、いって~」


「で、では煌様、ホットケーキを作りましょうか?」


涙を拭きながら雀が霧と煌を見て微笑んだ。


「!!、やったぁ」

「ふふ、作ってきますね」

「僕も作りたい!!」

「で、でも煌様に……そんなこと」


困った様子で千歳を見上げた雀の瞳は、煌と一緒に作りたいなと訴えていた。


「……駄目?」


煌は甘えたような声と上目遣いで千歳を見上げる。


「くっ、二人とも……なんて可愛いんだ!!」

「……千歳さん」


突然、叫んだ千歳に霧は冷たい視線を向けた。


「ぅ、き、霧」

「……」


霧の冷たい視線に動揺しつつ千歳は、駄目だと言わなければ……と二人の視線に耐える。


「コホン、二人とも、だめ……」


千歳は落ち着こうと咳払いを一つし口を開くと雀の瞳に涙が溜まる。


「駄目じゃないよッ、駄目じゃないから……た、楽しみしてるから!!」

「はい!!、ぁ、煌様、霧ちゃんが小さい頃、使っていたエプロンがありますから持ってきますね」


先程よりも冷たい霧の視線に千歳が襲われつつ、青いエプロンをした煌がクルッと回る。


「どうかな」

「キャー、似合う~」


雀と千歳が喜ぶ声が同時に聞こえる。


「じゃあ、煌様、キッチンに行きましょう」

「はーい」


雀と煌は手を繋いでキッチンに向かった。


「良かったんですか?」

「あの可愛さには勝てませんから」

「……」


「ま、まぁ、姉さんに霧を煌様の誕生日に出せと言われた時は驚いたけど……」


霧を見る千歳の眼差しは父親のようだ。

千歳は手を霧の頭にポンっと乗せる。


「本当に無事で良かった」

「千歳さん、私は……」


頭に乗った手や声があまりにも優しくて霧は俯いた。


「私は父さんと母さんを奪った、あの女を殺そうとして……ごめんなさ」

「霧」


霧は俯いたまま、ごめんなさいと繰り返す。

名前を呼ばれ霧の体がビクッと跳ねた。


「謝らなくていいんだ」


そっと乗せた手を動かし千歳は霧の頭を撫でる。


「でも……私は……二人のことを考えずに……」

「いいんだよ」

「っ」


「私たちは霧の為なら死ねるから」


霧が驚いて顔を上げると千歳は優しく微笑んでいた。


「どうして、そんなこと」


霧が呆然と呟いた時、来客を知らせるベルの音が響き千歳はもう一度、頭を撫で客を出迎えようと席を立った。


「っ、姉さん」


扉を開けると千歳と同じぐらいの長身で紺色の長い髪に左目は紫色、右目は緑色をした女が立っている。


「……貴様、愚弟の分際で私を待たせるとは、いい度胸だ」


不機嫌そうに睨み、千歳が招き入れる前に屋敷の中へ入っていく。


「話がある、茶を出せ」

「ま、待ってください、姉さん!!」

「菓子はいらん、貴様……何故、ここに」


焦ったように千歳はその後ろを追いかけた。

静止の声も聞かず進み霧の姿を見つけると嫌悪感を露にする。


「答えよ!!」

「やめてください!!」


千歳は霧を背に隠すように二人の間に立つ。


「退け」

「ぐっ!!」


苛立った様子で一瞬のうちに千歳へ近づくと鳩尾に拳を放つ。


「っぅ」

「千歳さん!!」


苦悶の表情で床に膝をつく千歳の傍に霧は走り寄り添った。


「もう一度、問おう、煌様の寵愛を受けたはず貴様が何故……ここにいるのだ?」


見下ろす侮蔑の視線と見上げる憤怒の視線がぶつかり合う。


「それは、もちろん、僕が望んだから、だよ」


粉だらけの頬、手、青のエプロンと歪な形のホットケーキが乗った皿を片手に持つ煌の姿は愛らしい。


「っ、煌様!?、煌様が何故、そのような格好で」


煌の後ろには怯えた様子で千歳を心配そうに見ている雀の姿があった。


「雀っ、貴様か!!」

「ひっ、ね、義姉様」

「ゃめてくだ、雀はっ」


痛む場所を押さえ千歳は懸命に声を出した。


「誰?」


煌はテーブルの上に皿を置くと女を指差した。


「申し遅れました、私は千影(ちかげ)と申します」


千影は跪くと頭を下げる。


「しかし、煌様がおいでになるとは志郎殿からは何の連絡もいただいておりませんでしたが」

「へぇ、志郎を知ってるんだ?」

「我が一族は朱鷺様の手足となるべき存在ゆえ、志郎殿と面識があるのです」


千影は頭を下げたまま答えている。


「へー、ちょうどよかった、僕、姉様にお願いがあるんだけど取りついでもらえる?」

「……それはどのようなことでしょう」


千影は顔を上げ煌の瞳を訝しげに見上げた。


「姉様が持っているモノで欲しいのがあるんだ」


煌の口調は無邪気な子供のようだったが千影を見下ろす瞳は冷たく恐ろしく見える。


「っ、では朱鷺様にお伝えし席をご用意致します」


千影は煌の表情に息を呑み、咄嗟に視線を外した。


「では用意ができましたら遣いを出しますので」

「うん、姉様によろしく伝えておいて」

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