第八話 朝食
「お待たせ」
二宮が来た。手には朝食を乗せたお盆を持っている。てっきり台所に行って食べるものかと思ってたんだが……
「…ありがとうございます」
そのお盆を受け取った。
「じゃあ、10分後くらいにまた来るね」
二宮がドアを閉めようとした。え?二宮は⁇
「あのっ! 二宮さんは食べないんですか?」
「僕は台所で食べるよ」
笑顔でそう言うと鍵を閉めて行ってしまった。…ここは刑務所か!
取り敢えずお盆を床に置き、朝食を見下ろした。どれも作り立てのようでしっかりと湯気が立っている。湯気と共に漂うおいしそうな香り。白米、味噌汁、鮭の塩焼き、卵焼きその他……すげえウマそう‼︎
なんせ昨日の昼以降何も食べてなくかなり腹が減っていた。もう何でもいいから食べたい気分だった。
「…久しぶりの朝食だな」
母さんはいつも早朝から仕事で朝食は作ってもらえなかった。別に自分で作ってまで食べようともしなかったから毎日朝食抜きで生活していた。まさかこんな典型的な朝のメニューをこういった形で食べる事になるなんて…
味噌汁のお椀を持ち、一口飲む。
…やっぱウマい!空腹なだけあっていつもより何倍もおいしく感じられた。どんどん箸が進む。
「あーおいしかった!」
5分程で一気に完食した。どうせならおかわりもしたいくらいだ。
…どうやら二宮は料理も出来るらしい。顔が良くて力強くて料理が出来るお金持ちって……完璧過ぎるだろ。本当、こんな事する奴だなんて知らなかったら尊敬出来るような人なのに。
脅し、爆弾、暴力──。二宮にされた数々の行為が頭を過る。ヤバい、怒りと恐怖がふつふつと蘇ってきた。俺はこんな奴に人生を壊されてしまうのか?こんな…見ず知らずの男に!
「ちくしょー…」
どうしようもできない悔しさがにじむ。これから俺はどうなるんだ……
「大体この爆弾だってどうやって埋め込んだんだよ! あいつ本当に医療関係…」
「食べ終わった?」
ドアの奥から二宮の声。ヤバい、一人言聞かれてたかも。
「は、はい!」
返事をするとドアが開いた。
「朝食どうだった?」
二宮がお盆を手に取りながら尋ねる。
「…おいしかったです」
「良かった」
二宮が笑みを浮かべた。やはり普通にしていれば優しくて良い人に見えるのに…恐ろしい奴。
「聡君歯磨きしたい?」
「あ〜そうですね」
そうだ歯磨き。こいつは俺の服を用意していたくらいだから歯ブラシもおそらく用意してあるはずだろう。
「歯ブラシ用意してあるから。白いコップに入ってるのが聡君のね」
やっぱり。
「じゃあ一緒に歯磨きしたら家の荷物を取りに行こう。その前に皿洗いしてくるから待っててね」
二宮がいつものように立ち去った。
ってオイ‼︎ また待つのかよ面倒くせえ!そんなに勝手に動き回られたくないのか⁉︎
…そんな心の叫びを訴えられるはずもなく、ただ何もない部屋でひたすら待つだけだった。