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寵愛

「ん、ぅ」


煌がゆっくりと目を開け、ベッドの上で軽く体を伸ばす。


「起きられましたか?」

「ふぁ……はょ」

「おはようございます」


霧の声に煌は頷き、まだ寝足りない様子で窓の外へ視線を移すと青い空が広がっていた。


「……八時を過ぎたところです」

「そっか」


煌はベッドから降りると、サイドテーブルの上に置かれた装置を押した。


「霧って食べられない物とかある?」

「特にありません」


すると直ぐに扉をノックする音がする。


「どうぞ」

「し、失礼致します」


煌が声をかけると緊張した様子のメイドが現れる。


「霧の着替えと朝食を用意して」


切なげに、こちらを見る彼女は頬を染めて目を逸らした。


「朝食は外に用意し」

「あの、待ってください」


霧は急に窓の方へ近づくと窓を開け手を出す。

今日の日付は十二月二六日、本来は寒さが厳しい季節だ。


「そうか、今、冬だった」


しかし、冬だというのに猛暑の日があったり、かたや夏に大雪が降るなど、季節の関係ない気候の日がたまにある。


「今日は暖かい日みたいです、外で食べても平気でしょう」

「よかった!!、じゃ朝食は外に用意してくれる?」

「かしこまりました」


メイドは煌に向かって会釈し部屋から出ていった。


「僕はシャワー浴びてくる、霧は?」

「……起きて直ぐ、お借りしましたので」

「なーんだ、一緒入ろうと思ったのに」

「えっ」


煌は残念そうにバスルームに向かった。


「はぁ、なにをしてるんだ、私は……」


王の子といえど七歳年下の子供だぞ、振り回されている自分に溜め息をつく。

しかし、嫌だという感情は不思議と湧いてこず、それが酷く落ち着かない気分にさせる。


「父さん……母さん」


蘇る記憶、父はよく笑う人だった、それが無表情に銃を母に向けて……何発もの銃声、そして血の匂い。


右足、左腕、右耳。


やめてよと叫んだ自分の声も逃げなさいと叫ぶ母の声も銃声に消される。


左足、右腕、左耳。


まるで撃つ個所が決まっているかのようだった。

これで終わりだ、早く朱鷺様のもとへ戻らなければ……無表情だった父が母に向けるような笑顔を浮かべ呟き、その直後、更なる二つの銃声が響く。

それは母の美しい両目を撃ち抜いた音だった。


父は以前、母の綺麗な瞳が一番好きだと言っていたの思い出す。


「っ」


霧は苦しげに右目を覆う眼帯をなぞる。

すると扉をノックする音、先ほどのメイドが着替えを持ってきたのだろう。


「……はい」

「失礼いたします」

「どうぞ」


着替えを受け取ろうと霧が近づくと彼女は睨むように見上げ、手渡す。


「?、どうも」

「……お手伝いは必要でしょうか?」

「私のことは結構です。あの方の、お手伝いをされてはいかがです?」


棘のある言い方だなとは思ったが、あまり気にせず返事をし、バスルームの扉に視線を移す。


「煌様はあまり私どもを必要とされません」


嫌味と、とったのか女の視線が更に鋭くなる。


「ふぅ~」


その時、煌がバスローブ姿で出てきた。

濡れた白い髪からはポタポタと雫が落ちる。


「霧、まだ着替えてなかったの?」


クローゼットの扉を開き並んだ服を選び始めた。


「今、着替えます」

「そっか」


選んだ服をベッドの上に投げる間にも雫が落ちる。


「……拭いたらいいかがですか?」

「自然に乾くからいい」

「風邪をひきます……彼女に拭いてもらえば」


下がるタイミングを逃したメイドへ視線を移す。


「君」

「っ」

「下がっていいよ」


彼女は会釈すると急いだ様子で出ていく。


「早く着替えたら、霧」

「貸してください」


「?」


霧は煌の肩に乗ったタオルを指差した。


「ん」


タオルを渡し、ベッドの上に座ると頭が柔らかな感触に包まれて力をぬく。


「外に行くのでしょう、ちゃんと乾かさないといけません」

「……」


柔らかな感触に包まれたまま煌は小さく頷いた。


「このぐらいでいいです」

「ありがとう」

「着替えたらドライヤーできちんと乾かしましょう」


二人は着替え始める。

煌は黒いシャツに白黒チェックのパンツ。


「霧、髪はもういいよ」


霧は白のシャツに茶色のカーディガン、黒のパンツ。


「そうですか」


煌の髪は大分、乾いていたので霧は頷く。


「早く行こ」


煌は急かすように霧の手を引いた。



外に出ると雲一つない青い空、暖かな日の光と頬を心地よく撫でる風。


「ん~、気持ちいい」


屋敷の庭に白いテーブルと椅子が用意され煌と霧は席についた。

テーブルの上には香ばしい匂いのクロワッサンに、ふわふわとしたオムレツと瑞々しいサラダに温かい紅茶が並ぶ。


「用意してくれて、ありがとう、後は下がってくれていいよ」


それらを用意した使用人に煌は微笑んで労った。


「いただきます」

「……いただきます」


麗らかな陽気の中しばし二人は朝食を楽しんだ。


「霧、紅茶は?」

「私がいれます」


煌はいいよ、と言いながら自分と霧のカップに紅茶を注いだ。


「ミルクと砂糖は?」

「……多めでお願いします」

「へぇ、甘いもの、好きなんだね」


食後のお茶を楽しみながら煌は口を開く。


「悪いんだけど……この屋敷に住んでもらいたい」

「……」


寵愛のこともあるのだろうと霧は考えを巡らせる。


「ご両親のことは聞いたけど……他に家族は?」

「兄弟はいません、ですが私を育ててくれた叔父夫婦がいます」

「お前……その人達のこと信用している?」


霧の表情が柔らかくなり、彼らのことを大切にしているのだと理解した。

霧を真っ直ぐに見つめる煌の瞳に鋭さが増し、声は威圧的に変わっている。

霧は肌が粟立つのを感じ、頷くのが精一杯だった。


「なら会いたい」

「え!?」


煌に出会ってから霧は一番、驚いたように見える。


「会いに行こうよ、霧のこと心配してるんじゃないかなぁ」


霧は、この人には勝てる気がしないと溜め息をつく。

霧の反応が面白いのか煌は楽しげに笑っていた。


「しかし………いいのですか?、私の所属地域は……」


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