今日は女の子の日だから
小学校の音楽室で向かい合う二人の生徒。
一方は背の高い男子でもう一方は小柄な女子。
「ごめん。今日は女の子の日だから……また今度ね」
音楽室の中は防音されていて自分の言った言葉が消えてしまうような感覚になる。しかし相手にはちゃんと伝わったようで目の前の男子は不満そうに拗ねている。
「そんなこと言って昨日もそうだったじゃんか……」
「だってこればっかりはしょうがないじゃない……」
気まずい沈黙が流れる
「ごめんね。もう少しで終わると思うから。そうしたら……ね?」
「わかった。終わったら絶対だかんな? 俺が一番最初だぞ?」
顔を真っ赤にして目を逸らしてそう言い放つ男子に鼻頭を掻きながら出来るだけ申し訳なさそうに気を使って言う
「あーごめん……最初は光君と約束してて……」
「えー! また光かよ! お前らいつも一緒なんだから良いじゃん!」
予想通り目の前の男子は不満を隠さずにそう言う
「いつもって訳じゃないよ? 今はダメだし……それに約束だし……」
「でも……」
ガチャーー
「あ! ケイちゃん見っけ! 何してるの? まってたのに来ないから探しちゃったよー」
後ろからドアが開く音が聞こえ、続いて女の子の声が聞こえて目の前の男子の声を遮る。
声の主は絢香ちゃん。栗色のストレートヘアで前髪をパッチンで止めている。今日は向日葵のパッチンだ。
「あら? Xじゃない? なにしてんの?」
「Xじゃねーし! 駆だし! なんでもねーよ! じゃぁな!」
目の前の男子はそう言って一度コチラを見て名残惜しそうな顔をした後にフンと鼻をならして行ってしまった。
「何あれ? ほらほら! 今日は私と遊ぶ約束でしょ? 早くいきましょ! あ、もしかしてそろそろ女の子の日終わりそうなの?」
そう言って手を引っ張り振り返りつつ尋ねる。
「あ、うん。たぶん明日か明後日には……」
月曜日からだったから後二日ほどだろうと当たりをつけて応える。
「えーもうちょっと! ねぇダメ……なの?」
「うーん。こればっかりはボクには何とも……」
女子では一番仲良しの彼女にそう言われるとちょっと寂しいが、こればかりは神様に聞いてみないと解らない。
というかむしろ説明してほしいのはこっちの方だ。
『ならば説明してやろう』
「え? 絢香ちゃん何か言った?」
「うん! もうちょっと一緒にいたいな……って?」
どさくさに紛れてちょっとニュアンスを変えて言い直した後「キャッ」と言って頬に手を当ててテレる絢香ちゃん。
「いや、その後。説明がどうとか……」
あえて言い直しには触れずにちょっと混乱しながら説明を試みるが、目の前の絢香ちゃんはキョトンとしている。
「幻聴……?」
「ケイちゃん大丈夫? 具合悪いの?」
心配そうな顔でコチラを伺う絢香ちゃん。
「あ、ううん。ごめんね大丈夫だよ。いこっか!」
「あ……」
おでこで熱を測ろうとした絢香ちゃんをそう言ってかわすとちょっと残念そうな顔をしていたが、絢香ちゃんはクラスで一番可愛いので女の子同士とは言ってもドキドキするので困るんだ。
体調におかしなところはないし耳鳴りや頭痛もしない。
力こぶなんか作ったりして元気をアピールする。
しかし何だったんだろう今の?
ぐるッと見回しても何処にも誰も居ない。
耳を澄ましてみても何も聞こえない
気を取り直して絢香ちゃんを振り替えって笑顔で手を伸ばす。
「気のせいだったみたい。行こっか」
「! うん!」
一瞬顔を赤くしたがすぐに頷いてボクの手をとる。
横に並ぶと恋人のように手を絡めてきてドキッとする。
「! あ、絢香ちゃん?」
「へへへー……今日だけ! 明日から普通に戻るから……ダメ?」
真っ赤な顔で目端に涙を浮かべて上目使いでそう言う絢香ちゃんは可愛いだけじゃなくて、なんと言うかとってもドキドキして止まらなくなり気付けばボクも手を握り返していた。
「ビックリしただけ。ダメじゃないよ……一緒に帰ろう」
「うん!」
昇降口を出ると夕日が空を赤く染め、風が少し冷たくなっていたので二人で一層くっつきながら家路を急いだ……。
『いやいやいや! 説明させろよ! 家路を急いだ……。じゃ何も解らないじゃん! 続くんでしょ? え? まじでこれで終わり? ちょ! ま……』