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土地域

白煙の上る灰色の空の下、煌達を乗せた車が土地域に向かって走り出した。


「どんな所かしら」


雀は火地域を出るのが始めてで、興味深そうに窓の外を見ている。


「動物がいるよ、可愛いのは、ひよこかなぁ」

「ひよこ」

「ひよこですか」

「……」


三人はヒヨコを見たことがないようで想像を巡らせていた。


「お菓子とかに使う卵の中にいてね、黄色くて小さいの」

「たまごの中」

「小さい」

「黄色」

「見せてあげるね」


三人は楽しそうに笑っている煌に頷く。

しばらく、動物の話で盛り上がっていると煌が車の横を火地域の方向に何か通り過ぎたのに気がついた。


「!……今」

「どうかしましたか?」


もう一度、外に煌が目を向けると車のすぐ近くを金色の髪の少年が馬を操り走り去った後ろ姿が見える。

顔は見ることは出来なかったが煌と同い年ぐらいで少年の後ろを次々とついていく子供達の姿もあった。


「っ、運搬車が狙いか」


煌が呟いた時、黒の瞳に長い黒髪を後ろで結った鬼の少女が馬を走らせながら窓に銃を向けた。


少女からは車内は見えないはずだが、安全装置を外し子供とは思えない形相で睨み、引き金を数回引く。


「死ね、死ね、死ね!!」

「おい、なにしてる!!、勝手なことをするな!!」


緑色の髪をした少年が焦った様子で少女を怒鳴る。


「無駄だって」

「うるさい!!」


少女は静止の声も聞かず込められた銃弾が無くなるまで放ち続ける。

しかし、特殊加工された車には痕すら残らない。


「もういいだろ、アイツが待ってる」

「いつか、っ、いつか絶対に殺してやる!!」


憎しみを込めた呪詛の言葉を吐き去って行った。


「起動しろ」

「おヨビですカ、キラ様」


煌が冷たい声で呟くと車内に機械音のような声が響いた。


「車のスピードを上げろ、火地域から恐らく三、四キロ地点に反乱分子」

「カシコマリマシタ、タダチニ火エリアへ警告ヲ出シマス」


車のスピードが上がり窓から見える景色の流れが早くなる。


「それと土地域へ、今日の運搬車を全て停止し現時点で出たものは戻らせろと通達……以上だ」

「カシコマリマシタ」


「皆、大丈夫?」


煌を見つめ放心している三人に声をかける。


「はい」

「えぇ」


霧と千歳は煌へ反応したのだが雀はまだ放心した様で窓の外を見ていた。


「雀ちゃん?」

「ぁ、煌様」

「大丈夫?」

「はい」


煌が雀の手を心配そうに触れると少し青い顔で微笑んだ。


「……ごめん」

「煌様」


小さな声で呟いた煌の声は隣に座っていた霧にだけ聞こえていた。


「……貴方は何も」

「霧?」

「いえ」


悪くない、と霧は言いかけ曖昧に笑う。


「霧……ありがと」

「?、どういたしまして」


不意に煌が嬉しそうに笑うと霧は不思議そうに見つめた。



土地域に近づくにつれて灰色の雲が薄らぎ雲間から太陽の光が漏れ始める。

やがて太陽が堂々と浮かび雲一つない青空になる頃には土地域の最初の扉が見え始めた。


最初の扉を抜けると貧困層地区へと入る。

貧困層地区は貴族以外の人々の家と運搬車を止める為の駐車場になっていた。

多くの運搬車が止まり、車の周りを屈強な男達が慌ただしく動き回っている。


「僕、少し降りてもいいかな、霧達は車の中にいてくれていいから」

「お供します」


霧の言葉に千歳と雀が頷いた。

霧が車のドアを開けると車内に冷気が入る。


「ふふ、皆、大丈夫?」


寒さに顔を歪めた三人を煌が笑った。


「煌様!!」

「おかえりなさい!!」

「皆、おつかれさま」


煌に気づいた男達が手を止め集まってくる。

煌が手を振ると男達が嬉しそうに振り返した。


「……あの煌様、後ろの方々は」

「霧と、その叔父さんの千歳ちゃんと奥さんの雀ちゃんでーす、仲良くしてね」

「よろしくお願いします」


「この方が霧様」

「雀様……可愛いな」


「皆は積み荷の確認?」


煌が見上げ聞くと男達が罰が悪そうに俯いた。


「煌様から、今日の運搬はねぇって通達があった後」


その中の一人が言いづらそうに話し始める。


「志郎様が予定通りに運べって……その」

「そう、おかしいなぁ、志郎への通達、間違っちゃったかな」


おどけて見上げると男達は安心した様子だ。


「僕が、ちゃーんと言っておくから皆はお休み、いつも、ありがとう」


首を傾げ愛らしく笑う煌に男達は頬を染める。


「それじゃ、明日も、よろしく」


煌は男達に手を振ると貧困層地区を後にした。

次は中流階級地区に入るため二回目の扉を抜ける。


「ひよこ、見てく?」

「見たいです!!」


三人が揃って声をあげた。

中流階級地区は巨大な温室と牧場がある。

車から降りて牧場の方へと向かうと牛や羊が放牧されていた。


「白と黒ですね」

「あれは牛、ミルクがでるんだよ、今度、一緒にやってみる?」

「是非」


霧は牛を興味深そうに見つめている。

煌が牛について軽く説明すると霧が真剣に頷いた。


「もこもこ……ですね」

「あれは羊、毛で服とか作れるんだよ」

「すごい」


千歳は羊を凝視し触りたそうにしている。

霧同様、煌の軽い説明に真剣に頷く。


「ひよこ、この建物の中にいるんだ」


煌が雀の手を引き、中へ入ると鶏とヒヨコがいた。


「こっちのが鶏、卵を産むの、これがひよこ」

「小さいですね」

「本当に黄色い」

「まぁ、かわいい!!」

「触る?」


煌が掌にヒヨコを乗せて三人に見せる。

ピヨ、とヒヨコが首を傾げた。

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