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火地域

「千歳ちゃん、大丈夫?」


千影の姿がなくなり霧に手を借り千歳は立ち上がると弱々しく微笑んだ。


「ぁ……千歳さ、ま」


千歳を心配そうに呼んだ雀の体は震え、顔色も悪く苦しげな様子で胸を押さえている。


「雀、私なら平気だよ、ほら……ゆっくり、深呼吸」


千歳が雀を抱きしめ背を擦ると落ち着いたのか体の震えが止まった。


「少し休んだ方がいい」

「で、でも、千歳様……」


「僕のことは気にしないでいいよ」


気遣わしげにこちらを見る雀に煌は微笑むと安心した様子で千歳に手を引かれ部屋を出ていった。


「冷めちゃったね」


歪で焦げたホットケーキを見つめ呟くと霧は無言でフォークを掴み、一口大に切り取ると頬張る。


「おいしいです、煌様」

「ぁ」

「……煌様?」


名前を呼ばれたせいか、お世辞でも美味しいと言いがたい歪な焦げたホットケーキへの優しい感想のせいなのか、煌を照れくさいような落ち着かない気持ちにさせる。


「……私にも頂けますか?」


冷たくて甘くほろ苦いホットケーキを二人がつついていると千歳が戻ってきた。


「はい!!」


煌はフォークに一口大にしたホットケーキを刺し、千歳に渡す。


「ありがとうございます、ん~、おいしいですね」

「……雀ちゃん、苦しそうだった、大丈夫かな」

「大丈夫ですよ、ただ雀の体は少し、この地域に合わないようで」


この地域、煌は千歳の言葉から白煙と貧困層地区でガスマスクをつけ歩く人々の姿とマスクをせずに歩く中流階級地区の人々を思い出した。


「あの煙に何か?」

「人体に影響を及ぼす毒が混じっています、中流階級地区は空気を正常に保つ機器が整備されていますから大丈夫ですよ」


大丈夫と口にしている千歳の表情は苦々しく煌に笑みを浮かべていた。


「でも雀は……人より毒の影響を受けやすくて、中流階級地区に移ってから体の調子が良くないみたいなんです」

「それは私のせいで、上流階級地区から」


霧が悲しげな表情で眼帯を押える。


「私も雀も、お前を引き取ったこと後悔なんてしない、それどころか幸せだったよ」


千歳の笑みと霧の表情から煌は理解する中流階級地区は機器が設置されてはいるが完璧ではなく、そして貧困層地区ではなんの対策もされていないだが、朱鷺の住まいがある上流階級地区だけ対策が完璧になされているのだろうと。


「でも……私がいなければ」

「っ、霧……どうして」


名前を呼ばれ霧は悲しげな瞳のまま煌に視線を向け眼帯を外した。

眼帯が外れ露わになった瞳の色は漆黒。


「私の母は……」

「……鬼なの?」


左右違う色の瞳は両親の瞳の色を受け継ぐ。

そして、黒い色の瞳は鬼しか持たない。


「は、い」


黒い髪と瞳を持ち、どこの地域にも住むことを許されず敵とされる者。


「私は貴方に、煌様に選ばれる資格がありません」


紫と黒の瞳に煌が映る。


「もう選んじゃった」


紫と黒の煌を映した瞳が反らされる。


「取り消して下さい」

「霧、なんてことを」


千歳が焦ったように霧を咎めた。


「嫌」

「お願いします、私はもう誰にも迷惑をかけたくないんです」


寂しそうに呟き、悲しげな瞳が揺れた。


「……」


煌は身体を霧の足の間に滑り込ませると両手を伸ばし頬を包んだ。


「霧」


頬にある手は少し冷たい。


「!!」


霧が目を見開き、煌の姿が映し出される。


「やっと名前、呼んだと思ったのに取り消してとか迷惑だよ?」

「っ!!」

「僕は霧の眼、好き」


こちらを見上げ反論は許さないと微笑む煌の姿は美しく酷く愛らしい。


「お前の眼は誰にも媚びない、美しい眼だ」


煌は愛おしそうに霧の頬を親指で撫でる。


「煌様……」

「僕はお前を離さない」

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