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土地域

ヒヨコと戯れた後、三回目の扉を抜け上流階級地区へと入る。

上流階級地区は貴族達の屋敷や遊技場など、貴族のためだけにあると言っていい地区だ。

煌の屋敷は上流階級地区の一番奥に位置している。


「お帰りなさいませ」


屋敷の中へ入ると使用人達が並び、声を揃え頭を下げた。


「煌様、志郎様がおいでになって」

「煌様!!」


使用人が言い終える前に志郎が走り寄ってきた。

志郎が床へ膝をつき煌の肩を掴んだ。


「ご無事で良かった」

「平気だよ、それよりも僕、お腹すいちゃった」

「では、何か用意させましょう」


煌が微笑むと肩から手を退け立ち上がり使用人達へ鋭い視線を向けた。


「っ……只今、用意致します」


使用人達が怯えたように散っていく。


「それでは、客間で待っていましょうか」


志郎は自分の屋敷のように玄関の扉を開けさせると先頭を歩き客室へ歩き出した。


「そうだ、志郎……さっき貧困層地区でね」

「申し訳ありません、煌様、どこかで行き違いがあったようで」


席についてから煌が口を開くと志郎の声が沈み目を伏せた。


「そう」

「……」


霧が鋭く冷たい眼差しを志郎に向けると、その目に気づいたのか笑む。


「霧は正直なんだよ、可愛いでしょ?」

「き、煌様」


霧は動揺し千歳と雀は嬉しそうに頷いた。


「これは微笑ましい、それにしても、ご子息までもが寵愛を受けられるとは……誇り高いでしょうね」

「っ」


笑みを絶やさずに霧に視線を向ける。


「志郎殿は兄と面識があったのですか?」


志郎の視線が、ゆっくりと千歳へと移った。


「いいえ、千影殿から伺いましてね、色々と」

「なるほど、例えばどんなことでしょう」


千歳と志郎の視線がぶつかり合う。


「そうですねぇ、一番、驚いたのは霧様の」


その時、扉をノックする音が響く。


「……失礼致します」

「入れ」


志郎が声をかけるとメイドがティーポットやカップを乗せたワゴンを引き入って来た。

紅茶の甘やかな香りが漂う。


「霧様のお母上のことでしょうか」


ワゴンの上に並んだカップへ紅茶を注ぐと湯気がたち匂いが強くなる。

メイドは始めに煌の側へと紅茶を運んでいく。


「まさか、鬼だとは」

「!!……ぁ」


志郎の言葉に驚き、メイドがカップを落とした。

カップは割れ、紅色の液体が飛び散り煌の足へとかかってしまう。


「っぅ」

「煌様!!」


霧が立ち上がり煌の傍へ寄った。

床に落ちた液体からはまだ湯気が上がっている。


「もうしわけ」

「貴様っ、なんということを!!」


志郎が怒鳴りつけると、メイドの体は震え、顔が真っ青になっていた。

その場に控えている、メイド達の顔も同じように顔色が悪く見える。


「早く、水を……っ」


メイド達に霧の声は届いていないようで怯えた表情のまま動かない。


「霧!!」


千歳が飾ってあった花瓶から花を抜き取り霧へ渡す。

膝をつき、そっと足を上げると花瓶の水をかけた。


「氷を!!」


雀が一番先に部屋を出て行き手当てに必要な物を他のメイドと共に持ち戻ってきた。


「っ、煌様」


紅茶が、かかってしまった足首を氷水へと浸し霧がそっと靴下を脱がせた。

霧は手当てをしながら心配そうに煌を見つめる。


「大丈夫だよ、また霧の方が痛そうな顔してる」


煌は微笑むと霧の頬へ触れた。

範囲は広くなかったが小さな足は赤くなり痛々しい。


「この女……」


煌と粗相をしたメイドの間に志郎が立つ。

そのせいで煌からは志郎の表情は知れない。

メイドの顔、そして胸、腰から足へ徐々に志郎は視線を下げていく。


「ひッ、どうかっ」


メイドは、その視線に耐えきれなくなったのか膝をつに、床に額を擦り付ける。


「お、お許しを」

「許してくれだと?、よく言えたものだ」

「ひっ」


志郎が少しずつ絶望を植えつけていく。

メイドが顔を上げると楽しげに見下ろす、志郎の目と目が合うと助けを求めるように、左右上下に瞳が繰り返し動く。


「煌様、お任せを、このようなこと二度とおこさぬように私が躾ましょう」

「ぅ、ぃゃ」

「いや?、薄汚いメイド風情が煌様の美しい御身を傷つけて罰すら受けたくないとはなんと浅ましい」


志郎は慣れた様子で言葉と視線で、さらに追い込んでいく。

思考と体が動かくなった、メイドの歯がカチカチと鳴り始めた。

植えつけられた絶望が開き始める。


「うっ、ぅ」

「志郎」


楽しげに歪ませた表情を志郎は消し煌に振り向いた。


「煌様、おかわいそうに」


志郎は霧のように跪き煌の足に手を伸ばす。


「触れるな」

「霧様に嫌われてしまったようで残念です、とても」


霧が冷たい声で制止し睨むと志郎が露骨に眉をひそめる。


「気色の悪い鬼め」


志郎は立ち上がりながら一瞥し霧に囁いた。


「ッ、貴様」

「霧、足ふいて」


霧は頷き濡れた足をタオルで包む。


「もういいよ」


そう言って椅子から煌は立つと、震え俯いたメイドへ近寄る。


「顔を上げて」

「ぁ、き……煌様」


額を床に擦り付けたまま、メイドは顔を上げられずにいた。


「どうか、っ、ど!!」


煌は靴を履いたままの方の足でメイドの頭を勢いよく踏みつけた。


「僕は顔を上げてと言ったのに」


強弱をつけながら、さらに踏みつける。


「ぐ、ぅ、えぁ」

「お前のせいで」


強く弱く踏みつけられる、メイドの顔が歪み、涙が溢れていた。


「ぐぅう、ふぁぐあ」

「霧と志郎がケンカしちゃったじゃないか」


その様子を誰も止めることが出来ず、呆然と煌の行動を見つめる。


「顔を上げて」

「っう、うっ」


命じられ上げた顔は涙で濡れ頬は所々、擦り切れていた。


「反省して、ね?」


メイドが見上げると煌は首を傾げ、微笑んでいる。

その微笑みに頬を染め、見入り頷くことが出来なかった。


「志郎」

「ッ、はい」


名を呼ばれ志郎の身体が跳ねる。


「ほら僕にも出来たよ」


煌は志郎へ振り返り見上げ無邪気に笑っていた。


「躾」

「さ、さすが、煌様」


引きつったように笑いながら志郎は瞳を泳がせた。


「なら、お前の力はいらないね」

「っ、煌様、それは」


無邪気さが消えて瞳が冷たくなる。


「これじゃ足りないか、なら是非、お前の躾とやらを見てみたい」

「ひっ」


煌の近くでメイドが怯えた声を漏らす。


「ほら、どんなことをするの、して見せてよ、志郎」


煌がゾクッとするような眼差しと妖艶さが漂う笑みを浮かべ首を傾げた。


「……」


動揺しつつも志郎は煌の姿に見惚れている。


「し、失礼します」


その時、ノックする音がして緊張気味のメイド達が食事を持ってきた。


「あ、貴方様にわ、私の手本などっ、必要な」


焦ったように話出した志郎に、その場にいた全員の視線が刺さる。


「そ、なら食事にしよう」


煌はもう一度、席につくと微笑んだ。


「い、いえ…私は仕事が残っていますので…これで失礼を」


志郎は足早に屋敷を出て行った。


「……」

「煌様、大丈夫ですか?」

「ん、疲れただけ」

「手当てを」

「いい」


霧が心配そうに声をかけると煌は首を振った。


「君達、食事を並べたら、ここを片づけて」


立ち尽くしているメイド達に煌は指示を出す。

メイド達は手際よく皿を並べ床を片づけ始める。


「煌様、終わりました」

「霧たちの部屋の用意は出来ている?」

「はい」

「そう、ありがと」


弱々しく微笑むと煌に声をかけたメイドが頬を染める

彼女は煌に好意を寄せていると言ったメイドだった。


「この者はいかがいたしますか?」

「連れて行って、手当てをしてあげて」


床にへたり込んだままのメイドが煌の声にビクリと反応する。


「かしこまりました」


頷き側で控えていたメイド達に視線で促す。


「……」

「っ」

「……」


へたり込んだメイドの両脇を抱えて出て行った。


「僕は自室に戻るよ、今日は誰も近づけないで」


食事に手をつけないまま煌は立ち上がる。


「煌様」


霧が何か言いたそうに呼んだが、煌はそのまま部屋を後にした。


「皆様、何かありましたら、お呼びください」


霧を一瞬、見てメイドが笑うと扉を閉じる。


「追いかけなくてもいいのかい?」


優しげな声で千歳が声をかけると切なげに霧は目を伏せた。


「煌様は誰も近づくなと」

「でも煌様は霧ちゃんを待っているんじゃないかと思うの」


「しかし……」


「霧は煌様の傍にいたいと思う?」

「煌様は私を、私の大切なものを守るから離れるな、傍にいてほしいと」

「違うよ、私が聞きたいのは霧が煌様の傍にいたいのかってこと」


千歳が霧の頭を撫で、雀が霧の手に触れた。


「あの方を、一人にしたくない、傍にいたいと思います」


伏せた目を上げて千歳と雀を見つめた。


「あの……二人に話しておきたいことがあるんです」


霧は煌に朱鷺を殺したいかと聞かれたことや今の自分では殺せないと言われたこと煌と話したことを詳しく伝えた。


「煌様は私を変えるといい私もそれを望んでいます」


「霧、私達は家族だ、それは絶対に変わらないよ、好きなように生きればいい」

「っ……私は…煌様に仕えたいと思います、でも千歳さんと雀さんは」

「きゃ!!」

「!!」


千歳が大きく腕を開き、急に雀と霧を抱きしめた。


「一緒に居られるんだ、それだけで私は何も望まない」

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