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寵愛

無駄に装飾が施された扉が開かれ、煌は赤いカーペットの上を踏み出した。

白の蝶ネクタイと手袋、小さな杖を持ち燕尾服の姿は可愛らしくもあり、堂々と歩む姿は凛々しい。


「煌様……」

「なんて、お美しい」

「……煌様は誰を?」

「なんと愛らしい方だ」


集まった者達は煌と面識がないものが殆んど、しかし惜しみ無い賛辞と自分が選ばれるのではないかと期待に満ちたを眼をしていた。


「私の可愛い煌」

「……陛下」


ノイズ混じりの声が、騒がしい場を静めさせる。


声の主は、この国の王。

煌は王の前まで、進むと恭しく跪いた。


王の姿は黒のシルクハットと赤い蝶ネクタイ、煌と同じデザインの燕尾服を着た白いウサギのぬいぐるみだった。


「そんなことしなくていい、さぁ、私の隣においで」


煌は頷き、王の隣に用意された空席へと座る。


「今日はウサギさんにしてみたんだ」

「ヘイカ、とってもかぁいね~、煌兄様」

「あぁ」

「ふふ、私の撫子も、とても可愛いよ」

「えへへ」


桃色の花弁のような色の髪と瞳をもち、無邪気に笑う少女は煌より三歳年下の四番目に生まれた姫で名前は撫子(なでしこ)、王に誉められ嬉しそうに笑った。


「陛下、私のことは気にかけてくださらないの?」


上質なガーネットのような赤い髪と瞳、きつそうな印象な彼女は煌より六歳年上で二番目に生まれた姫、名前は朱鷺(トキ)、王に向かって妖艶な眼差しを向けている。


「朱鷺、幼い妹と競い陛下を煩わせてはいけません」


雲一つない青空のような色の瞳と髪をもち優しげな印象の男は煌の七歳年上の兄で一番目に生まれた皇子で名前は(そう)、王を気遣うように苦笑した。


蒼、朱鷺、王を真ん中にし煌、撫子の順に席についている。


「はっ、つまらない男ね」

「貴女がだらしがないだけでしょう」


朱鷺が馬鹿にしたように笑うと、やんわりとした口調で蒼は咎めた。


「ははっ、蒼と朱鷺はいつも仲良しだねぇ」

「じゃあ、撫子は煌兄様と仲良しするー」


撫子に右手を強く握られ痛みが走る。

それを顔に出さず空いている方の手で撫子の頭を撫で微笑む。


「えへへ、あっ、そうだ」


嬉しそうに笑ったかと思えば何かを思い出したように煌の手を放し、撫子は声をあげる。


「煌兄様、お誕生日おめでとう!!」

「撫子に先をこされてしまった、私の可愛い煌……十歳の誕生日、おめでとう」

「おめでとう、煌、貴方の将来が楽しみだわ、いい男におなりなさい」

「煌、おめでとう、貴方の兄であることを誇らしく思います」


煌へ思い思いの祝いの言葉を贈る彼らは、仲睦まじく見える。


「さぁ、皆、グラスをもって」


上機嫌なノイズ混じりの王の声が響く。


「それでは煌の誕生日を祝して……乾杯!!」


ウサギのぬいぐるみ姿の王の言葉に合わせ、その場の全員がグラスを掲げた。


「陛下、集まっていただいた皆さんに挨拶を」

「えらいねぇ、煌、行っておいで」

「はい」


その場を離れると、 遠巻きに見つめる人々の視線を受ける。

来たか、背後から近づく見知った気配に煌は振り返った。


「煌様」

「……探していたんだよ」


煌は年相応な笑顔を浮かべ甘えた声で男に近寄る。


「ご家族と時間の邪魔になるのではないかと……」

「お前も家族みたいなものじゃないか」


男の名は志郎(しろう)

栗色の髪と左目は白い色で右目はピンク色をしている煌にとって育ての親のようなものだ。


「そんな、私ごとき畏れ多い」

「そう?、でも十歳になったし、志郎にいつまでも甘えてられないね」


「貴方様は国の宝、大切な方、私などでよければ」


王は独り国は一つ。

独りでは一つの国を統べるのは到底、不可能。

王は四つに国をわけ信頼できる一族に任せていたが今は四つの内、二つを蒼と朱鷺がそれぞれ統べている。


「……嬉しいな」


十歳となった煌も、その一つを担うが今は志郎を中心とした彼の一族が、変わりを勤めていた。


「あの………煌様」


志郎は何か聞きづらそうに煌へ問いかける。


「大丈夫、わかってるよ」

「っ」


安心しろと微笑まれ志郎は息を呑んだ。


「そ、それでは……あの子を選んでいただけると!?」

「志郎」


志郎が床に膝をつき煌の両手を握る。

ゆっくりと煌は志郎の耳に口を寄せ囁いた。


「落ち着いて、目立ってしまっている」

「!!」


煌と志郎の様子に周囲が、何事かとざわめき始める。

はっとして志郎は煌の手を離して立ち上がった。


「ふ……皆様、お騒がせ致しました」


少し笑いながら深々とお辞儀をして周囲を見渡す。


「こんなにも沢山の方々に祝っていただけて嬉しいです」


人々は志郎のことなど忘れ、凛と立つ煌に釘付けになっている。


「それでは、皆様も楽しんでください」


もう一度、お辞儀をして王や蒼達がいる所に戻ろうと歩き出す。


「き、煌様!!」


志郎が慌てて呼び止めたが聞こえないふりをした。


「戻りました、陛下」

「おかえり」


王へ会釈すると煌は席についた。


「ところで煌は決めているのかな?」


ノイズ混じりの声やウサギのぬいぐるみ姿からは真意を図ることが出来ず、煌は正直に答えることにした。


「いいえ」


選ぶつもりもないと、思いながら首を振る。


「あら、私は十歳になる前に決めていてよ」


煌の答えに朱鷺が口に手を当て笑う。


「朱鷺と同じなのは癪にさわりますが、私も決めていましたよ」


蒼は優しげな微笑みで煌を見た。


「ん~蒼と朱鷺は十歳になる前から聞いていたから心配してなかったんだけど」

「申し訳ありません」


煌は、しおらしく顔を伏せた。


「謝らなくていいんだよ、煌は蒼や朱鷺とは違うんだから」

「それは……」


どういう意味だ、と聞きたくなったが、それをのみ込んだ。


「でも心配だったし適当に選んで呼んでおいたから、その中から選びなさい」


「っ」


「選んでみて気にいらなかったから捨ててもいいから安心して」


「……陛下、ありがとうございます」


煌は顔を伏せたまま唇を噛んだ。

しかし、すぐに顔をあげて王へ美しい微笑みを浮かべた。


「気にしないで、私の煌、さぁ、入っておいで」


王の声が響き煌も通った扉が開く。


先頭には緑の髪、左目は白と右目はピンク色の少女。

二番目は金の髪と左目は青く右目は橙色の少年。

三番目は紺色の髪と左目は紫で右目には黒い眼帯をしている長身の青年。


彼らは煌達の前に着くと跪き頭を下げた。


「……ほら立って、煌によく顔を見せてあげなさい」


長身の青年だけが躊躇わず立ち上がり、煌ではなく朱鷺を睨むように見る。

他の二人は立ち上がるが、緊張しているのか目を伏せていた。


「久しぶりだね、二葉(ふたば)雨音(あまね)


煌に名を呼ばれ伏せていた目を二人はすぐに上げた。


「二葉、君のお父様と少し話したけど、とても心配していたよ」

「父は……か、過保護で、も、申し訳け」


二葉は煌と同じ十歳で志郎の一人娘だ。

二葉は頬を染め声を震わせてる。


「僕は志郎に感謝してもしきれないし、君は僕の妹のような存在だよ」


「ありがたき、お言葉です……煌様」


二葉は言葉とは裏腹に声や瞳は切なげに見えた。


「雨音、三年ぶりかな?」


彼の名は雨音、煌や二葉と同じ十歳だ。

雨音は尊敬の眼差しを煌に向けている。


「あの子も生きていれば……それに、ご両親も」


「もう三年が経ちました、兄と両親のこと気になさらないでください」


両親と双子の兄がいたが雨音を残し他界している。

雨音を懐かしげに見る煌の眼差しは、違う誰かを見ているようだった。


「あの……煌様?」


それに気づいているのか、雨音は煌の名を呼んだ。


「……今は志郎の養子になっているんだっけ?」

「ええ、とても……よくしていただいています」

「そう、同じ地域(エリア)に住んでいるんだから、会いに来てくれればよかったのに」


煌が笑うと雨音は嬉しそうに笑い返した。


「君は始めましてだよね」


煌は長身の青年に微笑むと顔を見上げる。


「名は(きり)、歳は十七歳です」


「霧か」


大抵の人間は煌に見つめられたら頬を染めて動かなくなるか目を反らすかのどちらかだ。

しかし、霧の反応は頬を染めず興味すらなさそうで、煌に面白いと思わせた。


「霧、君はとても背が高いね……君の顔をよく見たいんだけどいい?」


霧は一瞬、呆けたように煌を見たが膝をつく。

見上げていた霧と煌の視線が同じ高さになった。


「アメジストみたいだね」


甘えたような声で手袋をしたままの指で霧の頬をなぞる。


「怪我でもしてるのかな、この眼帯は?」

「!?」


眼帯で覆う瞳の方へ煌が手を伸ばす。

霧は焦ったように煌の手をとっさに掴んだ。


煌の手を拒んだように見えた周囲はざわめいた。


「大丈夫、取ったりしないから、ね?」


掴んだ煌の手を霧は離す。

手を離されると同時に煌は霧の首に手を回し抱きしめ耳に唇を寄せた。


「朱鷺と何かあるのか?」

「っ」

「まぁ、いい」


クスクスと楽しそうに煌は笑っている。


周囲の人間には狼狽える霧に、煌が甘えているようにしか見えない。


「決めた、僕はお前を選ぶ」


優しく囁くと一瞬、煌は強く抱きしめ手を離した。

霧は混乱しているようで膝をついたまま煌を見つめている。


「我が寵愛は霧に!!」


そう高らかに煌は宣言すると右手の手袋を外す。


「ん」


親指には血は止まっているが痛々しい傷があったが、その傷を誰も見せないように口に含む。


「ッ!!」


歯を立て、わざとらしく痛み顔を歪ませているんだと周囲に見せる。

さらに口に血を含んだかのように周囲に見せ、指を外した。


「ん」


煌は手を下げたと同時に傷口へ強く爪を立てる。

下げた手から血が床に落ち小さな血溜まりを作った。


「!!」


煌の行動を呆然と見ている霧の頬に両手を添え、口付ける。


「んう」

「っ!?」


驚き逃げようとする霧に煌は口付けを深くしていく。


「ん……ふぅ」

「くっ」

「はっ、ん……これで霧、お前は僕のもの、だ」


唇を外し、真っ直ぐに霧を見つめ楽しそうに笑った。

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