十回目の誕生日
広い部屋の中、乳白色の天蓋付きベットに豪華な調度品の数々。
その中で一際、煌びやかな鏡の前に白髪の少年が立っていた。
少年の名は煌、この国の三番目に生まれた皇子で今日は記念すべき、彼の生まれた日だ。
絹のような白い髪、金と銀が混じる大きな瞳。
小柄な体には黒いシャツのボタンを無造作に止めた、一枚だけ。
その姿は儚げで愛らしくも美しい精巧に作られた人形のようだ。
しかし、あと数時間もすれば煌の十回目の誕生日を祝う宴が始まるというのに、無表情で鏡に映る自分の姿を見つめていた。
「……消えてしまえ」
鏡に映る己の姿を映した瞳が鋭く射ぬくように変わり、静かに放たれた声と眼差しには己への嫌悪感が混じっている。
「……煌様」
扉を叩く音と女の声が聞こえ煌は自分から視線を外した。
「はぁ……どうぞ」
声からして自分の身の回りを世話をしているメイドの一人だろう、煌は聞かれないように溜め息をつくと微笑みを浮かべ迎え入れる。
「失礼致します……ぁ」
愛らしい微笑みに、女はオッドアイの瞳を瞬かせ頬を染めた。
「なにかあった?」
「ぃ、え……ぁの」
煌が首を傾げると女は、さらに頬を染め俯くと、エプロンドレスの裾を掴む。
「っ、誕生日、ぁの……おめでとうございます」
「あぁ、ありがとう」
俯いたまま声を震わせる女に、煌は微笑みを崩さず答えた。
「煌様、わ、私……」
王の子は十回目の誕生日を迎えると自ら配下になる者を選び寵愛を授ける、寵愛とは血を与えることだ。
「私は、もっと貴方様の……お側に」
その血は蜜のように甘く、たった一滴でも口にすれば虜となり死ねと命ぜられれば、喜び躊躇することなく命を絶つほど従順になる。
「貴方様の物になりた」
女が顔を上げ潤んだ瞳で煌を、うっとりと見つめていた。
「はぁ、もういい」
煌は溜め息をつき手をあげ、女が言葉を紡ぐのをやめさせる。
「き、煌様?」
微笑みを消し煩わしげに、こちらを見る煌に女は慌てた。
「僕は君に興味ないよ」
「でも、っ、いつも私に微笑んでくれて」
「まだ話しある?」
可笑しくなくたって笑うことくらいできるだろ、煌は女に向かって、もう一度、微笑んだ。
「わ、たし、本気で貴方を好きで愛してて……だから、どうか私を選ん」
煌を見つめ近づき、すがろうと手を伸ばす。
「触るな」
「っ」
伸ばされた手を弾き、睨むと涙を流しながら女は飛び出していった。
「はぁ、こんなことが一日、続くのか」
また溜め息をつき目を閉じる、煌はよく目を閉じ己の存在について考える。
三番目の子、寵愛、血、目を閉じると心音が響く。
「ッ」
目を開き右手の親指を口に含むと強く歯をたて指の腹を切った。
傷口から鮮やかな血が溢れてくる。
「ん」
血が滲む親指を再び、口に含んだ。
煌は同じようにして何度か己の血を口にしている。
今日、何か血に変化があるのか……そう思ったが特に変わった様子はない。
「はっ、くだらない」
寵愛なんて行為なくても、王族の命令を拒むバカなんているわけがないと笑った。