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火地域

灰色の曇で覆われ、太陽を隠しているせいで薄暗い、その下で何本も鎮座する煙突からは白煙が立ち昇っているのが見えた。


ここは火地域(ひえりあ)

煌の姉である朱鷺が治め、地熱を活用し国の電力を担っている。


「土地域から火地域まで運搬路を使って、三時間」


土地域は国の北、火地域は南、水地域は西、風地域は東に位置し、どの地域(えりあ)(ない)も上流階級地区、中流階級地区、貧困層地区の三つに分けられている。


「火地域には初めてきたけどすごいね、僕もアレ、つけてみたいなぁ」


王族専用に整備された車中で煌は窓の外を見つめ指差す。

車が走るのは火地域の貧困層地区。

煌から見て土地域の貧困層地区に比べ火地域の貧困層地区は歩く人が圧倒的に少なく、何よりもの違いはガスマスクをつけている姿だった。


「一応、用意していただきましたが……」

「本当っ!?」


窓の外に視線を送っていた煌は嬉しそうに、隣に座る霧に振り向く。


「叔父の屋敷は中流階級地区にありますので、マスクの着用は必要ありません」


きっぱりと言いきる霧に煌は頬を膨らませた。


「貸して」

「重いですよ」

「お願い、霧」


頬を膨らませたまま手を差し出し、甘えるように煌は見つめ返してみる。


「……はぁ、どうぞ」

「わ~い」


こうかなぁ、とゴソゴソと煌はガスマスクをつけていた。


「……重」

「外した方が……」

「大丈夫!!」


ガスマスクをつけたままと勢いよく首を振る。


「ねぇ、あとどのぐらいで着くの?」

「もうじきです」


重いなぁ、と小さく呟やいた声を霧は聞こえないふりをした。

すると、貧困層地区を通り中流階級地区への扉が現れる。


「ふふ」

「何かありましたか?」

「ん」


地域への入り口よりも頑丈に作らているのは一目見れば誰でも分かる。


「暮らす環境とか色々、違うのに同じ所があっておかしくてね」


扉が開かれ中流階級地区へと入るとすぐに目的の場所に着く。

中流階級地区は人通りが多く、王族専用車を見た人々が騒ぎ始めた。


「どうぞ」


霧は先に降りると煌側のドアを開き手を差し出す。


「ありがとう、ふぅ」


外に出ると煌はガスマスクを外した。

霧の叔父の屋敷は他と比べて、こじんまりとして見える。


「はぁ、疲れた」


「まさか、あの瞳の色は」

「な、何故…ここに!?」


白い髪、左右、同じ色の瞳を持つ煌に周囲の人々が次々と驚きの声があがった。

煌は彼らに向かって手を振り微笑んだ。


「一体、何が」


騒ぎを聞きつけたのか屋敷から、一人の男性が姿を見せた。


「き、霧!?」


彼は霧と同じぐらい長身で髪は紺色、左目は紫色、右目は緑色をしている。


「っ、叔父です」


余程、霧のことを心配していたのか周囲の喧騒を忘れ霧以外は目に入っていないようだ。


「お前にまで何かあったら……わ、私は……私はっ」

「あの心配をかけて、すみませんでした……しかし」

「霧、僕のことは気にしないでいいよ」


微笑ましげに煌は二人を見上げている。


「ん、どこの子かな、霧の友達かい?、可愛い子だね」

「……えっ」


「なっ!?」

霧や集まっている人々が驚きの声を上げた。


「初めまして、私の名前は千歳(ちとせ)です」


煌の目線まで合わせると優しげに笑って握手をしようと手を出した。


「ふふ、初めまして」


煌も一瞬、驚いた様子だったが嬉しそうに笑い握手を交わした。


「あの千歳さんこの方は」


霧は言いづらそうに口を濁らせている。


「ここじゃなんだから家に入ろう、美味しい、お菓子があるんだよ」


千歳は煌の手を引いて屋敷の中へ招き入れた。


(すずめ)、霧が帰ってきた!!」


千歳は屋敷の中へ入るなり叫ぶと、慌てたように女性が姿を見せる。


「っふぇ……ぅ、う」


彼女は霧の姿を見るなり、大きな瞳から涙を流し始めた。

栗色の髪、左目は黄色、右目はピンク色をしている。


「あぁ、私の可愛い奥さん、泣かないでおくれ!!雀が泣くとっ、私は………私っ」


「千歳様ぁ、だ、だっ……て霧ちゃ、ん、帰っ」


泣いているのを隠すように両手で顔を覆う雀の姿を見つめながら千歳までも泣き出した。

霧がすまなさそうに千歳と手を繋いだままの煌に視線をよこす。


「あの……どうぞ、一つしかないけど」


煌が二人に向かってハンカチを差し出すと涙で濡れた顔で二人は煌を見た。


「あら?、あら!?、あら!!、なんて可愛いらしいの」

「うん、私も雀と霧ぐらい、この子は可愛いらしいと思った!!」


突然、叫んだ雀に煌の体がビクッと跳ねた。

二人はいつの間にか泣きやんでいる。


「そうだわ、クッキーを焼いたの!!、おやつにしましょう」


雀は先ほどの千歳と同じようなことを言いながら客間へと煌を案内した。


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