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その1

書いていくうちに手探りでストーリーを創っています。構成という意味では時々おかしいとお思いになることもあるでしょうが、ご了承下さい。また、リアルな描写がありますがあくまで全てフィクションです。

昼下がりのいつもの風景である。

「お〜い!電話が鳴ってんぞ!早よとれよ!」

「はい!ただいま」

電話に出る係はこの部署で一番若い木下の仕事だった。

「はい、産業振興課です」

「あのなあ・・あんたとこがやってる3丁目の工事どないなっとんねん」

「と、申されますと?」

「あんたとこの工事のせいで庭の花がかれてもうたやろうが」

「そうですか・・申し訳ありません」

工事のせいで花が枯れるなんてことは有り得ないことなど専門知識のない木下にもすぐにわ

かった。しかし、市民からのクレームには下手に言い訳するより相づちを打てと先輩から口

酸っぱく言われていた。

「どないしてくれんねん!弁償せえや!」

相手は少なくても50過ぎぐらいのいかにも「河内のおっさん」という感じの中年男性だった。

「そう申されましても私どもの方としましても・・」

「つべこべ言わんと弁償してくれたらそれで住む話ちゃうんか」

この手の輩は、嵐が通り過ぎるのを待つように馬耳東風と聞き流すのが最適である。延々と

この輩の説教は続いた。気付いたら30分は経っていた。

「もうええわ!」

そう痺れを切らして電話を切った。こうゆう輩は、大体無職で生活保護を受けてるか定年退

職し年金生活でやりくりしている人間が殆どである。文句を言うことはできても、法的手段

に出る事などは経済的に不可能である。木下からすればこの数年の経験でそのことも熟知し

ていた。

「おい!木下!平田公園の現場に行ってくれ」

「はい」

仕事という仕事は全て木下に押しつけられていた。その間先輩は漫画やスポーツ新聞を読ん

だりして長い休憩を楽しんでいる。中には居眠りしている者もいる。

(いいなあ・・この人たちは・・俺にはいつサボり権が与えられるんだろう)

忙しいのは予算を使い切らなくてはいけない年度末だけである。先輩達は監視も厳しい、そ

の時期だけ一生懸命働けばいい。近年、公共工事の削減も重なってますます年々その傾向が強くなっている。一般企業なら会社を潰さないためにしゃかりきになって仕事を獲ってきて、リストラの対象にならないように一生懸命働くが、公務員はよっぽどの事がなければクビになる心配もない。触らぬ神に祟りなしの精神で定年を待てばいい。


いつものように渋々現場に着いた。今回の仕事は公園の改修工事である。現場の造園屋はこ

の8月の猛暑日に暑苦しい作業着で文字通り汗水垂らして働いている。木下はこの姿をクー

ラーの効いた部屋でくつろいでいる連中に見せてやりたかった。見たところで、「がんばっ

てるなあ」ってぐらいしか感じないだろうが・・彼らには「感じる」っと言う神経が極端に

麻痺している。

「ああ木下さん・・お疲れさんです」

お得意さんの山本造園の現場主任の宮田であった。自分より2倍以上年上なのに低姿勢で接

してくれる。

「お疲れ様です。そういえばフェンスはまだ入らないんですか?」

「ああフェンスは最後ですわ。でも絶対部外者は入れんようにしますさかい」

「それならいいんですが」

特に意味はない。思いつきで物言ってこの工事のことを100%知っているふりをすればいい

のである。

「この図面でいいですやろか?あと遊具の保証書とかももう渡しときますわ」

4、50ページはある分厚い本のような図面付きの書類を渡された。

一通り現場を視察して、

「そろそろ失礼します」

そう言い残し、平和な町のお巡りさんのように現場を去る。

帰りにさっきのクレームのあった3丁目の工事現場を覗いた。水路の工事をしているはずだ。

しかし、現場には誰もいない。ドリルなどの道具も、ハツったコンクリート片も放置したま

まである。すると、60代前半ぐらいの男性が何か言いたげに木下を見ていた。

「あんた役所の人かいな?」

やたら馴れ馴れしい。昼間だというのに酒の臭いがぷんぷんする。

「はい。木下と申します」

「ここで工事してた奴らなあ。文句言ったったらへそ曲げて帰りよったわ。根性あれへんわ」

この男の工事現場の連中との武勇伝は30分続いた。この男は工事現場から4軒先に住む原口という名前らしい。この工事はほんの半日で終わる工事であり、そんなに騒音もないはずで

ある。

「すいません!仕事があるんで失礼します」

何とか強引に逃げ切った。


 役所に帰ると、原口と喧嘩した業者の説得に追われた。

「何とか仕事に戻って下さい!今からやれば今日中に終われますし」

「あほ言うな!お前らがあのおっさんと話つけとけへんからこうなったんちゃうんか?」

「一応連絡は行ってるはずなんですが・・ここはまあ穏便に・・」

「あかん!あのおっさんどうにかするまで仕事には入らん」

「わかりました・・じゃあ今日やってくれたら今日の分の支払いを今月中にします」

「ほんまかいな!それやったらやったるわい!あんなおっさんがつんいわしたるわ」

建設業者というのは得てして、頑固で子供じみた人間が多い。すぐに駄々をこねるが「アメ」

を与えたらすぐに機嫌を直す。資金繰りが大変な中小企業からすれば、一日でも支払いが早

い方が有り難い。こういう手法も先輩直伝の”公務員マニュアル”である。


 夕方定時になると先輩が続々と帰っていく。毎日きっちり同じ時間にタイムカードを押して

帰っていく。木下だけは一日の報告書と仕事の契約書の仕上げがどっさりと残っている。何も

木下が要領が悪いわけではない、体育会系の習わしに従ってやっているだけである。そんな決

まりは無いのだが・・

 ようやく当たりが真っ暗になった頃仕事が終わる。週に3回は先輩の分もタイムカードも

押さなくてはならない。いわゆる”カラ残業”である。












自分は公共工事に関わる仕事をしているのでその体験を元に書いて見ました。これから今までのような”お役所仕事”ができにくい世の中になり、公務員の待遇というのも大きく変わろうとしています。一般の方にはわかりにくい業界であるので是非知って頂けるきっかけにしたいと思います

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